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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病

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十二幕

 ——どれくらいの時間が経っただろうか。


「リアナ皇女、オルディボ様がおいでになっています。いかがなさいますか?」


 部屋の外からミリヤが言う。とっくに社交会は始まっている。しかし、姫は部屋のベッドに寝そべったまま一人考え込んでいた。胸元に抱え込んだ伝書を、そっと枕の下に隠し入れると身体を起こす。


「入れて良いわよ」姫が言うと、護衛はミリヤの指示で部屋へと入室する。


「姫様! どうされたのですか? 私が来るまで待つようにと言ったはずですよ」 


 護衛は救急箱を手に、どこか慌てた様子で言った。聞くに、私を探し回って宮廷内を何周もしたそうだ。まったく、遅いと思ったら、なぜ真っ先に寝室に来なかったのか疑問で仕方ない。


「それで、これからどうされるのですか? 私としては、すぐにでも社交会に戻って頂きたいところではありますが……」


 護衛は姫の前で膝をつくと救急箱を開き、姫の手当てを始めた。本来ならば専属医がやる仕事ではあるが姫の意向で軽傷であれば専属の護衛が一任することになっている。


「別に…… 特に何も考えてないわ。ただ、今はあまり気分が乗らないだけ。気が変わったら戻る。それとも、何か急いで戻らないといけない理由でも?」


「理由も何も。前も言いましたが、これは姫様の誕生日祭半年前の祝いを兼ねていますので、主役がいないのは少し寂しいと言いますか……」


 動揺する護衛に姫は追い打ちをかける。


「良いじゃない別に。どうせ私がいなくても社交界は進行し続けるわよ。去年だって私が体調を崩して休んだのに何の問題もなく終わったわ。所詮私なんか飾りよ飾り! 居たところで良い笑いものになるだけ。みんなそう思ってるわ。誰も本気で私の心配なんかしてないわよ…… お父様も……」


 護衛は手を止め、心配そうに姫を見上げる。


「どうされたんですか姫様。何時になく感情的になっていますよ。私で良かったら話して下さい。姫様の気が済むまで相手になりますよ」護衛は優しく微笑む。


「いいわよ別に。本当に気が乗らないだけだから……」


 姫はそう言いながらも、視線をキョロキョロと枕元に向けた。


「ねぇオルディボ。貴方、私の専属護衛でもあったわよね。つまり、何があろうと私を守ってくれるのよね?」


 姫は真剣な顔つきで専属護衛に問いかける。それと並行に枕元へ腕を静かに伸ばす。護衛は少し戸惑った表情で姫に応えた。


「ええ…… それは、もちろんです。姫様の身を命を掛けてお守りするのが私の役目です。相手が誰であろうと必ず守ってみせますので、どうかご安心下さい」


 姫の表情に僅かに笑みが蘇る。


「そうよね。なんだかんだ小さい頃、貴方に何回も助けられてたわね」


「そうですよ。覚えてますか、確か姫様が十二の時、階段付近でミーシャ様と一緒に遊ばれていた時に誤って階段から落ちたこと。あの時、真っ先に姫様をお助けしたのは誰でしたっけ?」自信満々に言ってみせる。


「あら、オルディボ。この私に恩を着せようなんて思ってないでしょうね? 貴方は仕事をしただけ。そんな自慢気に話しても貴方の評価はこれっぽっちも上がりませんのよ?」


「おっと。あの時はあれほど泣きながら私に感謝していたというのに、姫様も良い意味で大人になられたんですね」


「あら、言うようになったじゃないオルディボ。でも今のは聞かなかったことにしてあげる。聞いたらもっと機嫌を悪くして、もう一生部屋から出なくなるかもしれないから」


 護衛は「感謝いたします」と軽く頭を下げる。そのやりとりは側からみれば仲の良い友人同士の会話に見える。


「ねぇ、信頼して良いのよねオルディボ……」


 姫は枕元に隠した一冊の本に手を掛けた。こんな物を持ち出したことが知れたらどうなるか…… 皇帝の私物を勝手に持ち出すことは、たとえ家族であろうと簡単に許されることでは無い。姫の表情が強張る。


「ねぇオルディボ。そう言えばさっき、こんなモノを見つけたんだけど……」


「私は皇帝陛下に忠誠を誓った身です。決して姫様を裏切るような真似はしません! どうぞ信頼して下さい」その言葉に嘘は無かった。


 手が止まった。姫は本を握りしめながらも、それを枕元から離さない。そうだった…… この男は、お父様に頼まれて仕方なく私の護衛をしているだけ。本気で私のことを助けたいなんて、これっぽっちも思ってなんかない。姫の呼吸が乱れる。


「姫様、どうかしましたか? まさか、本当に体調が悪くて……」


「出てって…… 出てって…… 今日はもう良いから。もう寝るから、早く部屋から出て行ってッ!」


 姫は突如として護衛に強く当たった。顔を枕に落ち着け、ベットに寝そべる。


「分かりました…… 今日はもう休んで下さい。皇帝陛下には私から伝えておきますので。それと、もし何かあれば外にミリヤが待機しておりますので、そこまでお願いします。では、お休みなさい姫様」


 護衛は、ゆっくりと腰を上げる。救急箱を手に抱え姫に背を向けたまま部屋を後にした。今日は、もう寝よう…… きっと悪い夢を見てるだけ……

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