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マキュニシェの戦い⑥

 時を同じくして夜、ギヨウはオグルブとの激しい戦いから帰って来ると寝床に倒れ込んだ。


(どうすりゃいいんだ)


 ミュエネは心配ではあるが、それ以上にオグルブをどう倒すかで、ギヨウの頭はいっぱいであった。

 オグルブと斬り合って、致命傷こそないがギヨウは傷だらけだった。

 対するオグルブには、かすり傷すらほぼ与える事は出来なかったのである。


(勝たねえと、いや――ミュエネを助けねえと……)


 体の疲労と、普段使わない頭を使い続けたギヨウは、いつしか疲れで眠りに落ちてしまったのだ。


「ギヨウ?」


 そこに、シルルが訪れる。


「なんだ、寝てるのか」


 シルルは、優しい笑みを浮かべた。

 むしろ眠っているならいいのだ。

 無駄な事を考えて、眠れない方が良くないと思って、シルルは見にきたからである。


「だが、手当くらいはしないとな」


 シルルはギヨウの服を脱がして、傷口に薬を塗って包帯を巻いて行く。


 やがてそれが終わると、シルルもその場で横になって、ギヨウの隣で眠ったのだった。

 


     ♦



 翌日になると、ギヨウは目を覚ました。


「ん?シルルか?なんでこんなところに……まあ、いいか」


 ギヨウは若干寝ぼけながらも、立ち上がると体の節々が痛む。それにより、ようやく頭の中が覚醒してきたのだ。


「シルルが手当てしてくれたんだな」


 妙にすっきりとした頭でそんな事を考えると、ギヨウはそれとは関係ないある事に気が付いてしまったのだ。

 だから、ギヨウはゼルバの元へと急いで向かったのだった。

 


     ♦



「おい!ゼルバ!」

「どうしたのですか、ギヨウ?そんなに慌てて」

「今日はアカツキ隊は、お前が何と言おうと、川を渡るぞ!」


 つまりはそれであった。

 川を渡らなければ、オグルブとは戦えず、オグルブと戦えなければミュエネを救う事も出来ないのである。

 前日、川を渡ったのは、ガンビカが先走った結果である。

 前日も命令では、川を渡るな、であった。


「ええ、どうぞ」

「お、おう」


 反論されるつもりで来たギヨウであったが、あっさりと許可をされてしまった。


「元々、今日からは川の向うで戦う予定でしたからね」


 つまり、ギヨウが戦の前に、わざわざここまで来た意味はなかったという事である。


「そうか」


 ギヨウは、とぼとぼと自分の陣へと戻っていく。


「ギヨウ」


 そんなギヨウに、ゼルバは激励をかける。


「必ず勝ってくださいね」

「当たり前だ。ミュエネも取り返さないといけないしな」


 それに対して、ギヨウは笑って見せたのだった。

 


     ♦



 そして、五日目の戦いが始まり、フェズ軍はすぐさま川を渡ってしまう。

 しかし、特に罠らしい事もなく、川を渡り切ると、フェズ軍とエルエ軍の戦いは始まったのだ。

 そんな中で、当然のようにギヨウとオグルブは相まみえると、一騎討ちが始まったのだ。

 


     ♦



 そして、勝手にその一騎討ちの景品とされてしまったミュエネは、相も変わらず檻に入れられ、前日と同じ女の将に見張られていた。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はノアタ。オグルブ様の73番目の妻さ」


 ミュエネは、ノアタの声を聴くと、少し顔を赤くしてしまう。

 昨日、喘いでいた声の一人なのが、わかるからである。


「ミュエネよ」


 それを紛らわせるために、ミュエネは素直に答えた。


「変わった名前だね」

「森の民だから……」


 嘘である。

 ミュエネは、エルエ国の王族だ。だが、もちろんそんな事を言う気はなかった。


「へぇ……私も、エルエ国の人間じゃないよ。ア国の人間さ」

「……」


 どうして、とはミュエネは聞かなかった。興味がないからである。


「私も、あんたと同じなのさ」


 だが、構わずにノアタはミュエネに話しかけて来た。


「私の夫は、エルエ国がア国に攻め込んでいた時、オグルブ様に殺されて、私は奪われたのさ」


 私は奪われたとは、変な話である。

 ミュエネから見てノアタはとても若く見えた。最近の話なのだろう。

 そして、夫を殺されたのに、オグルブと……そう言う事をしているのは、ミュエネからすれば信じられなかった。


「信じられないという目をしてるね」


 声には出さずとも、簡単にそれを見破られてしまった。


「確かに、最初は私もオグルブ様に抱かれる気にはならなかった。夫を殺されて、そんな気になる女はいないさ。そして、オグルブ様も私を抱かなかった」


 それには、ミュエネも驚いて、目を見開いた。


「ふっ、意外だろう。意外と、あの人は優しいのさ。そして、そこに私はころりといってしまったわけだ。でもね、女ってのは強い男に惹かれるものさ。私は元々オグルブ様に惹かれてたんだ」


 ノアタは、恍惚とした顔で語る。女の顔というのはこうなのだろう、とミュエネは感じた。

 しかし、理解できるようで、理解できない話である。


「私もそうなるって言いたいの?」


 だが、この話の目的はそう言う事なのだと感じた。


「まあ、そうだね。きっとそうなるよ」

「ならないわ」


 だが、ミュエネははっきりと言い切った。

 それに、ノアタは笑う。

 言われなくても、昨日と同じ意志を感じたからだ。

 

「強情だね」

「ええ、ギヨウは強いもの」


 ミュエネは、ギヨウの勝利を疑う事はないのだ。

 


     ♦



 そして、その日も夜がやってくると、オグルブが陣へと帰って来る。

 その日のオグルブは、かすり傷程度だが、数か所傷を負っていた。

 そして、言うのだ。


「今日も、決着は着かなかった」


 ギヨウの勝利を信じているミュエネだが、その言葉に安堵してしまう。


 そして、今日もノアタはオグルブと共に天幕へ消え、甘い嬌声を上げた。

 それを、今日もミュエネは丸くなりながら聞かされるのである。


 そして、それと同じ事は五日も続いたのである。

 それはつまり、五日もの間、オグルブとギヨウの決着は着かなかったという事になる。

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