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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病
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第四十四幕

 しばらく歩くと、部屋の扉が目に入る。姫は、扉に近寄ると、一つノックをした。


「はい。こちら、リアナ皇女のお部屋になります。御用件は?」


 扉の向こうから若い女性の声が聞こえる。おそらく、アロッサの声だと思う。


「私よ。開けてもらえる?」


「…………」


 なぜか、返答が無い。姫は、再びノックをすると扉に問いかけた。


「私よ! 開けて!」


「あっ…… えっと…… では…… 八の二乗はいくつですか?」


「…………ハァッ?」


 アロッサは、突如、姫を試すかの様に問いかけた。姫は、突然のことに首を傾げる。算術の問題かしら? もしかして、本人確認のつもり?


「ねぇ。いちいち、時間を取らせないで。そんなことしなくても声を聞けば誰だか分かるでしょ? 早く開けなさい」


「…………分からない、ということでよろしいでしょうか?」


 もはや、失うものが無いのだろう。アロッサは、まるで忖度をしなかった。何この人、私の顔が見えないからって随分と言ってくれるじゃない。姫は、腕を組むと、その場に仁王立ちする様に振る舞った。


「分からなかったら何?」


 "ガチャッ"


 すると、突然一人でに扉が開いた。若い女は、優しく微笑むように応えた。


「リアナ皇女。どうぞ、中へお入り下さい」


「ちょっと待って。なんで開けたの? ねぇ、今なんで開けたの? 本人確認は?」


 どうやら、本人確認は済んだらしい。姫は、不貞腐れた表情で、部屋の中へと入っていった。舐めんな。


「お帰りなさいませ、お姉様ッ!」


 ご令嬢は、姫の姿を見るや否や、満面の笑みで手を握った。辺りを見渡せば、ミリアにレナード中将、そして一人のメイドが、こちらに視線を向けているのが分かる。


「お姉様? どうされました?」


「ねぇ。何その服? 凄い見覚えがあるんだけど、何で貴方が着てるの?」


 姫は、そう言うとミリアに視線を移した。


「申し訳ありませんリアナ様。どうしてもミーシャ様がリアナ様の服を、お召しになりたいと、仰るものだったので古着だけでもと思いまして…………」


 ミリアは、深々と頭を下げた。よく見れば、ご令嬢が身にまとっていた服が、昔姫が着ていた古着であったのが分かる。


「ふーーん。別に良いけど。あんまり、人の物を勝手に漁ったりしないでよ。で? 算術の勉強は、終わったの?」


「ハイッ! もちろんです。皆さんにも褒めていただけました」


 ご令嬢は、そう言うと満面の笑みを見せた。


「ふーーん。良かったじゃない。でも、ここの使用人達は、よく大袈裟に褒めたりしてくるから、あんまり間に受けない方が良いわよ? それで、実際はどうだったのミリ…… ミリア!?」


 ミリアは、目元を抑えると染み染みと応えた。


「はい………… 千年に一人の逸材かと」


「貴方、それ私にも言ってなかった? で、何がそんなに凄いのかしら」


「はい。僅か一時間足らずで指数関数の概念を理解されてしまいました」


「ふーーん。それで? それの何が凄いの?」


「リアナ様は三ヶ月かかりました…………」


「ところで、ミーシャ? 貴方、語学は得意かしら?」


「エッ?」


 姫は、ミリアの言葉を遮るように尋ねた。


「語学ですか? うーーん。申し訳ありません、お姉様。ミーシャは、あまり語学は得意では無くて………… まだ、八カ国語程しか習得しておりません」


 ご令嬢は、何故か申し訳なさそうに応えた。


「ミーシャ様…… あの若さで八カ国語も……」

「リアナ皇女は三ッ…………」


「ところで貴方、地理学は得意かしら?」


 姫は、二人の専属メイドの言葉を遮ると、ご令嬢に食い付く。


「えっ………… いや、その………… まだ、地理学は習っておりませんので何とも言えませんが…………」


「ふーーん。まだまだね。もっと頑張った方が良いんじゃない?」


 姫は、ニヤリと笑みを浮かべた。


「しかし、リアナ皇女は、地理学は未修だったはず…………」


「リアナ様! 先程からオルディボ様が、遅れているようですが、何か用事でも?」


 ミリアは、どこか不安気に尋ねた。


「ああ…… 少しね。お父様と一緒にいるわ」


「そうですか…………」

 


 "トンッ トンッ"


 

 誰かが、扉を叩く音がした。


「ルカです。紅茶の準備が出来ましたので、お届けに参りました」


 扉の向こうから、ルカという若い女性の声が聞こえた。側にいたアロッサが尽かさず扉に駆け寄ると、何の迷いもなくドアノブに手を掛けた。


「ねぇ、本人確認はしなくて良いの?」


「えっ? 声を聞けば本人か、どうかなんて、すぐに分かりますよ?」


 アロッサは、部屋の扉を開けた。もう、クビで良いかしら?


「あっ! リアナ皇女も、おられたんですね。念の為、多めに持ってきて良かったです。もう時期、昼食の準備も済みますので、今しばらく、お待ち下さい。どうぞ皆様、お好きに持って行って下さいね」


 ルカが、持ってきたお盆の上には、使用人達の分まで紅茶の入ったティーカップが用意されていた。姫が、ティーカップを一つ手に取ると、ご令嬢、使用人と続いて皆、手を伸ばした。


「レナード中将? 飲まないのですか?」


 ルカは、壁に、もたれ掛かる中将の下へ紅茶を届けた。


「そこに置いといてくれ。熱いのは、あまり得意じゃない。後で飲んでおく」


「……分かりました。ここに、置いておきますね。残さないで下さいよ?」


 ルカは、そう言うと優しく微笑みながらテーブルの上にティーカップを置いた。

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