マキュニシェの戦い②
エルエ軍は横に兵を並べ、じりじりと前進をしてきた。
それに応じて、フェズ軍も急いで兵を前へと出したのである。
「いいか!川は渡るなよ!」
ギヨウが、アカツキ隊に指示を出す。
ゼルバからもらった指令はそれだけであるのだから、守るのは簡単である。
「川の手前で、相手の攻撃を受けるんだ」
念を入れてギヨウが指示を出し、実際にアカツキ隊だけでなく、フェズ軍は川の手前で足を止めたのである。
だが、この時、不思議な事が起こっている事に気が付く。
エルエ軍は、まだ川の手前にすら到達していないのである。
川は、両軍を分かつように真ん中に流れている。
先に動いたエルエ軍が、フェズ軍よりもあとに川に到達するのはおかしいのである。
「ねえ、ギヨウ?」
そして、ある事に気が付いたジェスが聞く。
「なんか、相手が川を渡ってくること前提で話してる感じだけどさ……相手が川を渡ってこなかったらどうするのさ?」
「それは!……俺に聞くなよ」
ギヨウは、そんな事は想定できていなかった。
ゼルバの言う通りに、警戒して川を渡らずに待ち構えて、敵を迎撃する事しか頭になかったのである。
そして、その心配は現実となる。
エルエ軍は、ゆっくりと川の前に兵を展開すると、
「撃てぇ!」
弓や弩で、フェズ軍に向かって矢を放ってきたのである。
これはつまり、敵総大将ロヤは、最初からゼルバが川を警戒して渡ってこない事を読み切っていたのである。
「くっ!やべえ!下がれ、下がれ!」
想像以上に多い矢の嵐に、アカツキ隊に限らず、フェズ軍は後退を余儀なくされる。
ギヨウは、矢を切り払い、避け、馬も綺麗に矢を避けた。
だが、全員がそういうわけにはいかず、最初の攻撃でフェズ軍は大きい被害を受けてしまったのである。
「くそっ!誰か弓矢をくれ!」
ギヨウが弓矢を手にする前に、ミュエネはすでに矢を射っていた。
ギヨウの後ろでミュエネが放つ矢は、次々と敵を屠っていく。
「ふんっ!」
ギヨウも負けじと矢を放つが、川を挟んでこう距離があっては、中々矢を命中させることは出来なかった。
「当たらないよ、ギヨウ」
ジェスが同じように弓矢を射っているが、弱音を吐く。
ギヨウだけでなく、フェズ軍の多くは、上手く矢を命中させられていなかったのである。
しかし、そんな中で、綺麗な軌跡を描いて、矢を次々に敵に命中させている集団がいた。
森の民である。
「うはは、どうしたギヨウよ。ミュエネに弓を教えてもらってないのか?」
森の民の族長がわざわざギヨウの近くまで来て、自分の弓の技術を見せびらかす。
「いや――」
(そういや、教えてもらってないな)
ギヨウだって弓の扱いが下手なわけではないし、必要性を感じなかったからである。
「まあ見ておれ。フェズ軍の奴等に我々の弓を見せてやるわ」
族長は水を得た魚の如く、張り切って見せる。
(弓の腕を見せるのは味方にじゃなくて、敵にだけどな……)
ギヨウは呆れるが、これほど頼もしい事もない。
そして、実際にその日は、敵は川を渡ってくることはなく、弓矢による応酬となったのだが、先手をうった相手に引けを取らずに一日を終える事が出来たのである。




