第五十九幕
「……それで?」
「ん? どうか、されましたか、お姉様?」
不意に話しかけられ戸惑い音読を中断する、ご令嬢。姫は、じっと瞳を見つめた。
「来客よ。誰だったの? 随分長く話してたみたいだけど?」
「そんなことありませんよ! その…… 隣国の、ベルク王国から、ロイが……」
「ロイ? ああー マブロイ王子のこと? そんな愛称で呼ぶくらい仲良かったの貴方達? 可愛いじゃない」
「そんなこと無いですよ〜 ただ…… 幼い頃からの仲だったので。その名残です」
「ふーーん」
姫は、ニヤリと笑みを浮かべた。
「……でも十分まだ、幼いわよ貴方?」
「もーー! 意地悪なこと言わないでくださいよ、お姉様! それにミーシャは、もう十分に大人ですよ! 結婚だって出来ますから!」
「あらそう? で? 貴方はなんて呼ばれてるの?」
姫の言葉に、ご令嬢は分かりやすく顔を赤く染めた。
「ミーャ…………」
「ん? なんて?」
「ミーヤ……」
ご令嬢は、細々とした声で応えた。
「ふーーん…… じぁ、ミーヤちゃんはマブロイ王子…… 失礼? ロイくんと結婚するのかしら? 確かに貴方達、昔から異様に仲良かったものね。お似合いだと思う。きっと可愛い子供が産まれるわよ。ねぇ、名付け親は私で良いかしら?」
「もーー…… どうされたんですか、お姉様……」
「別に良いじゃない。それで? どうなの?」
ご令嬢は、モジモジした様子で、そっと聖書のページをめくった。
『貴方、殺されるわよ』
ご令嬢は、言葉を詰まらせた。ページをめくった先には、その文字が刻まれた一枚のメモが何食わぬ顔で挟まっていた。
「お姉様…… これは……」
唖然とする、ご令嬢を他所に、姫は更にページをめくった。
『ここで見た事は誰にも言わないこと。守れるなら次のページを、守れないなら前のページに戻りなさい』
ご令嬢は、思わず姫に視線を向けた。
「…………それで、どうなの? ミーシャ……?」
姫は、真剣な面持ちで、ご令嬢の返答を待つ。辺りを見渡す、ご令嬢。
「えっと…… その……」
「あら、別に嫌なら良いの? 貴方が決めることだから……」
「そうですね……」
ご令嬢は、恐る恐る聖書のページをめくった。
「…………お姉様なら、かまいません」
"バンッ"
すると姫は、突如と聖書を閉じ、引き出しにしまった。
「良かった…… なら、一緒に名前の候補を選びましょうミーシャ。昨日、図書館から借りた本があるんだけど、その中に良さそうな名前が幾つかあったのよね……」
「……そうなんですか?」
姫は、そっと枕元から一冊の本を取り出す。
「コレなんだけど……」
「コレって……」
ご令嬢は、姫の持つ本を一心に凝視する。姫は、ページをめくると中に記された文字を、そっと指差した。
『著作:べニート・サリエフ』
「どう? 良い名前だと思わない?」
「…………はい。…………でも、どうして、この名前が……」




