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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病

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二十幕

 そっと部屋の扉が開かれた。


「これはこれは、ポトラフ聖下。お会い出来て光栄です。直接屋敷に招かれるのは何年振りでしょう。ただ突然のことに、こちらも会談の準備が遅れております。まずは紅茶でも飲まれてはいかがですかな」


「要らぬ」


 老人は言った。老人は全身に白いコートを身に纏い長い髭を生やしている。一件、弱々しくも見えるが、その声は威厳に満ちていた。目の前の脅威に一切動じる素振りを見せず。それどころか、かえってこちらが脅威であるかの様に他方を睨みつける。


「いつまで、そうしているつもりなのだサリエフ。さっさと座れば良かろう。それとも、椅子の引き方すら忘れたのではあるまいな」


 教皇は皇帝に嫌味でも言うかのように畳み掛けた。裏に似た服装をした護衛を何人も抱えているせいか教皇は余裕のある表情をみせる。


「おっと、これは失礼。老人方はせっかちだというのを、すっかり忘れておりました。残された僅かな時間。無駄にしては失礼だ」


 そう言うと、皇帝は自力で話の席に着いた。


「ほう…… しばらく会わない内に、嫌味が言えるようになったのだな。まったく、そっくりに育ったものだ……」


「とこで要件は何でしょう? 私もそれほど、時間を取れるわけではありませんので、出来れば手短に済ましていただきたい」


 皇帝は話をすり替えるように応える。僅か二メートルほどの机を挟み互いが互いを睨み合う。


「良かろう。ワシも、こんな所に長居する気などはなからないのでな。単刀直入に言おう。皇帝サリエフよ。これに、お主のサインを頂きに来た」


 教皇は、懐から一枚の皮紙を取り出すと机の上に置いた。 


「これは?」


「見てわからんか? 法案じゃ。既に議会は通しておる。後はお主の著名をもって採決される。期限は本日未明。もっとも、お主に拒否権などあるまいがな。ワシの忠告を何度も何度も無視したのだ。当然の結果だ。ワシらも、採決されたことを前提に話を進めさせてもらう。異論はあるかね?」


 皇帝は頬杖を突くと、机に置かれた皮紙を手に取る。終始無言のまま文を眺める。


「はぁ…… 宣戦布告の要件を『議会への事前報告』から『議会の承認』へと変更か……。随分と思い切った判断だ。良くもこんな法案が議会を通れたものだな」


「お主の感想など聞いておらん。異論が無いのであればワシらは帰らせてもらう。もっとも、あったとしても聞き入れるつもりは無いがな。余り待たせては信者達が心配する。ではな、皇帝陛下……」


 教皇はそう言うと、席を立った。


「教皇聖下。まさか、こんな紙ひとつ届ける為に、わざわざお越しになったのですか。こんなもの、使者を使えば良いだけは? それとも、他に何か目的でも?」


 皇帝は教皇を見上げるように鋭い目つきで応えた。


「ああ。そうじゃった、そうじゃった。あまりに興味のない事ゆえに、すっかり忘れとったわ。皇帝サリエフよ、お主に報告がある。二日前の日没、プルーフ地域を治めていた領主ミラノ・マルオックが…… 暗殺された。お主でいうところの義理の兄だったか?」


 皇帝は言葉に反応するかの如く、眉を動かした。


「何を今更、白々しい。ワシをお主らのくだらん権力争いに巻き込むな。ワシからすれば誰が皇帝になろうと知ったことではない。ただ、まあ一つだけ朗報がある。いや、お主にとってはそうではないかもしれんがな」


 教皇は嫌味を言うかのように応える。


「今回のミラノ家暗殺事件。どうやら、一人だけ生き残りがいたようでな。ただ、その者は領主としては若すぎるゆえ、領地は別の物に任せワシが引き取ってやろうと、思ったのだが…… どうにも、ここに来たいと言うのでな。連れてきた。お主の親戚だ。構わんだろ。丁度、ワシの部屋がある。どうせ、今日は泊まる気などない。使わせてはやれんかな」


 皇帝は、持っていた皮紙を机に置くと、僅かに口を開けた。


「その、生き残った者の名は?」


 教皇は天井を見上げ考え込む。


「確か…………」


 

 ——「ミーシャ……」



 姫は僅かに呟いた。

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