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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病
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第四十六幕

「ああ…… お久しぶりです皇帝陛下。私のような者に、わざわざ時間を割いていただき感謝の限りでございます」


「当然だ。貴殿は、我が帝国に多大な恩恵をもたらしてくれている。貴殿無しには、帝国はここまで力を得られなかっただろう。座ってくれ」


「ありがたき御言葉、感謝いたします。では、失礼します」


 ルブル公爵は、陛下がソファに腰掛けるのを確認すると後に続くように腰を下ろす。


「それで、ルブル公爵。急ぎのようだと聞いている。早速、要件を聞いても?」


「ああ…… それほど大したことでは無いのですがね。私も領主である側、帝国屈指の軍事産業を担う身でもありますからね。どうしても、早く知っておきたいことがありまして……」


「というと?」


 陛下が尋ねると、ルブル公爵は分かりやすく声のトーンを下げた。


「数日前に、ある噂を小耳に挟んだもので。陛下………… 教皇聖下から何か吹き込まれましたか?」


 陛下は、カップを握る手をピタリと止めた。


「臨時国会が開かれたと聞きましてな。それも、教皇聖下が自ら法案を提出したと。陛下、昨日は教皇聖下と何を話されていたのですか? 噂では、宣戦布告の権限に関する制約だとか……」


「そうだ。既に署名も済ませた。今後は、帝国議会の承認を有することになる」


 陛下が紅茶を一口啜ると、ルブル公爵は、間を空けて応えた。


「それは残念だ………… しかし、困ったな。帝国議会の承認が必要となれば、これまでのように戦火を広げることはできんでしょう。そうなれば、軍事産業で栄えていた我が領地の財源も減る。そうなれば、次回からの納税が厳しくなるな……」


「心配は無用だ。当然、貴殿らの税率は引き下げる予定だ。そうだな、30…… いや、28パーセントで手を打とう」


 陛下が、そう言うとルブル公爵は、ニヤリと不敵な笑みを見せた。


「しかしだ陛下。我が領地からは他の領主とは比べものならんほどの額の税が納められていたはず。当然それが無くなるとなれば帝国の財源はどうなる? 何か、当てでもあるのですか?」


「断言は出来ない。ただ、これからは農産業に力を注ぐべきだと考えている。帝国内の食糧難は過去最悪と言える。帝国内の自給率を高め出来る限り餓死者を減らし、インフラを整え雇用を増やす。各地の復興が最優先だ」


 ルブル公爵は、僅かに考える素振りを見せると、ハッと顔を上げた。


「そうだ。ならば、陛下! 私から一つ提案があります。よろしいですか?」


 皇帝は、「構わない」と応える。


「領商禁忌の令です! 建国当初から存在する、あの勅令を取り消す時です」


 流暢に喋るルブル公爵を皇帝は、冷ややかな目で見つめた。領商禁忌の令。それは、ディグニス帝国建国当初に先代の皇帝が残した永続勅令。この勅令の下では、領主間の貿易や進物のやり取りが禁じられる。領地の物資は、一度帝都に送られ、そこから各領地に分配されるようになる。つまり、現状領地間のあらゆる物流は、全て陛下の下で行われている。


「今や我らが帝国に、友好的な外交をしてくれるような王国は数少ない。ましてや、関税が上げられたことにより他国との貿易も難航している今、こちらが出せる物資も限りがあります。そこで、陛下は農産業に力を入れるべきだと考えられたのでしょう。しかしです! 現在、我らが帝国に、それを成すだけの財力はありません。それが、現実です。予算の3分の2余りを軍費に費やしているのですから無理もありません」


 ルブル公爵は、淡々と見えない現実を皇帝に押し付ける。皇帝は、コップを机の上に置くと、軽く脚を組み替えた。


「ならば、どうすべきか…… そう! 自由経済です。それも、領地間を超えての自由経済です。ご存知の通り我が領地には多くの商人や工場を持つ資産家達がおります。彼らが如何に多額の税を納め我らが帝国に貢献してきたか考えるまでもないでしょう。しかしだ、陛下。現在、我が領地は飽和状態にある。働き手が少ないどころか、造った製品を買う買い手もいない。戦争が無くなり帝国が買い取ってもらえないとなればなおさら…… それに、我が領地は、食糧の殆どを帝都からの分配に頼ってきた。それも年々減少傾向にある。金があるのに、腹を満たすだけの飯がないのだよ! 訳がわからん。仮に、この勅令が消えれば我が領民は、他の領地から人を雇い、新たな地で新たな事業を拡大できます。貨幣の流通が頻繁に行われることで、豊かな者は更に豊かになり多くの税を納めてくれる。わざわざ帝国が経済を支配するより民間に任せる方がよっぽど効率的でしょう。陛下! 充分、帝国は大きくなりました。もう歯向かう輩もおりません。今こそ、帝国を豊かにする時です」


 ルブル公爵は、話に熱が入りすぎたのか、深々と息を吐いた。

 


「"ダメだ"」

 


 皇帝は、淡々と答えてみせた。

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