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マキュニシェの戦い⑤

 ミュエネは、まさか自分が捕らえられるなど考えもしていなかった。

 そもそも敵がしてくるのは攻撃であり、その多くをミュエネは避けて来た。

 だが、手慣れた様子でミュエネをさらったオグルブの動きは素早く、とても反応できるものではなかったのだ。

 捕らえられた者の末路は、考えるまでもない。

 男なら殺され、女なら犯されるだろう。

 だからこそ、ミュエネは必死に抵抗した。

 しかし、投げ飛ばされ、数人がかりで抑えられてはどうしようもなかった。

 ミュエネは最後まであきらめなかったが、結局は敵陣まで連れて行かれ、檻に入れられてしまった。

 手を付けられなかったのは幸いであったが、まだ安堵は出来ない。

 これからという事なのだろうから。


 しかし、檻から脱出しようにも、武器は取り上げられ、目の前では最初にミュエネを渡された女の将が見張っていた。

 

「無駄な事はやめなよ」


 鋭い目つきで睨み、明らかに逃げる手段を探しているミュエネに女の将は言う。


「ここはオグルブ様の陣さ。その檻から逃げられても、どうやってこの陣から逃げるのさ」


 とは言うが、今がまさに好機ではあるのだ。

 戦の最中なのだから、兵は少ないはずである。


 言葉を発せずとも、逃げようとする意思を隠さないミュエネに、女の将はため息をつく。


「はあ……今頃、あんたの旦那はオグルブ様と一騎討ちしてるはずさ。そして勝った方があんたを得るんだ」

 

 旦那ではないし、一方的な話であると、ミュエネは思う。


「決着がつくまで大人しくしてな。まあ、もちろん勝つのはオグルブ様だけどね」

「ギヨウは負けないわ」


 たった一言だけ、ミュエネはその言葉を口にした。

 それは本心である。

 ギヨウは誰にも負けないのだ。


「やっと口を開いたと思ったら……」


 女は、何かを言おうとしたようだが、ミュエネの真剣な眼差しを見て、一瞬黙る。


「まあ、そう思うなら待てばいいさ」


 そして、諦めたようにそう言ったのだ。


 それから、ミュエネは言われた通り待った。

 待ったというよりは、それ以外の事が出来なかったわけだが。

 なんにせよ、時は経ったのだ。

 陽が落ち、夕方へとなったのである。

 その頃になると、遠くに敵兵が帰ってくるのが見え、そしてその中で一段と目立つ巨大の持ち主であるオグルブが帰って来る姿も、ミュエネは檻から確認できてしまう。


「ほらね、オグルブ様の勝ちさ」


 ミュエネを見張っていた女が、オグルブの姿を確認して、得意気に言った。

 それに、ミュエネは変わらず返事をしなかったが、それはギヨウの敗北を認めたからではない。


「オグルブ様!」


 オグルブが天幕へと着くと、女はオグルブの元へと嬉しそうに駆け寄る。


「勝ったのですね?」


 そして、その確認をしたのだが、オグルブは首を振った。


「決着はつかなかった」

「え……」


 女は、意外そうな顔で固まってしまう。

 何故なら、オグルブが一日戦って、勝負が着かなかったことはないからである。


「ふっ、そんな顔をするな。奴との戦い。今までで一番楽しいわ」


 オグルブは心底嬉しそうな顔をした。


「そして、滾って仕方ないわ!皆、来い!」

「は、はい!」


 オグルブは馬から降りると、自分の妻達を天幕へと誘う。


「誰か、代わりに見張りを」

「はっ!」


 ミュエネを見張っていた女もその例外ではなく、ミュエネの見張りを兵に任せて、オグルブと共に天幕へと消えて行ってしまう。


 ミュエネは、それを好機だととらえる。

 兵は男である。

 エルエの兵に色仕掛けなどしたくはないが、檻を開けさせてしまえばこちらのものである。


「はぁ~、こらあ、また、絶世の美女でねえか」

「まあ~、オグルブ様からすれば、美女かなんて関係ないんだろけどなぁ」


 そんなミュエネの考えも知らずに、兵達は檻の中のミュエネを眺めた。

 ミュエネは少し迷うが、扇情的な動きをしようと決意したのだ。

 しかし――


「まぁ、安心してくれや、お嬢ちゃん」

「オグルブ様の女に手は出せねえだ、殺されちまう」


 先んじて、そんな事を言われてしまった。


「あっ!あっ~!」

「オグルブ様ぁ」

「ん、ん、ん」

 

 更に天幕の中から、オグルブの妻達の甘い声と、男と女が激しくぶつかり合う音が聞こえて来る。


「ああ~、おっぱじめちまっただ」

「前に美女、後ろから声とは、目にも耳にも毒だよ」


 見張りの兵達は、耳を抑えながら、気まずそうにミュエネの方をチラチラとみる。

 これぞ好機なのだが、いかにも致している声と音に、ミュエネは顔を赤くして、体を丸めてしまっていたのである。

 

 そして、その状況は夜中続き、朝方になってようやく音は収まったのであった。

 ミュエネはその間、眠ることが出来ず、その音をずっと赤い顔で聞かされていたのであった。

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