第八十一幕
もしかしたら、いままでのエピソードを加筆していくかもしれません(誤字の訂正やストーリー上の補正など)。現ストーリーには影響が出ない様にしますので、理解のほど、お願いします!
「二分……」
皇帝は、懐中時計を手に取る。
「私が、お前のために費やせる時間だ」
懐中時計を閉じると、皇帝は、それを懐にしまう。
「何が分からない。いや、違うな…… "どこまで知っている?"」
互いに対峙する様に向き合う二人。姫は、不意に固唾を飲んだ。何…… この、威圧感………… いままで、こんな風に、お父様と向き合って話したことなんて一度も無かった…… 心臓の鼓動がハッキリと伝わる。これが、皇帝陛下…… 我が父…… やっぱり、お父様は…… こうでないと。
姫は、どこか落ちた様子で笑みを浮かべた。
「リアナは、何も知りません。お父様が、全てを知っていますから。リアナは、ただ運命に身を任せるだけで良い……」
「そうだ。お前は、それで良い。何も知る必要など無い。リアナ、それを知っていながら、お前は私に何を問うんだ?」
皇帝は、瞳を鋭くさせた。
「リアナが、お聞きしたいことは一つだけです。お父様! リアナの晴れ舞台、その目で見ていただけますか?」
「……晴れ舞台? たかだか18の誕生祭。私は、それを晴れ舞台とは呼ばない」
皇帝の言葉に、姫は悲壮な表情を浮かべた。
「そうですか…… では、質問を変えますね。お父様!」
姫は、機嫌を良くしたのか和かに微笑んでみせた。
「私の、即位式…… "見られますか?"」
姫の言葉に、皇帝は言葉を詰まらせた。
「それは出来ない。我が母ですら私の即位式を見ることは出来なかったのだから」
べニート・ディクナ。ディグニス帝国前皇帝であり、私のお祖母様。
「そうでしたね…… お父様が18を迎えられてすぐ、お祖母様は…… ところで。お祖母様が皇帝に即位されたのも18の頃だと聞きました」
皇帝は、じっと無言を貫く。
「奇遇ですね。実は、リアナももうすぐ18になるんですよ?」
「それが、どうした」
「お父様は、言いました。次期君主であるリアナは、ただ運命に従えば良いと。分かりませんか? 現君主である、お父様もまた運命からは逃げられないのですよ?」
皇帝は、僅かに間を開けると、ゆっくりと口を開いた。
「リアナ。お前は、どこまで理解しているんだ。一体、どこの世界に自ら王冠を譲る王がいる……」
「譲ってくれなんて、頼んだ覚えはありませんよ?」
その場に沈黙が過ぎる。
「話は、終わりか」
「終わらせたいのでしたら。リアナは、構いませんよ」
皇帝は、徐に懐中時計と取り出す。わずか残された数秒を一秒一秒噛み締める。
「時間だ…… あまり客人を待たせるわけにはいかない。そろそろイザベラも案内を終えて部屋に戻っている頃だろう。リアナ、お前も部屋に戻れ」
皇帝は、懐中時計をしまうと、何食わね顔で姫の横を通り過ぎた。
「分かりました。お時間をいただき、ありがとうございました。お父様!」
姫に、背を向けると、皇帝は歩みを始めた。
さあ、ミーシャ。時間は稼いだわよ。上手くやりなさいよ。絶対に…… 姫は、深く息を吸うと、大きな溜息を吐いた。
疲れた…………




