ゼルバ復活⑨
ゼルバに今のうちに休んでおけと言われ、ギヨウは家へと帰って来た。
「って……なんじゃこりゃぁああ!」
もちろん、ギヨウは忘れていたわけではない。
前回、家へと戻ってきたときに、家が綺麗さっぱりなくなっていたことを。
それから、かなりの時間が経っているとはいえ、未だ家が完成していない可能性も考え、覚悟もしていた。
だが、それでもギヨウは驚いたのである。
そこにあったのは、まごうことなく家ではあった。
だが、その家の大きさが、ギヨウの予想を遥かに超えていたからである。
ギヨウが想像していたのは、元の家より少し大きい位の家である。
しかし、実際に出来上がった家は、二階建ての大きな家だった。
「どうよ隊長。驚いたか?自信作だぜ」
この家を建てたであろうエカドが、胸を張って見せた。
「いや、おまっ!……そりゃ驚くよ。ちょっとやり過ぎじゃねえのか?」
そうとしか言いようがない。
「少し手は加えたけど、渡された設計図通りではあるぜ」
「設計図?」
そんなもの、ギヨウは知らない。
「ああ、ローゼオロメメアがなんか最初から持ってて渡されたぞ、随分図面が正確だから楽に作れたぜ」
ギヨウは、ローゼオロメメアの方を見る。
「私が書いたんだ。凄いだろう」
ローゼオロメメアは、悪びれるどころか、全くない胸を張った。
「俺の家なんだが?」
一応、ギヨウは抗議して見せる。
「いや、私達の家でもある」
「そうだな」
「そうよ」
だが、女達三人に固まって言われては、何も言い返せなかった。
「中を案内してくれるか、ローゼオロメメア」
シルルが待ちきれないと言う感じで、家の扉へと向かう。
「ああ、任せろ。力作だ」
いつも冷静なローゼオロメメアだが、自分が設計した家を前にしては興奮を隠せない様子である。
ミュエネも心なしか、そわそわとしていた。
ギヨウも抗議こそしたが、新しくなった大きい自分の家を前に、好奇心は隠せなかった。
「待てよ!俺にも見せろ!」
「私も!」
そうして、四人は家の中へと入って行ったのだった。
家を建てたのはエカドだが、エカドはその背中を優しい目で眺め、
「俺が行くのは野暮だな」
そう言うと、一人、自分の住処へと戻って行ったのである。
ギヨウ達が家の中へと入ると、とにかく広い空間に出る。
その正面には二回へと繋がる階段があり、右と左にまた別の部屋があった。
「まずは、こっちだ」
そこを左に曲がると、机と椅子が並んだ大きな部屋になる。
更に、その奥に仕切りがあって、大きな炊事場があるのが確認できた。
つまり、ここは、
「食堂か」
ギヨウが言い当てる。
「ああ、料理好きのギヨウの為に、炊事場も凝った作りにしといてやったぞ」
(別に、料理好きなわけじゃないけどな)
思ったが、ギヨウは口には出さない。
「それにしても広くねえか?」
とても、三人で使う広さではない。
「一階は、アカツキ隊の奴等も入れるようにしてある。ここの逆側は食堂ではないが、同じように今のところは机と椅子しかない部屋になっているぞ。ここと違うのは、炊事場がないのと、厩舎と畑に繋がるようになっているくらいだ」
「へぇー、いいんじゃないか」
ギヨウからすれば、家に仲間が入ってくるくらいどうでもいいが、一階と二階で分けているのは、シルルやミュエネからしてもいい事だろう。
「じゃあ、上に行くぞ」
ローゼオロメメアはどんどんと進んでいき、階段を登る。
三人はそれについて行った。
上の階は、出たばかりの所は広かったが、通路は思ったよりも狭く、覗き込むと右に三部屋、左に三部屋しかなかった。
だが、逆に言えば、四人に対して六部屋もあると言う事になる。
「部屋数が少なくないか?」
もちろん建物の広さに対してである。
「一部屋一部屋が広く作ってある。住むのだからその方がいいだろう」
「まあ、そうか?」
ギヨウにはわからないが、そうかもしれない。
「で、どこが誰の部屋とか決まっているのか?」
「ああ、完璧な配置だ」
シルルが尋ねると、ローゼオロメメアは得意気に胸を張った。
「まず、右側の一番奥の部屋は、空き部屋だどうつかってもいい」
「ふーん」
これで、あと五部屋に対して四人である。
「で、右側の残りのニ部屋は書庫だ」
「いや、ちょっと待ってよ!」
ギヨウが、すかさず突っ込みを入れた。
言うまでもない事だが、もう三部屋に対して四人になってしまったからである。
「落ち着け、言いたいことはわかる。最後まで聞いてからにしろ」
「わかったよ」
ギヨウは一応最後まで聞くことにした。
「で、左側の一番手前の部屋が私の部屋で、その隣が書庫で、一番奥がギヨウとミュエネとシルルの部屋だ」
「いや!おかしいだろう!」
明らかにおかしいのだ。
「おかしくはない」
だが、ローゼオロメメアは大まじめのようであった。
「なんで、俺達三人で一部屋なんだよ」
「元々、三人で暮らしてたから問題ないだろう」
「ぬっ……」
そう言われると、ギヨウは言葉に詰まる。
「お前らはいいのかよ?」
ギヨウは矛先を変えてみる事にした。
「別に構わないぞ」
「最近は、ほとんど戻って来ないしね」
「なにっ!」
だが、意外にもミュエネもシルルも否定的ではなかったのだ。
「わかったよ……百歩譲ってそこはいい。でも、なんで間に書庫があるんだよ。右側に書庫三つじゃ駄目だったのか?」
明らかに不自然である。
「ああ、駄目だ。そこは重要な所だからな」
だが、ローゼオロメメアは真剣な顔でその理由を言った。
「ミュエネなんかは声が大きそうだからな。本でも置いた部屋を挟まないと、うるさくて眠れなさそうだ」
一瞬、時が止まる。
ギヨウは小首をかしげ、ミュエネとシルルは顔を赤くした。
「ちょっ!そんなに声は大きくないわ!……多分」
「うお!」
突然ミュエネが大きな声を出し、ミュエネのこんなに大きな声を聞いたことがないギヨウは驚く。
「い、いや、確かにミュエネは体も色々大きいしな、こ、声も大きいかもな……」
「ちょっと、シルル!」
何故かシルルは、ローゼオロメメア側に回る。
「何の話だよ。ミュエネは基本的に人見知りで無口だし、声も小さいだろ、いつも俺の耳元で囁いてるんだぞ」
ギヨウは、とぼけた事しか言わない。
「そうか、耳元で甘く囁く。そういう可能性もあるか」
それを聞いて、ローゼオロメメアは何故か納得した様子であった。
「ちが……もう!」
ミュエネは、意味のない言葉を出すしかなかった。
「それじゃあ、部屋割りに異論はないな」
異論しかないが、もはや言葉を挟む余地はなさそうである。
「仕方ねえな。まあ、前と変わらないと思えばいいか」
ギヨウは持ち前の適当さで、そう締めくくった。
「なあ、そろそろいいか?」
そこで、シルルが口を挟む。
「なんだ?」
「せっかく食堂があるんだ。早く飯を作ってくれ。腹が減った」
「お前なぁ……」
そうは言ったが、ギヨウも新しい炊事場は気になるところであった。
「よし!じゃあ、飯を作るか!」
そのため、ギヨウ達は一階へと降りていく。
未だに、顔を赤くして、ぶつぶつと何かを言っているミュエネを残して。
そんなミュエネも、食堂からいい匂いがしてくると、飛んでいってギヨウの作った上手い飯にありついたのだった。
そうして、新しい家を手に入れたギヨウは束の間の休みを楽しんだのだった。




