第42話 終戦
(どうしたらいい?)
(……力の限り切り刻め。召喚されているということは能力制限されているということ。であれば不死身性も制限されておるかもしれぬ。先程の光線の威力も、冥界にいる時に比べれば数分の1程度しかない)
(あの威力でか……)
(妾も全開でいく)
魔剣の輝きが増す。
魔剣から魔力が濁流のようになって溢れ出す。
ジーンは瞑目する。
浮かんでくるのは異世界に来て経験した様々な光景だ。
カイサルにダリウス。
アスタロトにパウラ。
ダリウスにビビアーナ。
そしてマリーナにカルティア。
彼らと共に過ごした光景が浮かんでは消えていく。
「お父さんとお母さんを返して!」
大泣きしながら必死に叫ぶ、カルティアの姿。
異世界で得た、愛すべきかけがいのない存在。
このままザニーの暴走を許せばマリーナとて危ない。
ジーンは通行不能区間をくぐり抜けた時のように。
自身の魔力を最大限に高める。
自らの肉体に最大の集中を向ける。
この戦いに身命をかける!
何よりも自身のかけがえのない人たちを守る為に!
みんなが笑って過ごせる未来を掴む為に!
「うぉおおおおおおおおおお!!!」
ジーンは上段から振りかぶると、全力で魔剣を白い肉に斬りつける。
白い肉は斬られると緑色の血を流す。
攻撃が通った!
「馬鹿な無敵の白い肉に傷をつけた!? それに回復しないだと?」
(睨んだ通り中途半端な白い肉じゃ。勝機はあるぞ)
開口部から矢継ぎ早に次々と光線が発せられる。
それをジーンはギリギリで躱しながら、更に白い肉を斬りつける。
次々に白い肉は斬り刻まれていく。
あまりに酷い損傷箇所はただれて溶け落ちていく。
白い肉は段々とその肉体を維持していくことが難しくなっていく。
「うぎゃあああああああああああ!!!! 馬鹿な、そんなはずは、そんなはずはーーーっ!!!」
「止めろ、お前!」
「痛い! 痛い! ぎゃああああああああ!!」
ザニーの断末魔が次々あげられ、そして頭一つ一つが絶命していく。
最後一つの開口部からの光線をジーンは躱し、その開口部を水平に斬りつける。
その開口部のただれて消え去る。
気がつくと白い肉にあるザニーの頭部は後、一つだけになっていた。
「な、なあ、ジーン。一つ提案があるんだが……魔界なんだが分割統治といかないか。俺とお前との二人で。法律などは俺に任せろ! こうみえても天界の大学を出て――」
「断る!」
ジーンはザニーの最後の頭部に魔剣を突き刺す。
「うぎゃあああああああああああーーーっ!!」
最後の断末魔の後、頭部はただれて、もげ落ちる。
最後の頭部が消失したのを合図にしたように、残った白い肉もすべてただれて消滅していく。
(終わったな。我らが勝利じゃ)
ジーンは魔剣を鞘に収める。
「終わったのか……まさか、あの冥界の原生生物、白い肉とやらに勝ったのか……?」
「信じられん……たかが人間如きが……」
ガルギアにビビアーナ。
二人はジーンの活躍があまりに衝撃的すぎて呆然自失としている。
「しかし、勝利は勝利」
「そうね。そしてこの魔界で今、もっとも強き者」
「誰も異論はないじゃろう。元2大魔王が認める新魔王の誕生じゃ!」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って……」
「皆のもの! 新たな魔王の誕生を拍手をもって迎えるのじゃ!」
パチパチと散発的だった拍手が、徐々に戦場全体に波及していき、遂には戦場全体からジーンへと拍手が寄せられた。
(ほう魔王か。まあ、妾を手にするものが持つ、妥当な称号じゃな)
(馬鹿言うな。俺は断固として拒否するぞ)
(なぜじゃ? 欲のないことをいうのう)
「みんな!」
ジーンが両手を上げてそう呼びかけると、みんな拍手を止めた。
「悪いが俺は魔王にはならない。強者のいうことを聞くのが魔界の掟なら、今の2大魔王統治を続けるのが俺の命令だ」
「なぜ魔王を拒否する?」
「まず俺が人間だということ」
「確かに過去人間が魔王になった実績はないが……」
「もう一つ。魔王なんて俺の性に合わない。これが一番だ。それ以上でもそれ以外でもない。この議論はここで終わりだ。異論は認めない。逆に文句があるやつがいればかかってこい! 魔界式で決めよう!」
戦場はシーンとなる。
「じゃあ、決まりだな。俺はもう疲れた……一旦魔王城で休ませてもらうよ……」
「承知した。それでは今回の戦争はここで終了とする! 我らがルギア軍とビビアーナ軍。お互い争う理由がないことも判明したしな」
「そうね。我が軍も自国の領内へと戻るように。今回の戦争はここで終結よ!」
戦場の兵士たちから歓声が次々とあがる。
その時にはもうジーンはその場から離れて、マリーナとカルティアがいる場所まで歩みを進めていた。
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