領土奪還④
ゼルバは、自分は前線には出ず、常に一歩下がった位置から指示を出していた。
「ゼルバ様!各地から、エルエ軍が退いていっているようです」
ゼルバの元に、その伝令が届き、ゼルバは笑った。
「やはり優秀ですね、知の将ロヤは」
優秀であるがゆえに、ゼルバの考えた通りに動いてくれるのだ。
最も、相手が愚かであるなら、このまま農民の反乱に手を焼き続けて、勝手に自滅してくれるため、もっと楽ではあったのだが。
「さて、私は王都に一度戻りますよ。ベルベン、あとはよろしくお願いいたします」
「はっ!」
そしてゼルバは、再び王都へと戻る。
♦
ゼルバは、フェズ国王都キエラへと戻ると、武官や政官を集めた。
「おお、ゼルバ様。どうなさったのですか?」
「領土奪還は順調な様子ですね」
「流石です、ゼルバ様」
今まで以上に、ゼルバは持ち上げられるようになっていた。
彼等は、やはり、この国にはゼルバが必要だと再認識したからである。
だが、そんな中で、ゼルバに対する態度が変わらない者もいた。
「ゼルバぁ!」
ビルガン将軍である。
態度が変わらないどころか、ビルガンは怒りすら見せていた。
「おお、ビルガン将軍ではありませんか」
ビルガンの怒りを感じておきながら、ゼルバは飄々とした態度でビルガンに返事した。
ゼルバは、ビルガン将軍とは、前回王都に戻った時には会っていない。
その時にはすれ違いとなっていた。
そのため、今、この時はゼルバが復活してから、久しぶりの邂逅ということになる。
そして、ビルガンは当然、ゼルバが死んでから蘇ったなどという馬鹿げた話は信じていなかった。
つまりビルガンは、ゼルバの復活に、自分が体よく利用されたことに気が付いていたのである。
「貴様……」
そのため、文句を言おうとしたビルガンだったが、その場の空気を読み取って言葉を飲み込む。
「……何をしにきたのだ?」
ビルガンは保身に鋭い人間である。
今、この場には、ゼルバを持ち上げる人間しかいないと言う事には瞬時に気が付いていた。
「もちろん、軍議をしに」
「どういうことだ?領土の奪還に必要なのか?」
ゼルバは、領土の奪還をしている間は、ある程度は自分の采配で戦を行えるはずであった。
それが、軍議をしに戻ったと言うのならば、それは少し変な話になる。
「領土の奪還なら、ほぼ終わりましたよ」
「なにぃ!嘘を吐け!まだほとんど奪還できていないだろう?」
こればっかりはビルガンが正しい。
実際に、奪い返せているわけではないのだから。
「もうほとんどの領土から、エルエ軍は撤退しました。戦闘になる事もないでしょう。すぐに領土は奪い返せますよ。問題はその先です。エルエ軍が撤退したと言う事は、その兵を温存して、我々にぶつけてくると言う事です。つまり――」
ゼルバがもったいぶって言葉を切ると、
「次の戦が起こるという事か」
ビルガンが代わりに答えた。
「そうなりますね。エルエ軍はもう、その準備を始めているはずです。我々が悠長に領土の奪還をしている間に。これに後れを取るわけにはいきません。だからこそ、今、軍議が必要なのです」
もっともらしい話であるし、もはやゼルバに意見する者は誰もいなかった。
「む……そうか」
そう、ビルガンでさえも。
「では、軍議を始めましょう――」
軍議と言っても、ゼルバは人の意見を聞き入れたいわけではない。
軍議を行わずして、戦を始める事が出来ないから軍議をしているだけである。
その日は、王がいない事もあり、すんなりと軍議を終える事が出来た。
「今は、これで終わりにします」
話を終えたゼルバを、褒め称える声が上がる。
「おお!流石はゼルバ様だ!」
「先の戦いも、これほどまでに読み切っておられるとは!」
それを、ゼルバはどうでも良さそうに聞き流すと、
「さて、私は戻るとします」
そう言って、さっさと踵を返した。
「もう行かれるのですか?」
「ええ、もう終わったと言いましたが、厳密には領土奪還は終わっていませんからね。と言っても、すぐに終わりますがね」
ゼルバは自信満々にそう言うと、今度こそ本当に戦場へと戻ってしまった。
そして、その言葉の通り、ゼルバが戻ってから一か月ほどで、フェズ国は奪われた領土の全てを奪還することに成功したのである。
奪われるのに一年かかったこと、それを一か月で取り戻した事。
更に、ほぼ兵を使わずに取り戻したことで、ゼルバの名は更にユガルア中に響き渡ったのであった。




