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2 初めての変身!

来ていただいてありがとうございます。

 


それは不思議な空間だった。蜘蛛の糸がバラ色の空間に張り巡らされている。その中心にいるのはクリスティーナ。昨日学園で倒れた女子生徒だ。彼女は夢見るような表情で誰かを膝枕している。

「あ、あれはっ!リヒト様!何故このようなところに」

ノエルは慌てたような声を出す。

「お知り合いですか?」

ましろは魔法書を読みながら問いかけた。

「このモーネ王国の第一王子だ。もうすぐ立太子される。何故こんなところに……」

「あの人は本物じゃないですよ。ほら、見てください他にもあちこちに男の方々がいます」

よく見れば、蜘蛛の糸に数人の男性達が絡めとられている。


「一体これは何なんだ……」

「ここはクリスティーナさんの夢の中です。クリスティーナさんは王子様のことが好きなんですね。あと、他にも好きな人がたくさんいるみたい……」

「女性というのは好きな男がこんなにいるものなのか?」

ノエルは困惑していた。


「うーん……そういう女の子もいるんでしょうね……私にはよくわかんないです……。でもカッコいい人達に、ちやほやされたら嬉しいかもしれません。あ、ほら、クリスティーナさんの頭の上を見てくださいな」

ましろが指をさす。ノエルにもクリスティーナの頭の上に昨日の影がのっているのが見えた。

「もしかして、あれが夢魔か?」

「はい。そうです。クリスティーナさんの夢を食べてますね。それじゃあサクッと倒しましょう!そうしましょう!」



ましろは魔法書のマニュアルに従ってガイドする。

「さあ、サフィーリエ様変身です!私と契約してみんなの夢を食べる夢魔をやっつけて!」

「やかましいっ」

「いひゃいー」

ノエルはましろの両頬をつまんで引っ張った。

「僕は魔術師だ。あんなものは僕の魔術で倒せる!」

そう言うと、ノエルは光の刃を影に向かって放っ…………。

「ちょお、ストップー!!」

ましろはノエルの腕を全力で掴んで止めた。

「ダメですっ!ここで魔術なんて使ったら!ここはクリスティーナさんの心の世界なんです!それを少しでも傷つけてしまったら、現実のクリスティーナさんにどんな影響がでるかわかりませんー!」


「面倒な……。ならどうすれば?」

「この世界ではこの世界のお作法に従ってください」

「契約か……。このままにすると彼女はどうなる?」

「このまま起きられなければ、水もご飯もとれませんから……」

「治癒魔術にも、魔術薬にも限界がある……」

ノエルはふぅーと長く息を吐いた。


「わかった。契約する。どうすればいい?」

「わっ!ありがとうございます!サフィーリエ様は優しいんですね」

ましろが嬉しそうに笑う。

「ノエルでいいよ。これからパートナーになるんだろう。様付けは鬱陶しい」


ましろは少し考えて

「ではノエル君、私の目を見てください」

そう言うとノエルのおでこに自分のおでこをこつんと合わせた。琥珀色の瞳がノエルを見つめる。ノエルは昨夜の少女の幻影を思い出し、鼓動が早くなったが何とか動揺を表には出さなかった。


「目覚めよ、秘めたる力。我、汝の力となろう。今、とこしえの契約は結ばれた。『解放』!」


ましろの言葉が終わると同時にまばゆい光が二人を包んだ。それが収まると……。



「何だ、コレはっ!!」

ノエルの怒りの声がバラ色の空間に響いた。

「わっ!かわいいーっ!」

全体的に白い色のコスチューム。スカートは膝上の丈で動きに合わせてふんわりと揺れる。リボンやレース、フリルがふんだんに使われており、ところどころミルク色のコロンとした宝石があしらわれている。ショート丈のブーツも同じ白い色で、こちらはましろの体毛のようなふわふわな飾りがついている。

「何でこんな格好を……!こんな丈の短い服なんて……!第一、僕がこんなのを着て、かわいいはずがないだろう?」


「え?かわいいですよ?ほら?」

ましろがどこから出したか鏡を見せてくる。

「はあ?」

覗き込んだ鏡には、長い白銀のサラサラ髪の美少女が映っている。かぶっている白い帽子の飾りが揺れる。

「体形まで……。こんな姿、他人には見せられない」

ノエルは愕然とした。顔を覆った手にはめている手袋も白いレースが美しい。

「魔法少女ですから!かわいいはお仕事の一つだと思います!」

「……それも魔法書に?」

「いえ、これは私の個人的な意見です」

「そう……」

ノエルはまだ何もしていないのにどっと疲れを感じていた。



「それでは……!いいかい?これから私が魔法の光で夢魔をクリスティーナから引きはがすよ。そうしたらマジカルミルキーは夢魔を弱らせるんだ!この魔法のステッキで!」

ましろはどこからか真珠のような宝石を取り出してノエル、いやマジカルミルキーに手渡した。宝石はミルキーの手の上でそれはかわいらしい魔法のステッキに変化した。

「夢魔に向かってステッキを掲げて『マジカルミルキーシャインスター』って唱えてね!」

「……………………」


それからのことは正直ノエルはあまり覚えていない。というより思い出したくなかった。ただ、変身した後は夢魔の姿ははっきりと見えるようになった。紫色の小さな鼻の部分が長い生き物のようだった。ノエルはましろが引きはがした夢魔を何とか倒した。あの呪文を本当に自分が唱えたのかは、考えたくはないし思い出したくもなかった。倒した夢魔は紫に光る欠片となってましろのロケットに吸い込まれていった。


気が付いた時には、ましろに手を引かれて再び自室へ帰って来ていた。変身はあの空間を出た時には解けたようだった。しばらくの間、ノエルはベッドの上でやや放心したように座り込んでいた。窓の外を見ると、驚くべきことにまだ夜は明けきっておらず、時間はさほど経過していないようだった。

(時間と空間が閉ざされていたのか?)



ましろは嬉しそうにロケットを眺めている。

「あ、そうだ!このロケットいっぱいに夢魔の欠片を集めると、ミッションコンプリートになって、なんでも一つだけお願いが叶います」

「願いが叶う?そんな重要な情報、先に伝えておくべきなんじゃないの?」

「えっと、エサで釣れた魔法少女は、あまり良い結果が残せないみたいで……」

「それも魔法書に?」

「はい、書いてありました」

「そう、まあいいや。それで、願いが叶うって?」

「そうです!貴方と私のお願いが一つずつ叶うんです」

「どんな願いでもいいの?」

「えっと、たぶん……」


「ふうん…。それで?君の願いは何?」

「私の……、お願いは……帰りたいです。家へ」

ノエルは思い出す。昨夜みた幻の少女を。これは彼女の願い。彼女は何らかの理由でこの姿にされている。そして何らかの理由で自分の家に帰れないでいるのだ。ノエルはそう推測した。


「なら、さっさと事件を解決しないとな」

そろそろメイドが起こしに来る時間だった。昨夜は自分のを分けたが、今日からはどう言って食事を増やしてもらおうかとノエルは考え始めていた。







ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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