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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
二章 悪魔祓い

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第十五戦

「あら、リアナ? それは?」


 皇后は、そう言うと姫の手元に視線を向けた。


「こちらですか? ミーシャが使っていたものですよ? 昔、預かっていて、いつ返そうか迷っておりました。今は、遺品に、なってしまいましたが……」


「そう…… 少し見ても良いかしら?」


 姫が、ハンカチを手渡すと、皇后は、それをじっと見つめた。やっぱり、ミーシャは、このハンカチを私達の前では、まったく見せようとしなかった。私は、またまた、それを知っていたけど、お母様は知らない。お父様は、どうなのだろう……


「リアナ。貴方は、今の生活は楽しい?」


 何の質問だろうか。姫は、僅かに考え込んだ。


「はい。何不自由ありません。リアナは、満足しています」


「そう…………」


 皇后は、じっと黄昏るように窓の外を見つめた。何か、思い出に浸っているのか、その瞳を僅かに泳がせた。


「なら、良かった。でも、満足してはいけませんよ。出来ることは、何でもやりなさい。後から後悔が残らないように」


「お母様は、何か後悔していることでもあるのですか?」


 皇后は、軽く微笑むと姫の顔を見つめた。


「実はね。私、昔はワインが大好きだったみたいなのよね。毎日のように飲んではパーティーを楽しむ。それが私の生きがいだった……」


「だったみたい……?」


 皇后は、なぜか他人事のように自分語りを始めた。


「記憶が無いのよ。ある時を境に。それより前の記憶を無くしてしまった。原因は何だと思います?」


「足を挫かれて、頭を打たれたり…… でしょうか?」


 姫は、困惑した。初めて聞く、皇后の過去に。


「違います。正解は…… ワインを飲んだからよ」

「えっ? どういうことですか? ワインは毎日飲まれていったて……」


「なぜでしょうね…… でも、ある日を境に、ワインを飲むだけで呼吸困難になったり、身体中に蕁麻疹が出るようになったの。まるで、呪われたように。稀に起こるみたいなのよね。なんといったかしらアレルギーでしたっけ? ある日突然、特定の食べ物が身体にとって毒になる。触れるだけでも私には危険な物。私は、それが『ぶどう』だったみたいで……」


「初めて知りました。だから、いつも、お母様だけはワインを嗜んでおられなかったのですね。でも……」


 姫は、食いつくように皇后に詰め寄った。


「周りの方々は、それを知っているんですか?」


「いいえ。サリエフと料理長、そしてオルディボだけが、これを知っています」


「それは大丈夫なのですか? もし、それを間違って、お母様の近くに置いたりしたら……」


「ダメなんですよ。周りの人間がこれを知ってしまったら私は…… 簡単に殺されてしまう。それも、完全な暗殺が出来る。だから、誰にも伝えられない。でも、リアナ? 貴方には伝えておきたかったの」


「どうして……」


「いい? 人間、生きてるだけが全てではありません。ある日突然、自分の好きなことが出来なくなってしまう。そんなことだってある。だから、貴方には我慢してほしくない。好きに生きて良いのよ。私みたいに、後から、もっとしておけば良かったと思わないように。まあ、私は、記憶がない分、後悔も少ないのだけどねリアナ?」


「はい…… 分かりました……!ッ」


 突然、全身に温もりを感じた。良く見れば、皇后は、ただ静かに姫を優しく抱いていた。背中を摩り、僅かに微笑む。


「大丈夫…… この国のことは、私とサリエフに任せておけば良いから…… 貴方は、今しか出来ないことを存分に楽しんで……」


 なんで…… そんな事を言うんだろう…… なんで、安心させようとするんだろう…… 何も無いならわざわざそんなこと…… だってそれは…… 危険の裏付けなのに…… 何か…… 起こるの?


「早く寝ましょ? 明日は朝から大忙しですからね? そうでした! 朝食は何が良いかしら? 好きなものを用意させますからね。それに……」


「リアナが好きなもの…… 覚えていませんか?」


 僅かに静寂が流れた。


「えっと…… その…… 確か…………」


 やっぱり。お母様は、何も変わってなんかいない。ただ、取り繕っているだけ。私のことなんて、本当は何も考えてなんかいない。変わるわけがない……


「無理しなくて構いませんよ。お母様。リアナが好きなのは……」



「"マカロン!"」

 


 姫は、思わず、瞳を大きく開いた。


「マカロン…… 貴方の大好物…… やっと…… 覚えられた……」


 姫は、固唾を飲んだ。


「なんで…………」


「なぜでしょうね…… なんだか今は…… 凄く気分が良い。いつぶりかしら、こんな感覚。分からないけど、なんだか懐かしく感じます」


 皇后の視線は、窓の外の夜景を、黄昏るように楽しんでいた。分からない。お母様が、何を考えているのか私には…… まったく、分からなかった。でも、なぜだろう。今日は、なんだか…… 私も気分が良い……


「リアナ?」


 互いに見つめ合う中、皇后はゆっくりと口を開いた。


「それじゃ…… おやすみ」


「…………はい。おやすみなさい。お母様!」


 そうだ…… 私も………… 笑えたんだ!

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