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5 大丈夫です!ノエル君がいます

来ていただいてありがとうございます。

ノエルは落ち込んでいた。あの後一体しか夢魔を倒せなかったのだ。もちろん夢魔の力が強かったこともあるが、人間の抵抗にもあってしまったのだ。ノエルは衝撃を受けていた。




今度の夢魔の宿主は小さな男の子だった。あたたかな部屋の中、たくさんの食べ物に囲まれて夢魔と一緒に楽しそうにずっと食事をしていた。夢魔は十歳には満たないだろう男の子と同じくらいの大きさだった。仲の良い家族や友人のように見える。但し、夢魔が食べているのはその子の夢なのだが。


「今までの夢魔より大きいですね」

ましろは少し不安そうに言った。

「ましろ、結界を」

「あ、はい。えっと、『開け』!あ、これだ」

ましろ魔法書を開くと、ましろの小さな手に八粒のミルク色の宝石が現れた。

くうを閉じよ、八星結界」

宝石はましろの体を取り囲むように展開し、ミルク色の球体になって広がった。


「これで、ノエル君の魔術を使ってもあの男の子の夢は大丈夫です。では変身を!」

「何でいつもそんなに嬉しそうなんだ?」

ノエルは眉根を寄せた。

「それはもちろん可愛いからです!」

「…………そう」

(ましろは僕が女の子の方が良かったのか?)

ノエルは胸に引っ掛かりを感じたが、今はそれどころではないと気を引き締めた。

「ではっ、『解放』!」


コスチュームが少し変化していた。全体的な色見は白や乳白色なのだが、スカートの丈がやや長くなり、印象が少しシャープに大人っぽくなった。そして最大の変化は魔法のステッキだ。こちらは細身の剣に変わった。とてもデコラティブではあったが。

「きゃー!今回の衣装もいいですねっ。マジカルミルキーver.2!レベルアップバンザイ!」

「もう、なんでもいい……。さっさと行くよ」



「あのーそこのお坊ちゃん、それは魔物なんです!危ないですから離れてくださいっ」

ましろが男の子に声を掛けた。男の子はいきなり入って来た変な動物を見てポカンとした。

「へんな、うさぎ?いっしょにたべる?」

男の子は綺麗な色のお菓子がのった皿を差し出して、無邪気に笑いかけてきた。

「え、確かに美味しそうですね……、じゃなかった。あの、このままここにいると危ないんです。その魔物から離れてくださいな」

ましろは男の子を夢魔から引き離そうとしたが、中々離れてくれない。


「このままだと、君は死んでしまうんだ」

マジカルミルキーは、はっきりと「死」という言葉を出して話した。

「マジカルミルキー……それは」

ましろは耳を垂らした。

「ここは君の夢の世界だ。目を覚まさなければ、本当の君が消えてしまう」


「おきても、さむくて、おなかがすくんだもの。ぼくはここがいい。ここにずっといる!」

男の子はそう言うと、泣きながら夢魔に抱き着いた。

「おまえなんか、いなくなれ!」

男の子の叫びと呼応するように、夢魔が攻撃をして来た。無数の皿がマジカルミルキーとましろに向かってくる。

「なっ!」

「むっ、いくら夢の中とはいえ、食べ物を粗末にしちゃいけませーんっ」

ましろはそう言うと、可愛いうさぎ型の盾に変化した。夢魔の攻撃はマジカルミルキーに当たる前にその動きを止めた。


「もう、なんでもありなのか?そういえば魔術が使えるんだったな」

マジカルミルキーは光の刃を発現させ、夢魔の目を狙って放った。夢魔がひるんだ隙にましろが男の子を取り返す。

「今です!新しい呪文を……」

「必要ない」

そう言うと、マジカルミルキーは剣に自分の魔力を乗せて夢魔を切り倒した。

「えーっ」

ましろのブーイングは聞こえない。夢魔は紫色の大きな欠片になりましろのロケットへ封じられた。


あたたかな部屋は消失し、暗い空間に男の子の泣き声だけが響く。

「おまえなんか、だいきらいだ!おまえがいなくなればよかったのに!」

男の子は泣きながらミルキーを叩く。ミルキーはそのまま抵抗することなく、されるがままになっていた。

「ノエル君……」


やがてその男の子も暗い空間も消え、二人は薄暗くて寒い部屋に立っていた。あまり清潔な環境とは言えない場所のようだった。すぐそばのベッドでは夢の中の男の子が眠っていた。夢の中よりもやせ細っており、閉じられた目には涙が浮かんでいた。見渡すと、広い部屋にたくさんのベッドが置かれており、何人もの子ども達が眠っていた。

「孤児院でしょうか?」

「うん。寒すぎるな、ここは……」






屋敷に戻ったノエルは、自室の床に座り込んで動けなくなった。

「自分が恵まれているのは知ってるつもりだった。でも……。あんな小さな子が夢の中に逃げるようになるまで苦しんでるなんて……。この国は……。僕は知らなかった……知ろうともしなかった……」


ましろはノエルと背中合わせに座った。モフモフの体をそっとノエルに預けて。

「ノエル君は今何歳ですか?」

「……十四歳だけど……」

「あ、私の方がお姉さんですね。私十六歳ですから」

「……見えない」

「えー?そうですか?今日助けた男の子は半分くらいのお年でしょうか?」

「…………」

「良かったですね」

「?」

「ノエル君が今、知ってくれて良かったですね。今のあの子が辛いのは今の大人たちの責任です。でも、これから先はノエル君が大人になってから頑張ればいいんだと思います。だから今、ノエル君がそう思ってくれてるのはみんなの希望になると思うんです」

ノエルは顔を上げた。背中が温かくて、少しくすぐったかった。


「大丈夫!この国にはノエル君がいますから!」

「何それ?僕にはそんな力無いよ」

「ありますよ!だって私が見つけた魔法少女ですから!ね?マジカルミルキー!」

「だから、ミルキーって言うな」

ノエルは立ち上がってましろを高く抱き上げた。

「わわっ!あはははっ」

ましろは驚いたが、浮遊感が楽しくて思わず笑ってしまった。ノエルは胸に火が灯ったように感じていた。



ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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