マキュニシェの戦い⑧
戦いはついに十日目になる。
互いに戦力は拮抗しており、互いに兵の半分を失っていた。
その日も、フェズ軍は川を渡り、エルエ軍へと攻撃を開始していた。
しかし、その日、ついにエルエ軍の本陣でロヤが動き出したのだ。
「フェズ軍のほとんどの兵が、川を渡りましたね」
ロヤは、本陣から見渡して戦況を把握する。
「そのようですね」
ロヤの叔母の、ミヤリチヤが返事をした。
その場には、ロヤとミヤリチヤ、それにロヤの部下しかいなかった。
「この十日間で、フェズ軍は川にはなにもないと、油断をしているのでしょう」
「そのために、戦場を長引かせましたからね」
「それも今日で終わりです。戦術を開始します」
そしてロヤは、その号令をかけたのだ。
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そんな事も知らないフェズ軍は、いつも通りに戦っていた。
そして、驚くことになる。
「な、なんだ、あれは」
「川の色が変わっていくぞ」
「いや、あれは、花……か?」
川に――花が流れてきたのだ。
それも、川の色が変わったと錯覚するほど、大量の花が、である。
その花は、紫色の花であった。
「お、おい、どうする」
「どうするったって……ぐわあ!」
フェズ軍の兵達は動揺したが、目の前の敵から目を離す行為は愚かであった。
「くっそ!気にするな!」
「川の事は、後で考えればええ!」
「お、おい、あれ……」
しかし、川の花に加えて、フェズ軍の兵士はそれに気が付く。
戦っている場所の遥か北側、川の下の方を、敵軍が馬を走らせて渡っていたのである。
「奇襲か」
「だけども、あんな遠くからなら、こっちが戻る方が……」
兵士がそう言いかけて、しかし、足を止めた。
後ろには川が、そしてその川は、大量の紫色の花で埋め尽くされていたのである。
「どうすんだ」
「関係ねえ、本陣を守りに戻らな!」
兵の一人が、馬に乗って川を渡ろうとする。
しかし、馬は花を踏みつけながら川を渡り、しかし途中で止まって、倒れたのだ。
更に、その倒れた馬に乗っていた兵も落馬した後、動かなかくなったのだ。
「な、なんだ」
「どうしたんだ!」
その様子を見て、兵達は動揺するしかなく、誰も川へと続けて入ろうとしなかったのだ。
♦
そして、更にその様子を冷静に見ている者がいた。
「当たり前だ。この花は猛毒だからな」
「へぇ~、そうなんですか?」
ヨギと補佐のベルェッ、それにその軍の一部の兵士であった。
「だが、皆知らなくても仕方がない。この花は、この地方にしか咲かない花で、それにちなんでマキュニシェの花と名付けられる花だからだ」
ヨギは、余裕を持って川と、そこを流れる猛毒の花、マキュニシェの花を眺めていた。
「でも、ヨギ様は知ってたんですね」
「俺は何でも知っている」
ヨギは、当然と言わんばかりの態度で言う。
「ゼルバは川上も、川下も調べたようだが、何も仕掛けがなくて当然だ。ただ、川上から事前に準備をしていた花を流しているだけなのだからな……それに、川下から奇襲をかけている奴等も、遠回りして奇襲をかけているだけだ。仕掛けも何もない」
「でも、味方は川を渡れないので、その奇襲は成功してしまうというわけですね」
ベルェッは呑気に言う。
「ああ、俺達がいなければな」
それもそのはずである。
ヨギとベルエッは、小隊を率いて、あらかじめ川を渡っていたからである。
ヨギは、ロヤの戦術を全て完璧に読んでいたのである。
「それで、どうするんですか?すぐに、あの部隊を追いますか?」
今すぐに向かえば、敵奇襲部隊がゼルバの元へと届く前に割って入れるはずである。
だが――
「いや……俺達はあの部隊は追わない」
ヨギは信じられない事を言ったのだ。
それでは、なんのために、花が流れる前に川を渡ったのかわからない。
「ええ!何でですか!?」
だからこそ、ベルエッは困惑する。
「いかにゼルバとて、花の事は知らないだろう。だが、ゼルバは川を使って兵を分断されることも、奇襲されることも、全て読んでいるはずだ」
ヨギは言い切る。
ゼルバが読み切っている事を、ヨギは読み切っているのだ。
「そうなんですか?」
「俺がゼルバを買いかぶってなければな」
そう言って、ヨギは少し笑った。
「それで、僕達はどこに行くんですか?」
「ああ、着いて来い」
そう言って、ヨギは馬を走らせ、ベルエッ達はそれについて行ったのだ。




