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第7話 拉致と張り込み

「せい! やあ!」


 道場では道場生たちの掛け声が響いている。

 道場主であるカイサルは道場生たちの稽古の様子を眺めている。

 が彼の心はそこにはない。

 彼の心はマリーナを恋い焦がれていた。


(いい女だ、ぜひともものにしたい……)


 道場生たちの稽古をそっちのけで彼はマリーナのことを夢想する。


 豊満な肉体にやわらかそうな肉。

 男好きしそうな肉厚の唇と時折見せる花咲くような笑顔。

 あの笑顔を苦痛に歪めてぐちゃぐちゃにしてやりたい。

 穢れをしらない、おそらく処女の彼女に快楽を教え込み、穢してやりたい。

 彼女の純粋でピュアな心と肉体とを、めちゃくちゃに犯してやりたかった。


「先生! 次はなんの稽古をいたしましょう?」


 物思いに耽っていたカイサルははっとする。


「次は組み手だ。それぞれペアを見つけてはじめろ!」

「「「はい!」」」

 

 道場生たちはカイサルの指示に従い、組み手をはじめる。

 その時、カイサルの脳裏に今度は前に邂逅したダリウスの姿が浮かぶ。


「あの野郎……」


 カイサルは誰にも聞こえないような声で呟く。

 ダリウスをひと目見て分かった。奴は自分と同類だと。

 獣性の強い獣で自らの力と実力によって、意思を通してきたものであろうと。

 同じ犯罪者、強姦者で恐らく殺人者であろうと。


 カイサルは今でこそ、このような田舎町で道場など開いているけれど、元々は別の国のスラム出身だ。

 当時の彼を知るものがいれば、カイサルの現在の姿を見て驚くであろう。

 彼は力が正義のスラムであっても異質な強さを誇っていた。

 力によって横暴の限りを尽くし、最後的にはスラムだけでなく、国家にまで危険視されて国を追われている。

 国を追われ、逃亡の果てに辺境の町、ナーストレンドにたどり着いたという次第であった。


 彼はマリーナのことを思い描いていると、自身の欲情を抑えきれなくなってきた。


「これはダメだな…………抑えないと…………」


 彼はまた誰に聞かれることのない小さな声でそう呟いた。

 


 

 ◇


 カイサルは女の口にかけていた猿ぐつわを外して、平原に女を放り投げる。


「痛っ、……お、お願い! 乱暴しないで!」


 女性はその目に涙を浮かべながら懇願する。

 いい表情だ。加虐心がそそられる。


 ここはナーストレンドの北側の平原。

 このような所まで来る物好きはめったにいない。

 それはまだ陽が明るいけど存分に楽しめることを意味していた。


 カイサルは彼特有の貼り付けた能面のような笑顔を浮かべたまま、女性に近づき、上半身の衣服を強引に剥ぎ取る。


「い……いやぁああああああ!!!」


 心地いい悲鳴が人気のない平原に虚しく飲み込まれていく。


「抵抗して泣き叫んでもいいですよ。このような所です。誰にもあたたの声は届きません。それに私はそちらの方が興奮するたちでしてね」

「ぶっ!!」


 女性によって吐きつけられたつばがカイサルの顔面に直撃する。

 カイサルは間髪入れずに女性に平手打ちをして、顔についたつばを拭った。

 目を血走らせて歯を食いしばりながら告げる。


「そうです、いいですよ。そうやって抵抗するのです」


 カイサルが鼻息荒く女性に覆いかぶさろうとしたその時――


「まさか、あんな大胆に女を攫うとはな」


 驚いて声がした方向を振り向く。

 するとそこにはいつかの冒険者のダリウスと、その連れと思われる一人の男がいた。


「ちっ」とカイサルは舌打ちを一つする。

 

「付けられていましたか……これからという所でしたのに、まったく!」

「気づかなかっただろ? 盗賊(シーフ)のスキルを持っているゲイルにお前をつけさせていたからな。女を攫って平原に悠々と歩いていくのを目撃したのちに、俺をゲイルが呼びに来たってわけよ」

「お願いします! 助けてください!!」


 ダリウスは助けを願う女性に目を向ける。するとその顔をニヤけさせ、


「いい女じゃねえか。この青びょうたんを片付けたら俺が相手をしてやるから少し待ってな、ねえちゃん」


 助けに現れたと思った男が、そうでなかったと理解した女性は絶望の表情を浮かべる。

 

「ダリウスさん、この野郎は俺にやらしてくださいよ。こいつのその人を小馬鹿にしたようなニヤけ面が気に入らねえ」

「いいぞ、ただし最後の留めは俺に入れさせろ」

「承知です」


 雑魚が勘違いしやがって。

 カイサルはその顔を少し歪める。

 だがお楽しみが増えたともいえるこの状況はカイサルにとって好都合だった。


 ゲイルが前に進み出てカイサルと対峙する。

 彼は腰にかけた三日月刀を抜く。


「てめえの流派は『金剛手』とかいったか? 門下生が冒険者にも何人かいるな。そいつらも気に入らねえんだよ。てめえをぶっ殺して今日からそいつらは全員俺の舎弟だ」

「おめでたいですね」

「は?」


 言われたことをすぐに理解できず、ゲイルが首をかしげる。

 カイサルは挑発するようにニヤリとして告げる。


「あたなたち程度の雑魚が私に勝てると思っているのが、おめでたいと言ったんですよ」


 そのカイサルの挑発を合図にするかのように、額に青筋を浮かべたゲイルは三日月刀を振り上げて、カイサルに踊りかかった。


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