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暫くこれからのことについて考えていた真司だったが答えがまとまらず、取り敢えず立ち上がった。
まずは杖になるものを探そうと思い、両手を前に伸ばしながら辺りを彷徨うその様はまるで某ホラーゲームのゾンビのようである。
「痛っ!」
時々ソファの足やタンスなどに足をぶつけながらリビングを探すが特にそれらしいものは見つからない。
「そう言えば押入れに突っ張り棒があったはず・・・」
真司は壁に手を着けるとそのまま横に移動しながら押入れを探す。
そして押入れまで辿り着くと押入れの扉を開け、掛けてあった服をすべて降ろし突っ張り棒を外す。
丁度いい長さに調整して自分の前の安全を確認しながらリビングをぐるぐると歩き回り小さくガッツポーズをする。
「よし!これで何かにぶつからなくて済む。」
次にする事としては会社に暫く休むことを連絡することだが・・・まず、ケータイが何処にあるか分からず、仮にあったとしてもタッチパネルが見えない為に自分から掛けることが出来ない為、掛かってくるのを待って出る事にした。
「あとは・・・服をどうにかしないと」
今着ている服は魔法少女に変身した時のコスチュームであって非変身時の服、つまりは普段着、ましてや女の子の普段着なんて持ってるはずもなく、通販なんて物は目の見えない今の状態では使えない為買いに行くしかない。
「取り敢えず変身を解除しないと。多分すごいフリフリした服だから周りからなんて見られるか・・・」
実際は修道服だがそれはそれで目立つし結局解除することを選んでいたあろう。
「で、どうやって解除すればいいんだろう?」
方法が分からないため変身時と同じように胸の前で祈るように手を握ると変身時と似たような似たような感覚があり、変身前に着ていたスーツを身に纏う。
立った状態で変わった為、サイズのあっていないズボン等がずり落ち、サイズの合っていないワイシャツだけ身に着ける格好となってしまった。
ズボンを腰まであげ、ベルトで何とか固定することに成功すると今度はズボンの裾を折り曲げて玄関へと歩いていき、家の鍵を何とか見つけた後にサンダルを探し出して履き、玄関の扉へと手を伸ばす。
「あだっ!なんだよ、身長も変わってるのかよ」
何時もの感覚でドアノブまで手を伸ばしたらそこにはなく、思いっきり突き指をしてしまった。
扉をペタペタと触りながらドアノブを見つけて回し、外へ出て同じようにペタペタと扉を触りなんとか鍵をかける。
問題なのはここからで、真司の住む部屋はアパートの二階にあり、登り下りは階段しかない。
目の見えなくなってしまった真司にとってはちょっとの段差でも脅威となる。
そこで突っ張り棒の出番だ。
杖代わりの突っ張り棒で自分の前の地面をコツコツと軽く叩きながら手すりに従いながら歩き始め、叩く感覚が無くなった所で突っ張り棒を持ち替え、階段の位置を確認しながら降りていく。
傍から見れば物凄いへっぴり腰だが本人は至って真剣であった。
問題はまだあり、今いるアパートから服屋へ向かおうにも服屋が何処にあるか把握しておらず、そして頼れる知り合いや友達も居ない(スマホなんて目が見えなくて使えない)ため宛もなく彷徨うことになりそうなことだ。
近くに人が居ることが分かればその人に聞く事も可能だが、目が見えなくなったのはついさっきであり現状周りを把握する手段は手に持つ突っ張り棒でしか無い。そんな状態で道を教えてもらっても無事にたどり着ける自信は真司には無い。
「どーしよ、詰んだかもしれん・・・いや、駅までの道順ならわかるからそこで誰か親切な人を捕まえれば大丈夫か?いやしかし・・・」
「あのー、大丈夫ですか?」
突如として声を掛けたのは見た目は今の真司と同じぐらいの少女であった。
意識外からの声だった為に真司は「ひゃっ」と元男とは思えない可愛らしい悲鳴を上げてその拍子に突っ張り棒を手から離してしまい、カランと乾いた音が鳴った。
「急に声を掛けてごめんなさい。私は九重灯華って言います。階段から降りた後にじっとしてたのが気になっちゃって、何か助けられることがあればいいなと思ったんですど」
謝りながら突っ張り棒を渡してくれた彼女は小声で「突っ張り棒?」と言っていたがそれを聞かないふりをする。深く突っ込まれると困るのはこちらだからね。
「い、いえ!大丈夫です!えっと、名前は・・・」
少女の外見で「真司」と名乗る訳にもいかず内心で頭を抱える。
咄嗟にいい名前なんて思いつく筈もなく、初恋の相手の名前の「心」と名乗った。
「服屋に行きたくて出たのはいいんですけど肝心の場所がわからなくて・・・」
「なら、一緒に行きましょうか?私も丁度服を買いに行こうと思ってたんです!」
「ぜ、是非!お願いします!」
まさにその言葉を待ってましたとばかりにテンションを上げた真司もとい心は全力で首を縦に振った。
「・・・その前に、その格好だけはどうにかした方がいいと思いますけど・・・」
いざ、出発しようとした九重だったが、心のある一点を見つめそう言った。
「え?何か変ですか?」
今の心の見た目はどう見ても少女なのでそんな彼女がスーツを着ていることがまずおかしいのだが、九重が見つめているのは年の割にたわわに実ったその果実のてっぺんである。
ベルトで締め付けてしまっているがために余りまくっていたワイシャツはある一点を強調してしまっており、大変恥ずかしい状態であった。
だけど全く自覚のない心に頭を抱えた九重は自身が羽織っていた上着を渡し、チャックを一番上まで上げるように指示をした。
「心さん今下着つけてないでしょ?だから今凄く痴女っぽかったけど、もしかしてそーゆー趣味なわけ?」
「ち、違います!」
九重に言われやっと理解した心は顔を真っ赤にし、九重から渡された上着を指示通りに着る。
「よし、じゃあ行こうか。腕につかまってね」
九重の言葉に従い腕につかまるとそこからは何事もなく目的の服屋へとつくことができた。
2024/3/22 1:34後半を大幅に書き換えました。
まだなんかおかしいと感じる部分があるのでまだ書き換えるかも