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1 見つけた!私の魔法少女

来ていただいてありがとうございます。



「私と契約して魔法少女になってください!」

「……それ、()に言ってるの?」




モーネ王国。大陸西部に位置するこの国は、別名を白の王国と呼ばれ、魔力を持った人間が多く生まれる魔術王国だ。この国の貴族の子女達が在籍するメイリリー学園の裏庭で、昼寝をしていた一人の少年ノエル・サフィーリエは不機嫌そうに目を開けた。彼はこの学園の中等部の三年生で現在一四歳だ。冬が近づいているが、今日のように天気が良く暖かい日は貴重で、昼寝に最適な日なのだ。明るい白銀色の髪をかき上げて声の方を見る。自分を覗き込んでいたのは、何やらモフモフとした生き物。白くてうさぎのような耳が付いている。そして胸元?には大きな白いリボン。リボンの下からは透明なフローティングロケットがゆらゆらと揺れている。


「はい!あなたの魂と私の魂が共鳴しています!あなたは私のパートナーなんです。魔法少女です!」

「……」

「魔法少女になって、この世界を脅かす存在と戦って、捕まえてください!」

「帰れ」

少年はアイスブルーの瞳で冷たく見つめ、冷たく切って捨てた。

「ええええええっ?!」





「待ってください!この世界を救うことが出来るのはあなただけなんです!」

「断る。他を当たってくれ」

モフモフのうさぎは少年の後をついて来る。昼休みも終わりに近づき、廊下を歩く生徒達とすれ違うが、誰もこの生き物を気に留めていないようだった。

(僕にしか見えていないのか?)


「ええ?どうしよう。えっと、初見で断られた場合の対処法は、……『開け』!」

そう言うと、モフうさは一冊の本を取り出した。

(どこに入ってたんだ?)

少年は訝しげな顔をしたが、その生き物の存在自体が怪しいのでとりあえず気にすることをやめた。

「それは何?」

「あ、えっとマニュアルが書いてある魔法書です……、えっと、断られた場合は……とにかく何度も説得……えーそれだけ?」

本が自ら示したページを読むと、モフうさは困ったように耳と肩を落とした。


「待ってくださーいっ!」

白いモフモフは彼の後からついて来る。何度断っても効果がないので、ノエルはとうとう諦めた。仕方なく教室へ戻ろうとしたその時、目の前を小さな影が横切る。

(なんだ?今のは)

その時影が飛び込んだ教室の中から悲鳴が上がる。

「キャー、クリスティーナ様っ、大丈夫ですか?」

慌てて教室の中を見れば、女生徒が一人倒れている。友人たちが周りを取り囲んで騒いでいた。ちょうど教室にやってきた教師が女生徒を医務室へ運んでいった。


「体調不良……か?でもさっきの影は何だったんだ?」

「あれです!この世界を脅かす存在っ。魔物です!あれを倒せるのはこの世界であなただけむぐ」

ここでノエルはもふうさの口を塞ぐ。

「やかましい。授業が始まるから、静かにしててくれ」

もうすぐノエルのお気に入りの教師の授業が始まるのだ。邪魔をされてはたまらなかった。





「ふわぁー大きなおうちですね。まるでお城みたい……お庭も広ーいっ!」

なんとモフうさは授業が終わると、ノエルと共に迎えの馬車に乗り込み屋敷までついてきた。

「……なんでついて来るんだ」

「ですから、あなたが私のパートナーだからです」

「なんでそれがわかる?」

「何となくです。そういうものなんだそうです。私も半信半疑でしたので驚きました!」

モフうさは手をぐっと握って力説してくる。

「はぁ…………」 

ノエルは疲れを感じてその夜は早めにベッドへ入った。




早く寝てしまったせいか、ノエルは夜中に目を覚ました。豪華な家具が設えられた部屋の中を見渡すと、窓辺の長椅子の上にあの白い毛玉のような生き物がいる。

「やっぱり、まだいるか……」

ノエルはため息をついた。


長椅子で眠っているモフうさに月の光が当たった。白い毛玉にうっすらと透けた見たことのない少女の姿が重なる。年の頃はノエルとそう変わらないくらいに見えた。黒い長い髪、白いワンピースの胸元に大きな白いリボン、ロケット。

(これは何だ?あの女の子は誰だ?モフうさ、なのか?)

ノエルはベッドから起き上がり、長椅子に近づく。ふいに幻影のような少女の目から涙が一粒こぼれる。

「……おかあさん……」

ほんの微かな呟きが少年の耳に届いた。ノエルはモフうさをそっと抱き上げベッドへ運んだ。

「風邪をひかれても面倒だ……」

そんなことを言いながらもふうさをベッドへ寝かせて上掛けをかけてやり、モフうさから距離をとって背を向けて自分も再び眠りについた。   




「っ、どうして?なんでこんなことろで寝てるの?ゆうべはあっちの長椅子で寝たよね?」

空が白み始めた頃、目を覚ましたモフうさは後ずさりしてベッドから落ちた。

「何を騒いでいるんだ」

眠そうな少年の不機嫌な声が聞こえた。

「えっとえっと、私って寝ぼけてここに来ちゃったんですか?」

「いや。昨夜は冷えたから、僕が運んだ……。そんなことはどうでもいい」

「どうでもいいってことはないでしょう?まあ、わたし今はこんな感じだけど……」

モフうさは自分の体を見ながら何やら小声でぶつぶつと文句を言っているが、ノエルは気にしないことにした。


「君、名前は?」

「名前……。名前は、真白、ましろです」

ましろは考え込んだ後、ちょっと困ったように答えた。

「そう、ましろか。僕はノエル・サフィーリエ。サフィーリエ公爵家の三男だ」

「公爵家……」

ノエルは随分と身分が高いようだ。屋敷が大きかったのも当然だった。



「それで、世界を救うってどういうことなんだ?」

「え?魔法少女になってくれるんですか?」

「話を聞きたいと思っただけだ」

「わかりました!えっとですね『開け』!この世界の異変は、と。夢魔ですね。うん。夢魔が主に子供たちの夢に憑りついて夢を食い荒らしています」

ましろはノエルの気が変わらないうちにと、急いで魔法書を取り出して、乳白色の宝石に手をかざした。そして、開いたページを読みながら説明を始めた。


「ムマ?……夢の魔物で夢魔か……」

「そうです!えっと、憑りつかれた人は目が覚めなくなってしまうようです」

「目が覚めなくなったら、死んでしまうじゃないか」

「はい。夢魔は本来、人に憑りつくようなことはしないんですが、なんらかのバグが発生しているようですね」

ましろの言葉にはよくわからないところもあったが、ノエルは意味を補完した。

「その夢魔を倒せば、憑りつかれた人間は目を覚ます……」

「わあ、すごいですっ!サフィーリエ様!理解が早くて助かります!じゃあ早速、夢魔を倒しに行きましょう!」

「は?」

ましろはノエルの抗議が出ないうちにと、問答無用で、ノエルの手を掴むと一緒に虚空へ姿を消した。





ここまでお読みいたいてありがとうございます。

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