ゼルバ復活⑤
それはゼルバが蘇り、ズェガェが討たれてから数日後の話となる。
今回の戦に置いて、ロヤ達四傑将は、四か所から同時にフェズ国へと攻め入っていた。
それぞれ、知の将ロヤはマチェバナン将軍の居城を、武の将オグルブはガエロオ将軍の居城を、秀の将ジアヒスはビルガン将軍の居城を、そして、守の将ズェガェは国の外側を回って王都への奇襲を。
そのどれもが、フェズ国にとって致命傷となる動きであった。
しかし、攻城戦ともなると、どれほど有利でも時間がかかる、ましてやフェズ国きっての名将達が相手では尚更であった。
そんな中でも、フェズ軍側が、最も敗北に近づいていたのは、マチェバナン将軍が守り、知の将ロヤの軍が攻める戦場であった。
その戦場に異変が起きる。
「ロヤ様!」
ロヤは勝利を確信し、余裕を持って本陣で勝利の報告を待っていた。
それほどまでに、大詰めのところまで来ていたのである。
だが、伝令が持ってきたのは、勝利の報告ではなかった。
「敵の援軍が……」
「なっ……!」
ロヤは驚くしかなかった。
もはや、援軍が来るほどの力は残されていないはずだからである。
「ヨギ……ですね……」
だが、すぐにどこから援軍が来たのか気が付く。
そして、それは当たっていたのだ。
ロヤは本陣から出て、敵の規模を確認すると、伝令に問いかける。
「城の方は?」
「予想以上に敵の抵抗が激しく、今しばらく時間がかかるかと」
そうなれば、ロヤの出す指示はただ一つであった。
「一度兵を引かせます。ヨギ軍の相手はしなくて良いです」
「はっ!」
その指示の通りにエルエ軍が一度引くと、ヨギ軍は城の前に布陣こそしたが、エルエ軍へ攻撃してくることはなかった。
ヨギ軍がその動きをすることは、ロヤは予想通していた。
ただ、ヨギ軍が援軍に来ること自体は、全く予想出来てはいなかったが。
その理由として、ロヤは念入りに諜報活動をしたことにあった。
ヨギ軍の存在は理解していたのである。
ただ、ヨギ将軍の性質上、戦場に来るのは勝利を確信した時のみであると、ロヤは考えていた。
(流石に自国の危機に立ち上がったのでしょうか?いえ、それはないでしょう)
ロヤの予想としては、ヨギは負け戦には出てこず、最終的には戦わずにエルエ国へ吸収される。
そう、予想していたのだ。
(もしくは、何か勝利を確信した……ということでしょうか?)
それは、もっとあり得ないだろう。
残る援軍があるとすれば、フェズ国と同じくぼろぼろのベザ国とギラグ国である。
ギラグ国はともかく、ベザ国は自国の防衛を考えれば動くはずがない。
「ロヤ様!」
そこに、更に伝令が追加でやって来る。
その伝令は、ぼろぼろの兵を連れており、ロヤは背筋を凍らせた。
その伝令の内容が予想ついたわけではない。
だが、ヨギが勝利を確信するような、ただならない事態が起きたことは、容易に予想できたからである。
「ズェガェ様が、ズェガェ様がぁ――」
ぼろぼろの兵が涙を流しながら言う。
ロヤは耳を防ぎたくなる気持ちを抑えて、その報告を受け止める。
「討ち死にされました!」
ロヤからすれば、まるで頭を鈍器で殴られたかのような衝撃であった。
それは、その場で地面に座り込んでしまう程である。
「そんな、おじさまが……」
ロヤは、ただ虚ろな目で地面を眺める事しか出来なかった。
その目からは、涙が地面へと落ちていく。
しかし、少しすると、ロヤは立ち上がった。
その目からは、涙はもう流れていなかったのだ。
「誰にやられたのですか?」
そして、凛とした顔、しっかりとした口調で言った。
ロヤは、知の将なのである。
「ズェガェ様を討ち取ったのは、千人斬りのギヨウですが……」
「ギヨウ……」
兵の言葉が終わっていない内に、ロヤは呟き、鬼のような形相で歯ぎしりをする。
あの時、あの少年を討てなかったことは、後悔でしかない。
「外の国から援軍を連れて、兵を率いたのは、ゼルバでございます」
その言葉に、ロヤは驚かなかった。
もはや、ゼルバが復活した、それ以外の事は考えられなかったのだから。
だが、連れて来た援軍が外の国の者だったのは予想できなかった。
そもそも、外には村がいくつかあるだけで、それぞれまとまっているわけではないのだ。
ユガルア大陸の外には村があって、そこに住んでいる人がいる。ほとんどの人間がその程度の認識しか持っていない。
だから、ロヤが森の民の援軍を読めないのは仕方のない事ではあった。
「……たいです」
ロヤは、悔しそうに俯きながら小さい声でその号令を出した。
「え?」
伝令はそれを聞き取れずに、聞き返す。
「撤退します!全軍です。オグルブおじ様にも、ジアヒスおじ様にも、そう伝えてください」
今現在、目の前にはヨギの軍がおり、ゼルバの軍の援軍も来るのだ。
そうなると、この戦場は厳しいものになる。
そして、この戦場が敗北すると、そのままゼルバ達は次の戦場へ向かうのだろう。
オグルブやジアヒスは、とったばかりの城で籠城することになってしまう。
そうならないためには、撤退する以外に道はないのだ。
その決断が、どれほど悔しくてもである。
彼女は知の将なのだから。
♦
ヨギ軍の中央で、ヨギ将軍はいた。
ヨギ将軍は、ゼルバより若く、細身で背が高かった。
「あっ!敵が撤退していきますよ!」
ヨギの近くにいる、ヨギとは対照的に背の低い少年がそう言った。
彼は、ベルェッという名の、ヨギの補佐である。
「正しい判断だ」
ヨギは涼しい顔でそう言った。
「追いますか?」
ベルェッは無邪気な顔で聞く。
「無駄な事はするな。それよりも行くぞ」
そう言うと、さっさとヨギは馬を反転させてしまう。
「え、どこにですか?あっ!わかった。オグルブ将軍の援軍ですね!」
「違う。そっちには半分の兵を送る。半分では足りないが、敵が馬鹿でなければ、撤退しているから問題ないはずだ。事前に話しただろう」
言われても、ベルェッは小首を傾げるだけであった。
「じゃあ、もう半分はビルガン将軍の所ですね」
そして、更に話を続ける。
「それも違う。ビルガンの所には援軍は送らない。あいつは死んでも問題はない……残念な事に、あちらも守り切れるだろうな」
ヨギはさらりと酷い事を言う。
「え?じゃあ、どこに行くんですか?」
「マチェバナンの所だ。礼をもらいにいく。もちろん、態度ではなく形でな」
そして、ヨギは本当にマチェバナンの元へ行ったのだった。
ヨギの予想した通り、ヨギの援軍がオグルブの元に着いた頃には、エルエ軍は撤退していた。
つまり、ヨギは戦わずして勝利したのである。
♦
更に、その先のビルガンの領地で、秀の将ジアヒスがビルガンの居城を攻めていた。
「思ったよりやるな。凡庸な将だと思ったんだが」
ジアヒスは、思ったよりも苦戦をしていた。
実は、その理由としては、ビルガンが貯めこむ性格だからというのがあった。
出来るだけ自分に有利に事を進めるために、兵も武器も貯め込んでいたのだ。
それが功を制したのか、ジアヒス相手でも粘り続ける事が出来たのだ。
「ジアヒス様!急報です!」
そのジアヒスの元に、その報せが届く。
一方、ビルガン陣営では、
「そろそろか……?」
ビルガンがそう呟いた。
「うん、そうだな。そうしよう。おい、ギムジ。儂は降伏するぞ。これだけ粘ったのなら、儂が優秀な事は相手にも十分伝わっただろう」
ビルガンが無駄に頑張っていたのは、一重に自分の為だけである。
「はっ!それが、敵が撤退を始めました」
「なにぃ!」
ビルガンは驚く。
「それと、ゼルバ様が生きておられ、守の将ズェガェを討ち取ったとのことです」
「なぁあにぃいい!?」
ビルガンは驚くしかなかったのだ。




