4 やったね、レベルアップだ!
来ていただいてありがとうございます。
文字通り走り回った。夢の世界を。
「はぁーっ、ちょっとペースが速すぎるんじゃないかな?マジカルミルキー?」
ましろは紫色の光が入ったフローティングロケットを見た後、ノエルを心配そうに見た。
「夢魔の欠片はたくさん集まりましたけど……。朝になったら学園へも行くんでしょう?体力、持ちませんよ?」
「ミルキーって言うな。はあ……。そうかもしれないが、急がないとまずいんだ。……仕方ないな。しばらく学園は休むことにする」
ノエルも随分と疲れた様子だ。この夜二人は夢魔を三十二体ほど倒して、今ノエルの部屋へ戻って来たところだった。念のため明かりは灯さず変身は解いてある。
「王女様のこと心配なんですね……」
ましろは胸の前で両手を組み、その琥珀の目をやたらキラキラさせている。
「違うぞ。まあ、それもあるけれど」
「またまたぁ!照れなくてもいいんですよ?心配なら心配ってすにゃお……いひゃい」
ここでノエルはましろの両頬を引っ張った。
「違うって言ってるだろ?全く……。しばらく休んだらもう一度行くよ」
「えー!ほんとに行くんですか?大丈夫ですか?……えっ?」
ノエルは心配そうなましろを抱き上げて出窓に座らせた。窓の外からは月の光が差し込んでいて、黒髪の少女の幻影を浮かび上がらせる。
「ほら」
ノエルは綺麗な玻璃の器をましろに手渡す。中には小さなチョコレートが入っていた。
「わぁ、チョコだぁ」
実のところ、ましろには本当に食事は必要ないようだった。おなかがすかないし、食べ物を食べられはしても味がしない。それでもノエルが与えてくれる食事を食べたのは
(ノエル君がくれた食べ物は体がポカポカする気がする……)
からだった。ましろにはその感覚が嬉しかった。
ましろの声を聞きながら、ノエルは手鏡と椅子を持ってきてましろと向かい合わせに座った。
「休憩の間少し話をしよう」
「君の話を聞きたい。これを見てくれ」
ノエルは手鏡をましろに向けた。
「鏡?…………あ!私?どうして?」
ましろは自分の姿を久しぶりに見た。両手を頬に当てると透けた人間の自分とモフモフうさぎの自分が両手を頬に当てる。
「わ、不思議……」
「君の家はどこにある?この国か?それともどこか他の国か?君は何か魔術か呪いにかけられているんだろう?ご家族に無事だけでも知らせた方がいいだろう」
ましろはふるふると頭を振る。
「私のおうちは、この世界にはありません」
「世界?」
ましろは鏡に映った月を見て、空の月を見上げた。
「私はこことは別の世界で生まれて育って、そして死にました」
「!」
ましろはインペリアルトパーズの空の世界のことを説明した。信じてはもらえないかもとは思ったが、ノエルには全部話してしまおうと思ったのだ。
「そんなことが……」
「ふふ、私幽霊みたいですね。魔法書を読んで、お願いが一つ叶うって思って、それならマスコットキャラ頑張ってみようかなって思ったんです。そうすれば家に帰れるかもしれないから……。っていうか他にどうしたらいいのかわからなくて……」
ましろはえへへと笑った。ノエルは立ち上がり、ましろのそれぞれの頭をそっと撫でた。ましろの目からは涙は流れなかったが、目を閉じてしばらくされるがままにしていた。
「さ、お休みもしたし、そろそろ夢魔退治を再開しましょうか!『開け』!あれ?」
「どうした?」
魔法書を開いたましろの驚く声につられて、ノエルも魔法書を覗き込む。開かれた魔導書のページにはこの国の地図。王宮の場所には大きなバツ印。そして地図は何も示さない。
「普通の地図みたいだな」
「夢魔の反応がありません……」
「どういうこと?」
「いつもなら夢魔の反応が紫色の炎のマークで示されています。王宮の以外には何も反応がありません」
「もう、全部倒してしまったのか?」
「それなら、王宮への道が開くと思うんです」
「はーいっ!そのとーり!レベルアップのお時間でーすっ!君達レベルアップ早かったね!」
テンションの高い第三の声が二人の会話に入って来た。
「どこから?」
「いつから?」
ノエルとましろは同時に声を上げた。いつの間にか二人の傍には白い仮面白いコートの男が立っていた。男と思われたのは声がそうであったからで、顔は仮面で隠れて見えない。
「わー息ぴったりだね」
「白仮面さん……」
「やあ!お久しぶり、白うさぎちゃん。頑張ってるね。魔法少女の導き手カンパニー以来だね」
「知ってるのか?」
ノエルはましろを無意識に背に庇いながら尋ねた。
「はい。魔法書の、マニュアルの使い方をみんなに教えてくれた人です」
「いいねー。魔法少女っていうより、お姫様のナイトって感じだけど。今日はね、そのマニュアルのバージョンアップに来ましたよー」
白仮面の男はましろの持った魔法書の上でポンっと手を打った。本は光を放ってその装丁を少し変化させた。
「少し表紙の模様が変わりましたね?」
「中身も変わってるよ。これからは今までより強い魔物が出てくるから気を付けてねー」
そう言うと白い仮面の男はノエルをまじまじと見つめた。
「うん?君魔力を持ってるね?えっとノエル君?」
「なんで僕の名前を……」
「白うさぎちゃんが君を見つけた時に登録されてるから!うんうんいいねー。その力も使えるようにしといてあげるね。これからは白うさぎちゃんが結界を張れるようになるよ。その中でならノエル君の力も使いたい放題!すごいね!じゃあ、俺は帰るからまたね、アディオス!」
白い仮面の男は来た時同様、忽然と消えた。
「あれは一体何者なんだ……」
ノエルは男が消えた場所を睨みつけた。
「ノエル君、ノエル君!夢魔の位置が表示されてます!なんか今までのより数は少ないけど、反応が大きいです」
「望むところだ。さっさと全部倒してしまおう」
二人は早速夢魔の元へ向かった。
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