第七十八幕
——
「…………さま」
薄っすらと視界に日差しが差し込む。ぼんやりとした意識の中、諭すような、あやすような、安らかとした肉声が耳に響く。
「…………お姉様?」
「ッ!?」
ふと、目が覚めた。
「お姉様? もう、朝ですよ?」
ベットに横たわる姫。ご令嬢は、その姿を眺めるとベットから身体を起こした。寝巻きを身にまとい、髪を流した姿で、ご令嬢は、徐に姫の上に覆い被さった。
「さあ…… 頑張りましょう……」
姫は、僅かに乱れた寝巻きを正すと、間を置き、軽い笑みを見せた。
「そうね……」
「ッ!?」
突如、姫はご令嬢を押し倒すと仕返しと言わんばかりに、ご令嬢の上に覆い被った。
「いい? 失敗は…… 許されないからね……」
"トンッ トンッ"
扉を叩く音が二人の耳に入る。
「リアナ様、ミーシャ様、ミリアです。それと、アロッサ、オルディボ様もいらしております」
ミリアの声が扉越しに聞こえる。姫は、身体を起こすれと、ベットに腰掛けた。
「そう、朝からご苦労様」
「滅相もございません。……まず初めに、お二人の着付けを行いたいのですが、中へ入ってもよろしいでしょうか?」
「ええ。構わないわよ。そうよねミーシャ?」
二人は、目を見合わせると不適切な笑みを浮かべた。
「失礼します」
ミリアが先陣を切ると、後に続いてアロッサが部屋へと入ってきた。メイド二人は、素早く会釈を済ませると手慣れた様子で、着付けに取り掛かる。
「あれ? ミーシャ、貴方また、私の服着るつもり?」
「しょうがないじゃないですか。着替えの服を持ってないんですから……」
姫は、ため息を吐くと、やれやれと首を横に振った。
「リアナ様、着付けが終わりました」
「こ、こちらも、ちょうど終わりました……」
「ありがとう。それじゃ…… オルディボ! もう入って良いわよ」
姫が、応えると扉の影から一人の男が姿を現した。
「おはようございます姫様。それから、ミーシャ様も、おはようございます」
「はい。おはようございますオルディボさん!」
ご令嬢が、応えると男は、一枚のメモを取り出した。
「いきなりですが、一つお知らせが。本日、皇帝陛下は、議員方と朝食を採られるようです。皇后陛下は、おりますのでご安心を」
男は、そう言うとメモから目を離した。
「……それだけ?」
「はい…… 後は、特にこれと言って変わった事はございません」
「そう……」
姫は、眉を顰めた。
「なら、いきなり抜き打ちで一斉清掃とかは無いってことよね?」
「ッ!?」
その時、ミリアが聞き耳を立てるように視線を向けた。
「もし、抜き打ちでやるんだったら事前に知っておきたいんだけど……」
「姫様………… 一度、辞書で『抜き打ち』と言う言葉の意味を引いてみてはいかがですか?」
男は、呆れた様子で答えると、続けて応えた。私辞書なんて持ってないんだけど。
「……まあ、仮にそのような事があれば、清掃が終わるまで客間の方で待機していただくことになりますので、それだけは覚えておいて下さい」
「そう…… 分かったわ。ミーシャ、朝食の時間よ。一緒に……」
「すみません、お姉様」
ご令嬢は、突如顔色を悪くすると、腹部を摩りながら応えた。
「昨日から、あまりお腹の調子が良くありません。ですので、本日の朝食は遠慮させていただきます。申し訳ありません……」
「そう…… それは、仕方ないわね。なら、私の部屋で少し休んでなさい」
「よろしいんですか!」
「ええ構わないわ。じゃ、私は行くわね。それじゃ……」
"任せたわよ"




