表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病
41/134

第四十一幕

「ねえ、ノワール大佐? さっき、私が見てた本なんだけれどタイトルを覚えてるかしら? 貴方もみてたでしょ。ちょっと忘れたのよね」


「リアナ皇女が最初に手に取っていた本でしょうか? 確か、『明日の彼方』だったかと。それが、どうかなさいましたか?」


 大佐が応えると、姫は徐に本棚から一冊の本を手に取った。ふーーん…… 本当によく見てるのね。


「いや、ちょっと気になったから、確か薄い灰色の本だったわよね? これだけ借りていくわ。ララサ、聞いてる? 明日には返しにくるから良いわよね?」


 姫は、持っていた本を頭上に掲げながら言い放った。二人に背を向けると、何食わぬ顔で出口へと足を運ぶ。


「『明日の彼方』だったか? 分かった、そう記録しておく。遅くとも来週迄には返しておくれよリアナ皇女。若いの、そこを持ってくれ。少し重くてな…………」


「お待ち下さいリアナ皇女!」


 大佐は、突然大きな声を出した。ピタリと足を止める姫。振り返り大佐と対峙する。


「何? 本のことなら、さっき貴方も確認してたでしょ? あまり手間かけさせないでもらえる?」


 大佐は、掲げられた本を、じっと見つめた。


「…………。護衛も無しに出ていかれるおつもりですか?」


「ただ部屋に戻るだけよ。それともなに? 貴方が護衛に付いてくれるのかしら? 私は別に構わないけど。ねえ、ララサ? 悪いんだどノワール大佐は図書館から離れるみたいだから後は一人で好きに…………」


「"いえ!" 私は、ここから離れる訳には行きません。ただ、リアナ皇女の安全を気にかけたまでです。お気を付けて」


 大佐は、本棚の方に一瞬視線を向けると再び作業に戻った。姫は、再び足を動かす。


「おーー! 気が利くな若いの。私のために、わざわざ残ってくれるのか?」


「"違います"」


「そうか………… 悲しいな………… オファール」


「ノワールですララサ大公妃。…………もう、"若いの"で構いません」


 大佐は、呆れたかのように細々とした声で応えた。二人の姿を横目に、姫は扉をそっと閉めると図書館を後にした。


「ハァ………… ハァ…………」


 姫は、途端に壁へもたれ掛かると僅かに息を荒くさせた。胸に抱き抱えた本から鼓動の乱暴さが伝わる。危なかった………… 何とか、取り出せた。恐る恐る、本のページをめくる。


「…………十二月二十六日、リアナ皇女の死亡を確認。"バンッ"」


 思わず、勢いよく本を閉じる。大丈夫………… 大丈夫………… 全部、きっと上手くいくから。今は、とにかくこの本をどこか人目につかない所に隠すしかない。辺りを警戒しながら足早に動く姫。昼の鐘が鳴ってないから宮殿内をうろつく人もいないはず。


 それに、ミーシャ達は部屋にいると思う。なら、どこに隠すべきだろう。また、変な所に隠して回収を困難にするわけにはいかないし………… 


 階段付近に差し掛かった所で姫は隠すように本を強く抱き抱えた。兵士が階段を守っている以上、お父様の部屋に直接戻しには行けない。


 いっそ、窓から落とす? 今なら私が落としたなんて分からないはず。この時間なら落とす瞬間を誰かに見られないだろうし。後は誰かが勝手に拾って、そのまま自滅してくれれば…………


「…………」


 不気味なほどに静かな空間。姫は、不意に足を止めた。


「えっ…………」


 視界には、無防備にそびえる上階への入り口がハッキリと写った。つい、数日前の記憶が蘇る。あの時と、同じだ………… なんで? なんで、誰もいないの? 


「ねぇ? 誰かいないの? ちょっと手伝ってほしいんだけど…………」


「…………」


 無音の時間が流れる。


「本当に、誰もいないの? 今なら、お父様には黙っててあげるから大丈夫よ?」


「…………」


 姫は、左右前後と辺りを入念に警戒した。気づけば、右足はすでに階段の一段目をとらえている。胸騒ぎがする。…………でも、もしかしたら、これが本当に最後のチャンスかもしれない。お父様達も、今は下の階にいるはず。なら、どうす?


 姫の左足が、自然と動き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ