マキュニシェの戦い⑦
この地での戦いは、九日目となる。
苦戦をしているのは、ギヨウだけではなかった。
当然のように川を渡って戦うようになってから、オグルブの軍が前線に立ってフェズ軍を抑えていた。
「くっ!」
セロガは前線で三人の将を討ち取っていた。
「俺は、オグルブが30人目の息子、ディモカだ。貴様か、弟をやったという将は」
「次から次に、なんなんだこいつらは」
セロガは悪態を吐く。
オグルブの軍は、兵も強ければ、将も強い。
それもそのはずで、多くの将はオグルブの血筋を引く者であった。
もちろん、それに苦しめられていると言うのは、セロガ隊だけではない。
ガンビカ隊、アカツキ隊、それにオルファ隊も同じように、将を討ち取れど、新しい強い将が立ちふさがるという状態であった。
「参ったねこれは」
セニオガネスが、そう呟く。
しかし、
「弱音を吐くわけにはいかないね」
同時にそう考えていた。
それは、セニオガネスだけでなく、ガンビカも、シルルや、レシヘストも、更にセロガさえも同じ考えであった。
何故なら、この場で誰よりも強い将と戦っている仲間がいるのだから。
それは言うまでもなく、ギヨウであった。
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「うおおお!」
「おおおお!」
ギヨウが攻撃すれば、オグルブはそれを受け、オグルブが攻撃すれば、ギヨウがそれを受けていた。
周囲では、オグルブの兵とギヨウの兵が集まっており、しかし、一騎討ちを邪魔することもなく、二人の戦いを見守っていた。
ギヨウとオグルブの一騎討ちは五日目に突入していた。
これは、もちろん異常である。
一騎討ちなど、下手をすれば一太刀で終わることだってあるのだ。
それは、お互いに達人であるが故の、互角の戦いであった。
「ははっ!」
「はーっはっはっ!」
互いに、一度でも間違えれば死ぬと言う状況で、二人は楽しそうに笑っていた。
そして、その日も決着がつかないまま、陽が沈みだしたのだ。
「ふっ、今日も決着は着かぬか」
いつしか、互いに手を止め、オグルブが言った。
その台詞は、残念とも取れる台詞であるが、オグルブの顔は嬉しそうであった。
「ああ……」
対するギヨウは、悔しそうな顔をしていた。
戦いが終わると、ミュエネの事が心配になるからである。
そして、今日も仕留めきれなかったことを悔やんでいるのだ。
「では、勝負は明日に預けるとしよう」
五日目ともなれば、オグルブもあっさりと去って行ってしまう。
無防備に見せるその背中に、斬りかかるような卑怯な真似はギヨウはしない。
そのため、ギヨウもまた自陣へと帰って行くのだった。
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フェズ軍の陣へとギヨウが帰ると、この戦で初めてゼルバがギヨウを迎えに来た。
「どうしたんだよ急に?」
普段、ゼルバがわざわざギヨウを迎えることなどない。
「傷だらけですね」
しかし、その問いに答えずに、ゼルバはギヨウを連れて本陣へと向かったのだ。
「寝れば治るさ」
実際に、問題となるよな傷はない。
かすり傷ばかりである。
「普通は治りませんけどね」
ゼルバは笑った。
「で、何の用だよ」
本陣に着くと、人払いがされていて、ゼルバとギヨウの二人きりとなる。
「随分と苦戦しているようですね」
「流石につえーよ、どうやったら勝てるのかわからねぇ」
だが、ギヨウから見てそうであり、オグルブから見てそうなのである。
「では、いい事を教えてあげましょう」
それこそが、ゼルバがギヨウを呼び出した理由である。
「いい事?」
ギヨウが聞き返すと、ゼルバは笑顔で語りだした。
「あなたが初めて会った時は、あなたは強かったですよ」
そして、妙な事を言う。
「ん?いや、それはそうだろ」
ギヨウは一瞬考えこんだが、当然の事だと突っ込む。
「あなたは気付いていないかもしれませんが、その後、あなたは弱くなりました」
「そうか?そんな事はないだろ?なんで弱くなるんだよ?」
全く納得できない話である。
ギヨウはそれでも、強敵に勝ってきたのだから。
「それは、あなたに仲間が出来たからです」
少し、少しだけ、ギヨウにもそれはわかった。
「そうか、俺は弱くなったのか……」
だから、納得してしまう。
「ですが、今のあなたは強いですよ。最初に会った時よりも、はるかにね」
「え?なんなんだよ……ったくよ」
ギヨウは頭を掻く。
弱くなったと言ったり、強くなったと言ったり、ゼルバが何を言いたいのかわからないからである。
「そして、あなたが強くなった理由は、仲間がいるからですよ」
「いや……おかしいだろ」
明らかに矛盾した話である。
仲間がいるから弱くなったと言ったのに、仲間がいるから強くなったと言われた
「つまり、あなたは強くなったと言う事ですよ。自信を持ちなさい」
ゼルバはそう言うと、ギヨウの背中を叩いた。
「いてっ!」
ギヨウは、ゼルバが何を言いたいのかわからなかった。
だからこそ、最後に言われた、強くなったという言葉を信じる事にしたのだ。
「任せとけよ。きっちり勝って、ミュエネを取り戻してくるからよ」
そのギヨウの頼もしい言葉に、ゼルバは笑みを浮かべたのだった。
そして、夜は過ぎ、戦いは十日目を迎える事となる。




