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第41話 冥界の白い肉

「我に権能をお与えください! 魔を討ち滅ぼす権能を! 魔界を支配するに足る権能をお与えください!!」


 ザニーのその懇願の後。

 光の柱の光度が段々と強まる。

 光が強すぎて柱の中にいるザニーの姿が確認できなくなる。

 遂には目を開けていられないような光度となり、ジーンは光で目を傷めないように腕で前を覆う。


 数秒間が経った後。


 ジーンはゆっくりとその目を開ける。


 光の柱は消え去り、ザニーが立っていた場所には、ザニーとは全く別の生物が出現していた。

 その生物は頭部が異様に大きく、体は人間の赤ん坊ほどの大きさしかない。

 顔も身体中もシワだらけで、見た目は老人のようにも見える。

 身体に毛は一本も生えておらず、ステレオタイプの異星人のような見た目にも似ている。


 天界から何かしら施されたのであろうが、目の前にいるものの戦闘能力が高いとは思えず、試みは失敗に終わったと思われた。 


「わかる、わかるぞぉお! 全てがわかるぞお!!」


 声を聞いてジーンは驚く。

 ザニーと入れ替わったと思ったそのものの声は、元のザニーと全く変わっていなかった。


「お前、ザニーか?」

「あっ? ザニーに決まっとるだろうが。まあ、ちょっとばかり姿形は変わっているが、こんなものは愛嬌よ」


(ちょっとばかりじゃないだろうが。子泣き爺みたな見た目に変わりやがって)


 ジーンは心の中で突っ込みを入れる。

 

「私が授かったのは召喚の全知の権能。最早お前たちに勝ち目はないぞ。魔界を恐怖の底に叩き落としてくれるわ!」

「随分と大きくでたな」

「ふん、大言壮語かどうかはすぐにわかる。その身をもって思い知るがいい!! いでよ冥界の白い肉よ!!!」


(冥界の白い肉じゃと!?)


 魔剣ヘルデガードから驚きの声が上がる。


(知ってるのか?)

(その昔、冥界で暴れまわり、お父様の手すら煩わせた存在。だが白い肉は封印されているはず。魔界程度の魔素濃度で白い肉を召喚できるはずが……)


 突如、数十もの魔法陣が空中に一気に出現して、空を埋め尽くす。

 魔法陣はそれぞれ高速で回転している。

 

 すると突然、ザニーから白い肉が飛び出てくる。

 白い肉はザニー自身を包みこみながら、どんどんその量を増やす。

 ザニーは白い肉から頭部だけが見えるようになる。

 白い肉でできたザニーの身体はどんどん巨大化していく。

 

 その渦中でザニーの別の頭部、顔面が白い肉の中から出現する。

 それも一つではない。二つ、三つ、四つとどんどんその数を増やしていく。

 上半身、下半身、腕、腹、胸、背中に、太もも、ふくらはぎ。

 あらゆる所にザニーの老人のようなしわくちゃの顔面が出現する。


 最終的に人が三人くらいの高さにまで、白い肉でできた肉体は成長した。


「素晴らしい」

「これで私は無敵だ」

「今日から魔界の支配者は私だ」

「お前らにこれから地獄を見せてやる」


 それぞれのザニーの頭部が思い思いに、喋る。

 その光景は異様であり、不気味でもあった。


(なんだあれは? あれが白い肉なのか?)

(いや、白い肉は白い肉じゃ。あんな風に取り込んで使用するなどは本来不可能のはず。なにせ白い肉には知性はなく、あるのは飽くなき食欲だけじゃからな。本当に召喚として制御できているようじゃ。間違いない冥界の魔力を纏っておるし、あの魔力にも覚えがある)


「まさか、本当に冥界の魔物か?」

「魔素が足りずに地上界、魔界や人間界では冥界の原生生物は生きられないはず。なぜ!?」


 ガルギアとビビアーナもそれぞれ驚きを口にする。


「ひぃぎぃやぁああああああああ!!!」


 白い肉のザニーの頭部のうちの一つが悲鳴を上げる。

 そのザニーの頭部を引き裂くように白い肉から小さな開口部が作られる。

 その開口部から光線が吐き出された。


(よけろ! ジーン!!)


 ジーンはその光線を間一髪でよける。

 その光線はジーンたちと少し離れた所に着弾する。

 大爆笑が発生して、きのこ雲が形成される。

 爆発の衝撃で空気までものがビリビリと振動する。


「なんて威力だ……」


(これが白い肉だ。これに加えて奴は不死身だ。切っても切っても死なんぞ)

(そんなもんどうしろと……)


「マリーナ! イーグルに乗って、もっと遠くへにげてくれ!」


 マリーナは頷くとカルティアを連れて、イーグルに乗って更に戦場から離れる。

 

「どうだみたか! これが白い肉の威力よ! ってひぃぎぃやぁああああああああ!!!」

「ひぃぎぃやぁああああああ!」

「お前ら全員ちりにってうぃぎぃやぁああああああああ!!」


 白い肉の肉体に次々と開口部が開かれる。

 ザニーの悲鳴が絶え間なく発せられる。

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