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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病

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第三十五幕

「そこに居られる方は、帝立国会図書館司書兼モンティ家当主モンティ・ララサ大公妃で御座います」


「大公妃…………」


「はい。モンティ家はディグニス帝国が建国される前から、この図書館を代々管理している歴史ある家系です。残念ながら、ミーシャ様が皇帝陛下の直系で無い以上、この帝国内におけるモンティ家とミラノ家の序列は対等であると言わざるをえません」


「私と、対等…………」


「まあ、そういうことだ。ミーシャ殿。そうだ! 私のことはララ姉と呼んでくれて構わないぞ? いや、むしろララ姉と呼んでくれ。ここの連中は愛嬌が無いからな〜 誰も、そう呼んでくれんのだよ」


 司書が、ご令嬢の前に手を差し出す。しかし、ご令嬢はその意図を知って知らずか、じっと手を見つめるだけで、まるで動じない。


「といっても、まだ司書として二年目の研修期間中だ。今は私の管轄下にある。あまり偉そうな態度はとるなよララサ」


 男は、嫌味ったらしく司書に言ってみせた。


「フンッ あと一年もすれば立派な司書として貴殿の管轄を外れることを忘れるで無いぞオルディボ殿。その時は、私の靴をピッカピカになるまで舐めさせてやるわ!」


「ん? お前靴履いてないだろ……」


「"その時だけ履くんだよッ!"」


 司書は、声を大にして応えた。あっ、本当だ。よく見たら履いてない……


「すみませんオルディボ様。一つ、よろしいでしょうか?」


 シスターの女はそう言うと、男の耳元で何かを囁いた。


「その………… 申し上げにくいのですが………… ただ今、牧師様が不在でして………… その、まさか皆さまが礼拝に来るとは思っていなかったようで。先程、出ていかれました」


 男は、思わず眉をひそめた。


「それは、困ったな。シスター・リリー、牧師様のスーツはありますか?」


 シスターが軽く頷くと男は、舞台中心部へと歩みを進める。


「ララサ、そこの席に座れ。その隣に姫様、その横をミーシャ様の順で着席願います。それと………… レナード中将、しばらく扉の前で待機していてくれ。頼む」


 男が、そう言うと、中将は帽子のツバを押さえ無言で扉の前に背をつけた。腕を組み、護衛の男と対峙するように向き合う。なんとも、神聖な場所に相応しくない態度にも見えた。


 でも、これはこれで都合が良い。中将がミーシャから距離をとり、かつオルディボの視界内にある。他に邪魔できる人物もいない。しばらくは、安心ね……


「すまない。待たせた…………」


 しばらくすると、舞台袖に控えていた男が、何やら怪しげなスーツを全身に身にまとい姿を現した。


「ミーシャ様。申し訳ないのですが、本日は牧師様が急用で不在の為、代理として私で進行させていただきます」


 男が、そう言うとご令嬢は何故が瞳を輝かせた。


「お姉様お姉様ッ! オルディボさんって牧師様だったのですか!?」


「知らない」


 姫は、素っ気なく応えた。本当に知らない。


「ご安心くださいミーシャ様。私も昔はよく礼拝堂に通っておりました。ビブラム教の心得はあります」


「やっぱり牧師様じゃないですかっ!」


「じゃ、そうなんじゃない」


「何ッ! オルディボ殿は、牧師様であったのかっ!?」


「そうよ」


 二人は、同時に男へ尊敬の眼差しを向ける。すると男は分かりやすく顔を歪めた。私は、知っている。この男が、少なくとも十五年以上は礼拝堂に行っていないことを。


 思わず、姫の表情から笑みが溢れる。


「期待してみてなさい。何の問題もないはずよ」


 三人が席に着くと、男は演台の前に立った。持っていた、分厚い聖書?を演台の上に置き話を始める。


「遥か遠い昔。唯一神たるビブラム様は、大地から我々人間を創造され——」


 男は、その後も何ページあるかも分からない聖書を一人朗読し続けた。その内容は、誰かも分からないビブラムという神?がいかに凄いかという自慢話をひたすらつづった退屈な作り話だった。これなら、まだお父様の功績をまとめた伝書の方が幾分マシだと思う。


 しかし、そうは思わないのだろう。隣に座っていた司書は両手を合わせながら真剣な面持ちでまぶたを閉じていた。時折、相槌を打つように頭を揺らしている。なるほど、これなら寝ててもバレない訳だ。賢いと思う。


 "バンッ"


 突如、礼拝堂内に響き渡る音。ようやくキリの良い所まで読み終えたのか、男が聖書を閉じる音だった。


「では、皆様ご起立ください。シスター・リリー、ミーシャ様からお願いします」


 男がそう言うと、傍に控えていたシスターが同じような聖書を手に、ご令嬢のすぐ側にまで詰める。ご令嬢は、その聖書を受け取ると慣れた素振りでページをめくった。


「はい。では、読まさせていただきます牧師様……」


 ご令嬢は、そう言うと聖書を読み進めた。聴くに、男が読んでいた文の続きを読んでいるみたいだ。


「では、姫様。続きをお願いします」


「はい! どうぞ、お姉様」


 ご令嬢は、何故か嬉しそうに聖書を両手一杯に手渡す。何が楽しいんだろうか。

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