マキュニシェの戦い⑩
秀の将ジアヒスは、個人の武力ではオグルブには及ばず、守りの強さではズェガェには及ばず、策略ではニトには及ばない将である。
しかし、それでも、並大抵の将では相手にならない程の強さを持っている将であった。
だからこそ、秀という字をもらい、四傑将へと数えられたのである。
そのジアヒスの一撃は、ゼルバを打ち砕くのに容易い一撃である。
そうジアヒスは考えていたのである。
「ふんっ!」
「ふっ!」
しかし、そのジアヒスの一撃を、ゼルバは逆に容易く防いでみせだのだ。
「なにっ!」
ジアヒスは驚く。
ジアヒス自身の力に自信があったのもそうだが、ゼルバは知略しかない将だとかんがえていたのである。
実際に、ロヤとジアヒスは、ゼルバを調べあげ、武略が優れているわけではないという結論にいたっていた。
「なにを驚いているのだ。ゼルバ様が戦えないとでも思ったか」
すぐ側で戦っているベルベンが得意気に口を挟んできた。
「ゼルバ様は知力だけでなく、武力でもフェズ国では指折りに入るほどのお方だ。甘く見たな」
実際に、ジアヒスは幾度となく攻撃を仕掛けるが、ゼルバはそれをしっかりと防ぎ、反撃マシしてきていた。
まさに二人の力は、拮抗していたのだ。
(だが、ゼルバだけが強くとも……)
敵部隊がいなくなれば勝てる。そう考えた、ジアヒスは周りへと目を向ける。
そして、更に驚くこととなる。
ジアヒスの精鋭部隊と、ゼルバ率いる部隊が互角に戦っていたのである。
いや、互角ですらない。
ゼルバ率いる部隊の士気は高く、ジアヒスの部隊は押されている程であった。
「あなたも精鋭部隊を連れて来たようですが、こちらも精鋭部隊を用意させていただきました」
ジアヒスと戦いながら、ゼルバが口を開く。
ゼルバは、この戦いに、余裕すらあったのだ。
対するジアヒスは、早くゼルバを討たなければと焦るばかりであった。
「あなたは本陣を奇襲したつもりでしょうが、それは違います。私があなた達を本陣に引き入れたのです」
今この状況を考えれば、それは強がりでも何でもなく事実である。
「と言っても、確かに私が戦えなければ、奇襲は成功していたでしょうね」
だが、実際は違ったのだ。
ゼルバは強かった。
そしてゼルバは、その宣言をした。
「あなたの敗因は、私自身の強さを侮ったことです」
そこで、二人の横からベルベンが割って入ってきて、ジアヒスを攻撃する。
ジアヒスは、たまらず少し後退する。
そこで気が付く。
ベルベンが割って入ってこれるほど、ジアヒスの部隊はやられていたのだ。
「さあ、どうしますか?」
ゼルバは、余裕を持ってジアヒスへと問いかける。
そう言われては、ジアヒスには一つしか選択肢がなかった。
「くっ……撤退だ!」
その選択肢しか、なかったのだ。
号令がかかると、ジアヒスの部隊はすぐさま撤退し、川上へと駆けていく。
「追いますか?」
ベルベンはゼルバに問いかけたが、ゼルバは首を振った。
「いいえ。そんな戦力は、こちらにもありませんからね。流石は秀の将ジアヒス。あのまま続けていたら、負けていたかもしれません」
ゼルバは、安堵したように息を吐いた。
「はったりだったのですか?」
それを見て、ベルベンが聞く。
「それだけジアヒスは強かったですよ。しかし、ジアヒスには撤退をしなければならない理由がありましたからね。ベルベン、あちらには誰が行きましたか?」
ゼルバは、川上を指さした。
それを見て、ベルベンは何かに気づいたような顔をするとともに、その答えを出す。
「ヨギですか!」
「そうです。彼には、ヨギを追いかけなければいけない理由があったのですよ」
「それは?」
ゼルバは笑うと、
「それよりも、今はやる事があるでしょう。まだ戦は終わっていませんよ」
その問いに答えずに、そう言って本陣へと戻っていく。
「はい。では、ご指示をお願いします」
そしてベルベンも、それ以上は追求せずに、ゼルバの後に続いたのだった。




