第六十幕
「あら、あまり気に入らなかったかしら? なら、こんなのはどう?」
姫は、幾つかページをめくると、一箇所を指差した。
『六月二十七日、ミラノ家宮殿内にて、ミラノ・ミーシャの暗殺を決行』
「これ、昨日……」
「何? 気に入らないの? まさか、貴方、私に恩があること忘れたんじゃないでしょうね? 誰のおかげで、今日、こうして、ここにいられると思ってるの?」
「…………」
姫が、再び本のページをめくる。
『十二月二十五日ベルク王国内で開催されるリアナ皇女の誕生祭当日にて使者によるリアナ皇女の暗殺を決行』
「でも、そうね…… 正直、私一人で考えるのも、ちょっと大変なのよね。だから、ミーシャ? 二人で協力しない? 二人でなら、きっと良い結果が得られると思うのよね……」
姫が、そっとページをめくる。すると、一枚のメモが姿を見せる。
『死にたくないなら私に協力しなさい。協力出来るなら、この本を持って自分の部屋に戻りなさい。絶対に誰にも本を触らせないこと』
ご令嬢は、言葉を発すること無く、姫の瞳を一心に凝視する。
「あれ? ミーシャ様? 何の本を読まれているんですか?」
突如、アロッサがモップを手にしたまま二人に詰め寄った。ご令嬢は、視線を外すと、ゆっくりとアロッサに視線を向ける。
「アロッサ? ミーシャは、今、お姉様とお話ししています。……邪魔しないでいただけませんか?」
「アッ…… す、すみませッ……」
「大変申し訳ありませんでしたミーシャ様。アロッサ、余計なことをしている暇があるなら、早く水を汲み変えて来なさい!」
ミリアが、そう言うとアロッサは即座に持ち場に戻った。
"バンッ"
「お姉様が、そう仰るのでしたらミーシャはかまいません。ただ…… ミーシャも少し自分で考える時間が欲しいです。お姉様? この本、借りてもよろしいですか?」
ご令嬢は、笑みを浮かべると胸元で本を抱きかかえた。
「別に、構わないわよ。"後で、ゆっくり話し合いましょ?"」
「ミーシャ様!」
突如、ミリアが口を開いた。窓の外を、じっと見つめる。
「どうしました?」
「ミーシャ様。外をご覧下さい。隣国のマブロイ王子が……」
ご令嬢は、ベットから飛び起きると、急いで窓際へと向かう。後を追う様に姫もまた、窓の外を伺う。
「アレって……」
「ロイですよ、お姉様! 今日は、泊まっていくと思っていたんですけど…… 帰るなら一言くらい言って欲しかったですよ……」
よく見れば、庭には多くの兵士に囲まれフードを被る男が、こちらを見上げていた。それに対して、ご令嬢は、自らの存在をアピールするかの様に、大きく手を振った。
それを見ていた、ミリアが慌てて窓の扉を開く。
「ロイッ! 帰るなら帰ると、ちゃんと言いなさいよ! さようなら! またね!」
ご令嬢は、いつになく大きな声量で応えた。王子は、ご令嬢に応えるように、ゆっくりと手を振った。
「!?ッ」
しかし、その視線は何故か、姫へと向いていた。
「ま…………るょ…………り…………。」
「ん? 何て言ったのロイ? 聞こえなかったんだけど?」
王子は、僅かに笑みを見せると、何も話す事無く背を向けた。上手く聞こえなかった…… でも、今、私を見てた……
「リアナ様。そろそろ、ベット付近の掃除を始めたいのですが……」
「そうね…… そろそろ部屋を出ようかしら? ミーシャ? 私は、少し部屋を空けるけど貴方はどうするの?」
「そうですね…… ミーシャは、一度部屋に戻ろうと思います! 今日は、神学の勉強がありましたから、遅れた分をやろうかなと思います!」
「あら、良いじゃない。なら、また後で様子でも見に行くわ。またね……」
「はい。お姉様……」
二人は、足並みを揃え部屋の扉を開けた。




