第36話 無限牢獄Ⅱ
いつかみた景色だった。
不揃いの奇妙な建物群。
無機質で人の気配のない空間。
行けども行けども終わりのない階段。
「んぼぉーぼぼぼぼぼぼぉーー」
ジーンは声がした方向の後ろを振り返る。
そこにはアスタロトを模したのであろう、出来損ないのロボットがたっていた。
ロボットはなぜか女装している。
「G*;E+`@#"%#&223WWF*#$%`$#~=*>***{""#%#」
ロボットは何かを話しているが故障しているのか、何をいっているのかさっぱり読み取れない。
「<?+`<>>#%}!~$?*$#"?{?{}AWE;R@[[@fawq}{`+:@.[@」
その後も何か伝えようとするが伝わらないとわかると、ロボットはどこか寂しそうに去っていった。
「またここか…………確か無限牢獄とかいったな……」
階段は果てしなく続いている。
ジーンはまた階段を上りはじめた。
数時間くらい走り続けた時のことだった。
階段を上りきると途端、平面の空間に躍り出た。
建物も何もない平面の空間。
その先には一本の橋のように、一本道がどこまでも続いている。
支えもないのに、一本道はどうやって固定されているのだろうかと不思議に思う。
恐る恐る橋のような一本道の上を歩いてみる。
不安定さはなく、平面を歩くのと遜色ない。
一本道の左右の下を覗くと、底が見えないほどの高さがあるみたいだった。
ジーンは今度はその一本道を走っていく。
1時間も走ると元いた平面の地面はもう見えなくなり、一本道だけが視界にうつるシュールな光景になる。
この一本道はどこまで続いているのだろうか?
この無限牢獄の世界では空腹も眠気も、そして疲労も感じない。
どこまでも走り続けられるだろう。
だが何も代わり映えしない風景というのは一種の苦痛をジーンにもたらした。
目に見えない精神疲労が徐々に溜まっていく。
更に数時間走る。
いまだ景色は変わらない。
更に数時間走る。
ジーンは走ることなく走っている。
走っているという自己は認識しているが、それは一種の自動動作となる。
ジーンから時間が消える。
永遠の中にいる。
秘密の扉をあけて世界の秘密を垣間見る。
天井から訪れる飛行ロボットを目撃するまで、ジーンは確かに自己の内部にある秘密の扉を開けていた。
飛行ロボットはわざわざ羽を持ち、バサバサと大きな音を立てて空中を羽ばたいている。
ジーンの周囲を飛んでいるが、特に敵意がある訳ではないようだ。
しばらく飛行ロボットと一緒に進む。
飛行ロボットはジーンの前方に進むとその先に四角い何かを落とす。
そしてそれを落とした後、数体いた飛行ロボットは突然機能を停止して、奈落の底に向って真っ逆さまに落ちていく。
どこまでも闇が広がっている、一本道の両サイドの奈落からは落下音すら聞こえなかった。
ジーンは飛行ロボットによって落とされた四角い何かを手に取る。
様々な色で発光しているそれはルービックキューブのようだった。
色が揃うようルービックキューブを回してみる。
完全ではないが一部色が揃うようになる。
すると辺りの景色が一変する。
そこには一本道しかなかったはずだった。
しかし、まるでSFやゲームなどで出てくる近未来のように浮遊する車が縦横無尽に走り、電光掲示板からは何かしらの広告がデジタルに配信されている。
綺麗に整備された道。ビル群が立ち並び、ロボットが町を清掃してる。
これは幻か?
ジーンは一本道の両サイド。奈落があったほうへ恐る恐る足を踏み出してみる。
真っ逆さまに落ちるということはない。
だがこれは一体どういうことなんだろう?
するとジーンの隣にオープンカーが横付けされる。
サングラスをかけた男だ。
アロハシャツを来て、陽気そうに見えたその男はアスタロトだった。
「んぼぉーぼぼぼぼぼぼぉーー。どうだ無限牢獄は満喫しているか?」
「これが牢獄だと?」
「そうだ、お前が望めば望んだ世界が訪れる無限牢獄。望めばすぐに切り替わる世界。お前は覚えがあるはずだぞ?」
すると突然アスタロトがノイズがかかったようになる。
ジーンに頭痛が生じる。
「防御機構は正常なようだな。お前は他人を救うことで自分を救っているのだ。せいぜい救え。せいぜい戦え。この無限牢獄は現実世界とつながってる。お前が現実と思っている世界と――」
そこまでアスタトロが話すと、ジーンの夢の中の意識は唐突に途絶えた。
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