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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病
9/125

九幕

「底辺貴族が、私にこんなことをしてタダで済むと……」


 パリンッ 足下にガラスの破片が散乱する。男の威勢は雀の涙にも及ばなかった。


「リ、リ、リアナ皇女…… ど、ど、どうして…… ヒッ!」


 隣から伸びた手がルーティック侯爵の腕を掴む。それは、自身が上級貴族であることを疑うほどの握力であった。


「貴様…… 誰に向かって底辺貴族だと言った」


「オ、オルディボ閣下。ち、ち、違います。まさか、リアナ皇女だとはこれっぽっちも…… その、そのですから。私はこの男に対して底辺貴様と言ったわけで」


 ルーティック侯爵は辺りをキョロキョロと見渡す。しかし、誰一人として目を合わせようとする者はいない。全ての視線は姫に集中する。


 おかしい…… おかしい…… こんなことがあって良いわけない。なんで、予定では皇族は一緒に登場されるはず。ルーティック侯爵の焦りが表情に現れる。


「謝罪ならいくらでもします。ですから、どうか手を離してください」


 まずい…… まずい…… 万が一、皇族に怪我でもさせようものなら……


「リアナ皇女、どうか今回は私の無礼をお許しください。この恩はいつか……」


「もう…… 急に掴んだりするから、腕痛めたじゃない」


 え…… 姫は手首あたりをそっと撫でた。護衛の合図で兵士達がルーティック侯爵を囲む。構えられた銃口が四方八方ルーティック侯爵の頭部に狙いを定めた。合図一つで、頭が消し飛ぶオルディボの眼が無言でルーティック侯爵にうったえる。


「お、お待ち下さいオルディボ閣下。これはあまりにも酷な話です。私とて、リアナ皇女だと知っていれば、このような無礼は決して…… そう。会場の方々に聞いてみるといい。失礼ながらオルディボ閣下の判断にミスがあったと考えるしか。それに、今回の事故はあくまでも仕方のないことで……」



 トンッ トンッ 何者かが階段を降る音が響く。階段……

 



「"ほう。面白いことを言うなルーティック侯爵。仕方のないことか、これは詳しく話を聞く必要があるようだ。そうは思わないかオルディボ"」


 

 護衛は握っていた腕をそっと手放す。


 「銃を下ろせ」その合図で兵士達は一斉に銃口を地に向ける。豪華なコートに無数の勲章、長髪に整った顔つき、威厳のある透き通った声、その全てが男の地位を象徴しているようだった。


「お父様……」姫が呟く。会場に緊張が走る。


「こ、こ、皇帝陛下! ああ、私に弁明の余地を与えてくださり感謝の限りです。まったく、この男ときたら侯爵ともあろう私に弁明の余地も与えず、銃口を向けるなどと愚行極まりない! この男にこそ懲罰が妥当でしょう。陛下もそう思われていると……」


「どこにいるかと思えば既に会場にいるとわな。久々だなリアナ。随分見ないうちに成長している。少し髪も切っているな、良く似合っている。会えて嬉しいよ」


 皇帝はルーティック侯爵に目もくれず、姫との会話を楽しむと僅かにワインを口にする。


「あの…… 皇帝陛下。私は……」


「それで、これは何の騒ぎだオルディボ。せっかくの社交界だというのに、会場が静かすぎるではないか。害虫でも紛れ込んだか」


「いえ。リアナ皇女に怪我を負わせた無礼者がおりましたので、私が即座に拘束すべきだと判断しました」

 皇帝は、一人の使用人に助けられているコライ準男爵に視線を移す。


「そうか。それにしても、今日は随分と楽しんだようだなルーティック侯爵。相当、浮かれていたようだ。まったく、酒は嗜む程度が最良だと言うのに…… 二人を更衣室に案内してやってくれ。そんな格好でいられては困る」


 皇帝は幾つかの兵士に指示を出す。兵士達は言われるがままにルーティック侯爵とコライ準男爵を会場の外へ案内する。勝った……


「ああ、皇帝陛下なんと感慨深いお方だ。すぐに礼装を整え戻ってまいります」


「自分を皇帝陛下が心配なさってくれている」そう言いたげな表情で会場を一望するルーティック侯爵。そんなルーティック侯爵を背に皇帝が口ずさむ。


「マブロイは別室へ案内してやれ」皇帝はワインを口に流し込む。


「あなた、会場の皆さんへの挨拶がまだですよ。あまり待たせてはいけません」


 一つ遅れて皇后イザベラが階段を降る。やはり、服は豪華なモノだった。


「そうだな。リアナ、お前も着替えてくると良い。スカートが汚れている。多少遅れてもかまわないオルディボ、道中の護衛をしてやれ」


 皇帝はあまり興味がないのか会場から一切視線を逸らすことをせず、護衛の男に命令をだす。その表情はいたって穏やかであった。


 一足早く会場を後にする姫と護衛。退出の際の一礼を欠かさず行う。

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