第六十三幕
「おーー それは、我がオアシスの鍵ではないか! くれるのか?」
「貸してあげるのよ。ただし、一つ質問に応えてくれるならね」
そう言うと、姫は、手の平に鍵を乗せ、腕を前に差し出す。
「貴方、お父様に何を頼まれたの?」
姫が、じっと視線を送る。
「ああ、コレか? ちょうど今、終わったところだぞ。いや〜 もう何年も書庫の整理を忘れとったからな。そろそろ一度、点検しろと言われてな。本の数が合ってるか確かめとったんだ…… ウイっ!」
そう言うと、司書は誇らし気に鍵を掻っ攫っていった。
「そう。大変ね……」
姫は、素っ気なく応える。なるほどね。私の知る限り地下の鍵を持っていたのはララサとお父様だけ。そして、昨日お父様から私へと鍵が渡った。あえて鍵を渡すことで私が地下室に本を隠すように誘導した。私が、思惑通りに動いていれば鍵を唯一所持していた私が犯人だと特定される…… 図書館の鍵も同じだと思う。
とりあえず図書館と地下室には、もう本は隠せないわね。
「では、仕事も終えたことだしな。私は、ここで失礼するぞ」
「待て!」
すれ違い様、男が、司書の肩を掴む。
「どこへ、行くつもりだララサ」
「どこだと思う?」
司書は、僅かに笑みを浮かべた。
「司書の私が何処へ向かうと思うんだ?」
「まさか、図書館へ向かうつもりなのか?」
「なんだ、その言い方は? 貴殿は司書をなんだと思っとるんだ? "アッ?"」
「……奇遇だな。私も、同じ質問をしようと思ってた」
男は、そう言うと、肩に当てた手を、そっと降ろした。
「すまんなララサ。ただ少し事情があってな。現在、宮殿内には、ほとんどの兵士がいない。図書館に入るには監視役が必要だが、その監視役がいないんだ」
「なん…… だと……」
司書は、思わず膝から崩れ落ちる。
「では、図書館には行けないというのか………… 司書なのにかッ???」
司書が呆然と膝を突く中、男が笑顔で、そっと手を差し伸ばした。
「何をそんな落ち込んでおられるのですか…………」
男の言葉に司書が、ゆっくりと顔を上げた。
「私が、いるではありませんか。ララサ大公妃…………」
司書が、瞳を輝かせる。
「"オルディボ………… 閣下…………"」
"ガチャ"
二人を横目に、姫は扉の鍵を閉めた。何アレ……




