第十戦
「……まあ、要するにだ! 今は、こうして司書をしておるが、かつて災いの神と恐れられていた頃は、何人もの悪党をしばき倒し、その功績からついた異名がゴブリンスレイヤーだったが、王に目をつけられ逃走を測りながらも、暗躍を続け、いずれは地底人どもをなぎ倒し、大農園を築く…… という話だ! どうだ? 面白そうではないか?」
「ごめんなさい。ちょっと何言ってるか分かんないわ」
姫は、肘をついたまま退屈そうに答えた。二人は、図書館の中央に位置するカウンターに向かい合うように座りながら、談笑を続けていた。
「おいおい、どうなっとるんだ? もう三回は説明しただろ? なぜ、この面白さが伝わらんのだ! まさかッ! 文字だけでなく言葉すら理解出来なくなったのではあるまいな?」
「言葉とすら認識してないんだけど?」
「まったく、これではらちがあかん! ミリア殿よ、ドクターを呼んでくれ!」
すると、姫の背後で控えていたミリアが、一歩前へと踏み出した。
「承知しました。二名ほど派遣しておきます」
「おお、融通が効くではないか。任せたぞ!」
司書が、そう言うとミリアは不適な笑みを浮かべた。多分、自分がディスられていることにすら気付いていないんだと思う、この司書は……
「ところで、リアナ皇女よ。オルディボ殿が、宮殿を離れてから半日が経過したが、何か思うことはあるか?」
司書は、頬杖を付くと、姫に視線を向けたまま応えた。
「別に…… いつもと何も変わらないわよ。むしろ、監視されてない分、いつもより気が楽ね」
「こちらとしては、困りものですよリアナ様。オルディボ様だけでなく、何故かアロッサまでも同行してしまうとは…… 私一人では、とても手が回りません……」
そう言うと、ミリアは軽くため息を吐いた。
"トンッ トンッ"
図書館の扉が叩かれた。皆が、振り向くと、その扉はゆっくりと開かれる。
「あら、みんなここにいたの? 少し良いかしら?」
僅かに静寂が流れた。姫は、そっと司書に視線を向けた。
「おお! これはこれは皇后陛下ではないか。久しいの〜 こうして面と向かって会うのは何年ぶりであろうか?」
「お久しぶりですねララサ。元気にしておりましたか? 最近は、忙しく、あまり顔も出せておりませんでしたからね」
「まあ、そう気にするでない。この通り元気にやっとる! それで…… 本日は、我が図書館に何用かな?」
司書は、特に態度を変える素振り一つ見せずに言ってみせた。正直、驚いた。お父様に対してはあれほど畏まっていたのだから、お母様にも同じように出ると思っていたのだけど……
「リアナ? 少し良いかしら?」
「はい…… お母様……」
皇后は、僅かに手招きするように姫を誘い込むと、図書館の外へと出た。
「あの…… どうかされましたか、お母様? わざわざ、こんな畏まって……」
珍しい…… 普段、お母様は、こんな二人きりの空間を作ろうとはしない。
「ごめんなさいね。せっかくのところ。ただ、一つ伝えたくてね。リアナ? オルディボが戻ってくるまでの間、新しい護衛を任命してはいかがかしら?」
「新しい…… 護衛……?」
お久しぶりです。少し日が空いてしまいましたが、予告通り、投稿を開始していきたいと思います。よろしくお願いします!




