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第38話 新魔王

「はーーはっはっはっは、素晴らしい! 素晴らしい力と肉体だぁ!! これが星屑の欠片の力か!!」

「「………………」」


 ガルギアとビビアーナは無言になり、何も言い返せない。

 瞬殺されると思われていたグレイグが善戦している。

 戦場にも大将たちの動揺が広がっていく。


「貴様、天界になど魂を売り渡して恥ずかしいと思わんのか」

「長かった……長かったぞ……」

「……ん? 一体何が?」

「貴様に破れたメタル族が王族から下野に下り、一般人となった後。その後のメタル族の屈辱の歴史から、今の今までがなあ!」

「わしがメタル族の特権を、すべて撤廃したのを恨みの思っていたわけか」

「そうだ! メタル族はこの世の天下であったのに! 貴様以外にメタル族に敵うものなどいないのにも関わらず、己よりも弱いものたちに優位に立たれる屈辱! メタル族からの魔王の輩出は我らが一族の悲願であったのだ!」

「だからといって悪魔に魂を売り渡しても、いいのかといっておるのじゃあ!」

「悪魔だろうがなんだろうがお前に勝てるなら、どんな犠牲も厭わないわ! この世界を是正し! あるべき姿に戻すためならなあ! これからはまたメタル族が魔界の支配層として君臨する!!」

「誰が許すかぁ! そんなことを!!」

「……確か、こうだったよな。お前の得意技は?」


 グレイグは拳を振り上げ、それをガルギアに振り下ろす。


「ぐぬぅゔゔゔゔゔゔ」


 ガルギアはそれを防御しようとするが、防御しようとした腕はへし折れ、一撃で地面に沈められてしまう。


「脆い! 脆いぞ、あんなにも鉄壁で、どんなに攻撃しても傷一つつかなかったあのガルギアが! こんなにも脆いぞぉ!!」


 グレイグは今度、その視線をビビアーナに向ける。

 彼は舌なめずりをして、いやらしい笑みを浮かべる。


「下賤なメタル族め、私をそんな風な目でみるんじゃない!」


 ビビアーナはまた魔力弾を構成しようとするが――グレイグは一瞬で空中のビビアーナの後方へと移動し、後ろから脇腹へと攻撃を加える。


「ぐぼぉゔゔゔゔゔッ!!」


 ビビアーナもまた一撃で地に堕ちる。


「お前は後で別にたっぷりと楽しんでやる。楽しみにしてまっとけ」


 グレイグはビビアーナの顎をその手で掴んで、顔を近づけてそう告げるが――


「ぶっ!!」


 ビビアーナが吐き出した唾がグレイグにかかる。

 その唾をグレイグは舌で舐めとった。

 ビビアーナの顔色が青ざめる。


「くくく……あははははは……あーはっはっはっはぁーーーーッ!」


 グレイグは両手を天にかざして勝利の笑い声を上げる。

 魔族たちの畏敬の眼差しがグレイグに集中する。

 

 魔界に新たな魔王の誕生の瞬間だった。

 誰もが、そう思った時のことだった。


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