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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病

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第四十五幕

 今朝、陛下は私に妙なことを尋ねた。陛下とリアナ皇女、私が、どちらの味方なのかと。数年前にも、同じような質問をされたのを覚えている。当時の私は、何も迷うことなく「皇帝陛下」だと応えた。深く考える必要すらなかった。そう思っていた。


 しかし、今の私には、どうにも得体の知れない迷いが、付き纏っていた。


「…………ィボ様ッ!」


 突如と、若い女性の声が耳に頭に響いた。


「オルディボ様ッ! 先程から、ずっとボーっとされてますよ? 体調でも崩されましたか?」


 メイドの女は、落ち着かない様子で、男に詰め寄る。辺りを見渡せば、そこは宮殿外の正面扉の前で、誰かを待ち構えるように突っ立っていた。はぁ………… あまりこの仕事は、やりたくはないんだけどな………… 男は、小さくため息を吐く。


「……申し訳ない。少し、考えに耽ってた。それで、ミラ? あと、どのくらいかかるんだ。もうそろそろ、予定の時刻だろう」


 男が、そう言うとメイドのミラは、声を落ち着かせて慎重に応えた。


「もう…… 見えてきましたよ」


 ミラの向く方へと視線を向けると、一台の馬車と、その周りを取り囲む数人の騎兵が、こちらへと向かって来るのが分かる。


「ミラ。どうか粗相の無いように頼むぞ。…………面倒な相手だ」


「はい……」


 次第に、馬車は距離を詰める。側の庭に停車すると、中から一人の男が姿を見せる。


「ようこそお越しくださいました。ルブル公爵。法務大臣を務めるオルディボと、使用人のミラです」


 男は、一礼を済ますと、挨拶とばかりに手を前に差し出す。ルブル公爵は、顎に手を当てると、淡々と辺りを見渡した。


「皇帝陛下は?」


「…………中で、お待ちです」


「では、急ごう」


 男は、そっと差し出した手を独りでに下ろした。まったく…… これだから、公爵の連中というのは……


「はい。御案内致します」


 男が、そう言うと、背後に控えていた二人の兵士が、扉の錠を開く。ルブル公爵は、自らの兵士達に、待てと手元で合図を送る。


「ルブル公爵。何か、お手荷物でもあれば、ミラへお預け下さい……」


「手見上げなど無い。早く行くぞ」


 ルブル公爵は、妙にも厚かましい態度で、開かれた門の元へと急いだ。


「ミラ。ルブル公爵は、お急ぎのようだ。直接、客間へと向かう。準備を急いでくれ。陛下にも、そう伝えてほしい」


 ミラは、一礼を済ませると即座に宮殿内へと姿を消した。ルブル公爵、旧ハルツ王国王子。我らが帝国にとって、こういう相手が一番やり難い。我らが帝国の、爵位をもつ貴族は、その殆どが帝国に併合された旧王国の君主や、その子孫。その中でも、公爵の爵位を与えられた者は得に別格の扱いを受ける。公爵は、国王時代に帝国から侵略を受けるより前に自ら、同盟国、悪く言えば併合される道を選んだ君主に与えられる爵位。併合といえば聞こえが悪いが、一切自国に損害を与えず、戦争による多額の賠償金を抱えること無く帝国の保護下に加わったと考えれば賢い判断とも言える。だから厄介だ。


 日々の侵略戦争や、多様な民族による分裂を防ぐために、帝国が身を削る中ルブル公爵家は、僅かな税だけで軍事産業により力を蓄えつつある。万一にも、ルブル公爵が帝国からの独立を宣言すれば、更なる独立の連鎖を防ぐため我々は即座に宣戦布告せざるを得ない。当然、我々が勝つだろう。


 しかし、それと引き換えに多くの領地の独立を許すだろう。そうなれば、多くの領地から兵士を集める陸軍は、機能不全を起こす。最悪の場合、反旗を翻す可能性も………… どちらにせよ帝国は終焉へと向かうだろう。


「ルブル公爵。こちらの、部屋でお待ち下さい。もう間もなく陛下が到着されます」


「それは良かった。紅茶を持って来い。喉が乾いた」


「はい。既に中でミラが用意しております」


「そうだったか。なら、早く扉を開けろ」


 ルブル公爵は、あからさまに傲慢な態度を見せた。男は、平然を装うように、渋い笑みを浮かべると扉を開けた。客間は、広々としてあり、向かい合う二つのソファと間にテーブルが一つ設置されている。


「まったく、もう少し柔らかいソファはなかったのか? 腰が痛くてたまらん。それで、お前さん達はいつまでいるつもりだ?」


 ルブル公爵は、そう言うとテーブルに置かれた紅茶を躊躇なく飲み干した。


「失礼ながら私も同席させていただきます。陛下からの命令です」


「フンッ 腐っても法務大臣という訳か」

 


 "ガチャッ"

 


 咄嗟に、ルブル公爵がソファから腰を上げた。


「すまないルブル公爵。待たせてしまった」



 ミラが、部屋の扉を閉じると陛下はゆったりとルブル公爵に距離を詰める。側によると、差し出された手を両手で握るルブル公爵。まるで、別人だ。

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