マキュニシェの戦い⑨
「ギヨウ!」
シルルは、戦場の異常を伝える為に、オグルブと一騎討ちしているギヨウの元までやって来る。
そして、彼の名前を呼んだのだが、一騎討ちの迫力、あまりの二人の剣幕に、その先の言葉を飲み込んでしまった。
「ウオオオオ!」
「ヌウウウン!」
互いの馬は足を止め、互いの馬同士の頭が交錯するほどの近距離で、ギヨウとオグルブの二人は互いに攻撃を繰り出していた。
互いの武器が何度もぶつかり合い、甲高い金属音を上げる。
それ自体は、これまでと同じである。
だが、シルルの目から見て――いや、その場で見守る誰の目から見ても、二人はこれまで以上に激しく討ちあっており、そこに余計なものが入り込む余地などなかったのだ。
そしてそれは、シルルからしても同じになる。
戦うギヨウの姿を前にすれば、戦況の変化などどうでもいいのだ。
だから、シルルは叫んだのだ。
「ギヨウ!」
ギヨウは反応はしない。
聞こえてない程集中しているのかもしれない。
それでも、シルルは叫んだ。
「勝って!」
♦
その頃、エルエ軍の奇襲部隊はゼルバのいる本陣へと肉薄していた。
その奇襲部隊を率いるのは、大胆な事に、秀の将ジアヒスであった。
「知の将ロヤの策は成った!追手は来ない!このままゼルバの首を取るぞ!」
ジアヒスは奇襲部隊に号令をかける。
だが、その内心には迷いが生まれていた。
(何故だ、何故、ヨギの部隊は本陣を守りに来なかった)
その原因は、ヨギの行動である。
だが、そのヨギの行動自体には理解は出来る。
(気付いていると言う事だ。そして、奴はこちらに来なくても、ゼルバが大丈夫だと考えたのだ)
それこそが、ジアヒスが困惑し、焦っている理由であった。
「敵本陣はすぐそこだ!行くぞ!」
「「「オオ!」」」
それでも、ジアヒスは歩みを止めるわけにはいかなかった。
もはや、後戻りも出来ないのである。
(大丈夫だ。この奇襲部隊は、私の温存してきた精鋭部隊。手薄な本陣など簡単に打ち破れるはずだ)
ジアヒスが悩んでいるうちに、フェズ国の本陣は近づいてくる。
そこで、ジアヒスは驚くべき光景を目にした。目にしてしまったのだ。
「来ましたね」
それは、ゼルバであった。
ゼルバが本陣から、ジアヒスの奇襲部隊を見下ろしていたのである。
(何故だ)
ジアヒスは動揺する。
ゼルバが本陣にいるのは、変な事ではないかもしれない。
しかし、今この状況であるなら、本陣の奥でジアヒスを待ち受けるか、逃げ出すかのどちらかのはずなのである。
少なくとも、あんなにも自信満々でジアヒスを待ち受けるのは異常であった。
「ゼルバだ!首を取れ!」
それでも、やはりジアヒスは止まることは出来ないのだ。
「ベルベン、行きますよ」
そしてゼルバは、あろうことかその奇襲部隊へと、自らが先頭に立ち、馬を走らせて向かって来たのである。
「おおおおお!」
「ゼルバ様に続けぇ!」
「奴等を生きて帰すなっ!」
更に、その後ろから本陣に残っていた部隊がジアヒスへと向かってくる。
その数は、大した数ではない。当たり前だ。事前に確認はしている。
(わずかであるが、数では勝っている。こちらは精鋭部隊だ。私だっている)
負けるはずがないと、ジアヒスは考える。
だが、ゼルバの軍の、その士気は異常なまでに高かった。
(苦し紛れに勢いをつけただけだ。もう考えるな。ゼルバを討つ)
ジアヒスも先頭へと立ち、同じく先頭を走るゼルバへと向かって行く。
そして、ついに激突したのである。




