第37話 開戦
ガルギア領の見晴らしのいい平原の一角。
そこでガルギア軍とビビアーナ軍、両軍は対峙している。
お互い臨戦態勢で、いつでも開戦できる状況であった。
ガルギアとビビアーナ。
二人の大将がそれぞれ前に進み出る。
「薄汚い女狐よ! 貴様の命も今日までじゃ! わしの息子と嫁ならず孫娘までのよくものう!」
「お前の息子のことなど知らぬと何度言えば気がすむ! 孫娘についてもこちらは関知などしておらぬ! それよりもよくもコッテリラを! 貴様は絶対に許さない!! 貴様は100回殺してやる!!」
「コッテリラじゃと? そんなこと知るか! 数百年の因縁、ここで決着をつけてやるわ! さあ、開戦じゃあ! 皆の者、気合を入れろっ!!!」
「こちらも開戦よ! みんな、私の為に死んで頂戴!!」
お互いの軍勢からそれぞれ天を穿つような咆哮が放たれる。
それとともに両軍がぶつかり合う。
単純な力と力のぶつかり合い。戦術もクソもなかった。
より強いほうが生き残る殲滅戦である。
そうして両軍が入り交じる中、ある一角だけ円状にスペースが空いている。
そこはガルギアとビビアーナが戦っているスペースであった。
スペースを空けているのは、戦闘の巻き添えを避けるのと、戦闘の邪魔をしない為であった。
ガルギアとビビアーナがぶつかり合う度に、地響きのような打撃音が戦場にこだましている。
ビビアーナはその邪眼の力をフルに使うため、その両眼からは血管がいくつも浮き出ている。
体は真っ赤に変色し、完全に本気の戦闘モードに移行していた。
一方のガルギアも普段は温存している筋力を全解放している。
彼の体から強い熱が発散され、それによって周囲に水蒸気が発生している。
その表情は闘神と呼ばれていた頃の表情に戻り、戦いの喜びに満ち満ちていた。
そんな彼らの戦いを横目で確認して、ほくそ笑んでいる男がいた。
彼は機が熟すのをじっと待っている。
戦闘がはじまって数時間は経過しただろうか。
地面には屍が積み上がり、疲弊した兵たちが次々と戦場に倒れていく。
ガルギアとビビアーナはお互い傷だらけになり随分疲弊している。
実力は互角でお互い一歩も引かない。
平原は二人の戦闘のせいでそこら中にクレーターが形成されて、地形自体も若干変わってしまっている。
二人は十分に疲弊した。最早全開時の半分の力も残っていないだろう。
そろそろ頃合いか。
二人が対峙してる間に、一人の命知らずの人物が割って入る。
「貴様、なんのつもりじゃ。邪魔じゃ、そこをどけ!」
「ガルギアのいう通りですわ。我らが戦いには一切の援護も妨害も無意味。死にたくなければそこをどきなさい!」
間に入った男は不敵な笑みを浮かべる。
彼は懐から一つの青い石片を取り出した。
その石片を目にしたガルギアとビビアーナの表情が変わる。
「そ、それは星屑の欠片! 貴様、どこでそれを!!」
「どうことかしら? なんであなたがそんなものを持っているの? そしてなんでそれをあなたの主君たるガルギアが知らないの? ねえ教えてくれる――グレイグ」
グレイグは不敵な笑みを浮かべたまま、星屑の欠片と呼ばれる石片を直接口にする。
ボリボリと咀嚼した後、ごくんと飲み込んだ。
「ああああああああああ!!」
グレイグの肌色がねずみ色からどんどん青系統へと変化していく。
それと同時にグレイグの魔力がどんどん跳ね上がっていく。
最終的に真っ青な肌色となったグレイグは、元のグレイグとは全く違ったオーラを纏っていた。
「素晴らしい! これが星屑の欠片の力か!」
「グレイグ、答えろ! なぜ貴様がそれを保有している!」
「うるせえなあ、決まってんだろそんなの。天界人から譲り受けたになあ!」
グレイグは自身の魔力を周囲に発散する。
それは瞬くに戦場全体に大きな輪になって波及していく。
戦場にいる魔族たちの注目がグレイグに集まる。
「はははは、素晴らしい、素晴らしい力だぁ! お前ら、今日この時、魔界の歴史が書きかわる、この瞬間に立ち会えたことを光栄に思うがいい!!」
「魔界の歴史が書きかわる? 何を寝ぼけたことをいっておるか。そこをどかぬならお前ごとぶち殺すぞぉ!」
ガルギアがグレイグに凄まじい殺気を飛ばす。
「やれるもんならやってみろ!!」
「ふんぬぅうーーーー!!!」
ガルギアが空間をちぎるジェスチャーをする。
それによってグレイグの周囲の空間が歪むがグレイグ自身は何も変化がない。
「何かしたか?」
「なぁにぃいーーーッ!?」
がルギアはその目を見開き驚愕の表情を浮かべる。
「さあ、私の愛しき従者たちよ! 私にあなたたちの力を分けて頂戴!」
宙に浮いたビビアーナがそういうと、彼女に従者たちの魔力が存分に分け与えられる。
「いい子たちね。後でご褒美を上げるわ」
「「「もったいなお言葉です。ビビアーナ様!」」」
彼女の従者たちは歓喜の涙を流しながら応える。
「私が疲弊したとみて出てきたんでしょ。いやらしい男。だけど、その目算は大外れよ。はああああッ!!」
ビビアーナは巨大な魔力弾を構成する。
「ガルギアにぶつけようと思っていたとっておき。もったないないけどあなたにくれてやるわ。しぃねぇえええええ!!!」
巨大な魔力弾がグレイグに降り落ちる。
凄まじい爆発が発生し、グレイグの周囲、ガルギア以外の者たちは大きくふっ飛ばされる。
人々の悲鳴が戦場にこだまする。
「なっ? む、無傷ですって!?」
大きく形成されたクレーターの中心には無傷のグレイグが佇んでいた。
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