第六十九幕
少し忙しい時期になってきました。もし、朝に更新が無ければ夜に期待していただければと思います。
すみません!
"コンッ"
鈍い衝突音が僅かに聞こえる。
「あら、案外難しいわね……」
姫は、再び花瓶の小石を手に取ると、狙いを定めた。
"カンッ"
姫の投げた小石が、下の部屋の窓に当たる。しばらく、静観するも反応が無いと分かり再び小石を手に取る。部屋にいるように言ったはずなんだけど、トイレにでも行ってるのかしら?
姫は、小石を握りしめ狙いを定める。
「あれ? 何ですか今の音は? お姉さまッ…… "痛ッ!"」
「あっ………… ごめんなさいね。重力が……」
小石は、不運にもご令嬢の額に命中した。
「だ、大丈夫です。お姉様…… どうされました?」
「いや、ちょっと今から、そっちに行こうかなと思ったんだけど、貴方今、神学の勉強中でしょ? 二度手間になるのも嫌だから終わったか先に聞いておこうと思って」
姫は、窓枠に肘を付け頬杖を付くと、顔を覗かせたご令嬢を見下ろした。
「そうでしたか…… 勉強でしたら、先程終わりましたので問題ありませんよ?」
「そう? なら良かった……」
姫は、ご令嬢としばらく見つめ合うと、ゆっくりと口を開いた。
「ちなみに、今部屋には誰がいるの?」
「ミーシャの部屋ですか?」
ご令嬢は、そう言うと僅かに笑みを浮かべた。
「安心して下さい、お姉様。今この部屋には私一人しかおりませんので。他の方々には、外で待機してもらっています」
ご令嬢が、応えると姫は庭を警戒する様に見渡した。
「話が早くて助かるわ。……それで、本は上手く隠せたかしら?」
「はい! 誰にも怪しまれること無く隠しました!」
「あら、やれば出来るじゃない。ただ、一つ問題発生よ」
「え? 何かあったのですか?」
「ええ。さっき貴方に渡した本なんだけど、最後の方に、もう一枚メモを挟んで置いたの。見たなら分かると思うんだけど、監視役がいなくなった図書館に本を隠すように指示したものよ」
ご令嬢は、思い出したように相槌を打つ。
「それなんだけど。やっぱり無しにするわ」
「どうしてですか?」
「さっき、オルディボ、ララサと一緒に図書館へ向かったんだけど、オルディボが妙なことを言ってたのよね。ララサの寝室の鍵を持っているって、それもオリジナルを。ララサは、鍵を無くしたって言ってたはずよ」
「それが、どうかしんですか? 普通に、あの人が無くした鍵をオルディボさんが持っていただけなのでは?」
「その可能性もあるでしょうね。ただ、どうしても腑に落ちないのよね。お父様は、司書が管理する地下室ですら代えの鍵を持っていた。もし仮によ? 仮に…… お父様が図書館の鍵をもう一つ持っていたなら、いつでも図書館に入れるなら。……いや、もう、とっくに侵入しているなら……」
姫の、表情が固く強張る。
「侵入って誰が……」
「秘密警察よ。兵士がいなくなった今、一番動きやすくなったはずよ」
「でも…… あの人、大公妃なんですよね? そんな人の部屋に勝手に許可なく入るなんて、いくら皇帝陛下でも……」
「出来るわよ。私にだって出来たんだから」
特別許可証。
アレさえあれば、本人の同意なく中へ入れる。いくら何でも出来すぎてる。兵士もいない、監視役もいない、でも図書館の鍵だけはある。こんなの余りにも都合が良すぎる。
「そろそろ、庭にメイド達が集まりだすと思うわ。今から、そっちに行くから、そこで、また話し合いましょ」




