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第34話 天界人の見張り

 貸し出されたブラックホースの名前はイーグルという。

 イーグルは黒色の表皮で黒光りして、隆々の筋肉もあって美しい見た目をしていた。

 雄で気性は少し荒いようだった。

 元々戦闘用に訓練された馬で指示にはよく従う。

 ジーンが何か指示をした時には鼻息で応えるが、マリーナが指示をした時には甘えたような鳴き声を出す、スケベ馬ではあるが。


 ジーンとマリーナはイーグルの背に乗って、魔界を疾風のように駆け抜けていく。


「あれがメコン川ね! 後、メビウス平原を抜けるとすぐに目的地だわ!」

「もう大分慣れたけどとんでもないスピードだな、イーグルは! まるでバイクみたいな……」

「えっ、バイ……なんのこと?」

「いや、なんでもない」


 思わず前世の記憶を話してしまい、ジーンは撤回する。


「まあ、すごい夕日……」


 沈む太陽が大空をオレンジのグラディエーションに染めている。

 ため息が出るような光景であった。


「綺麗……だな……」


 もっと違う機会にマリーナとこの景色を共有したかったものだと、ジーンは思う。

 イーグルはそんな馬上の会話や景色など関係なしに、どんどん猛スピードで平原を駆け抜けていく。


(頼む無事でいてくれ)


 ジーンは密かに心の中でカルティアの無事を祈った。




「じゃあ、マリーナはちょっとここでイーグルと一緒に待機していてくれ」

「うん。ジーン、気をつけてね」

「ああ」


 カルティアが囚われている屋敷は森の中にポツンとあるようだった。

 一旦屋敷を確認して、向こうから見えない位置にマリーナとイーグルを残す。

 どんな罠や敵が待ち構えているかもしれない為、潜入がまずジーンが行うことになった。


 背中の魔剣を抜き、抜き足差し足で森の中を進む。


(ふむ。屋敷の周りにいるのが見張りか。ひーふーみー、5人か。見張りがおるということは)

(カルティアが生きてる可能性が高い……か)

(ただの罠の可能性もあるがの)


 心の中で魔剣ヘルデガードと会話をする。


(ふむ、見張り連中。中々の手練じゃぞ)

(強いか?)

(まあお前ほどじゃないじゃろう)

(戦闘を避けて潜入はできないか? カルティアをできればまず確保したい)

(ふむ……うーん、難しいじゃろうな。下手な小細工をするよりは正面突破した方がええ)

(そうか……)


 ヘルデガードのその返答より、ジーンは隠れて進むのを止める。

 そうするとすぐに見張りの何人かがジーンのことを発見した。


「侵入者だぁ!」

「であえであえ! こちらだ!」


 見張りたちが集まってくる。

 真っ白な僧服のような服を来ている。

 魔界では黒基調の服を着ているものが多く、白基調の服を着ているものは珍しい。

 彼らは総勢で6名だった。


 その見張りのうちの一人が、誰かと通信のように会話をはじめる。

 遠隔魔法だろうか? 元世界でいう所の携帯電話のようなものを手に持っている。


「侵入者を発見しました」

「ほう、ガルギアも進軍をはじめたという報告が入りましたが。であればガルギアではない別人ですかね」

「はい、見た所、人間のように見えます」

「人間が? …………もしかすると噂のナーストレンドの? しかしそんな魔界の奥深くまで……。まあいいです。薄汚いねずみは始末しなさい」

「御意にて」

「本任務遂行の暁には、皆さんの等級が上がるように手配してあげますよ。しっかり頼みますね」

「ッ!! ありがとうございます!! それでは失礼します」


 見張りは通信を終了する。


「だそうだ」

「了解。魔族を相手にするのかと思ったら、人間一人の始末。楽な任務だな」


 こちらを侮っているのだろう。

 余裕の表情を浮かべながら、見張りたちは間合いを詰めてくる。


(気をつけろ。こいつら魔族ではないぞ)

(魔族じゃない? じゃあ、一体……)

(天界人じゃ)

(天界人? 天界人って魔界にいるのか?)

(魔界にも人間界にもいないはず。どうなっておる?)

(俺に聞かれても……)


 すると見張りの一人が腰にかけている剣を抜き去る。

 抜いたのはレイピアと思われる、細剣だった。

 打突の構えをする。


(ほれ、妾を振るえ。あんな細剣、すぐに一刀両断にしてくれ――)


 ヘルデガードが言い終わる前。

 見張りの男の一人は一足で長い距離を踏み込む。

 彼は10歩の距離を一瞬でジーンの前に到来するとレイピアで打突を繰り出す。

 ジーンは打突の連続攻撃を躱す。


(こら! 妾を早く抜かんか!)

(うるさい!)


 ……早い。

 攻撃スピードは今まで戦った誰よりも早かった。


 ジーンは一旦男と距離をとる。

 そして背負っている魔剣ヘルデガードを抜く。

 

 魔剣を目にした見張りたちがざわつく。

 魔剣から尋常ではない魔力とオーラを感じ取ったのだろう。


「気をつけろ。あれは魔剣だぞ」

「ふん。人間如きに俺の攻撃を躱されたのは驚いたが、防戦一方で俺の攻撃スピードについていくのがやっとの相手だ。お前らはそこで高みの見物をしてろ」


 男は再度、打突の構えをする。

 ジーンは集中する。

 はじめてスペリオンの攻撃を防いだ時のように。


 明鏡止水。なぜかその言葉がジーンの想念に浮かんできた。

 

 爆撃が落とされたかのような踏み込みの音――


 また一足で男はジーンの近くまで間合いを詰めてくる。


 ジーンはそれに合わせるように身体が勝手に動く。

 横薙ぎの剣が、男が打突を放とうとしているレイピアに直撃する。


 レイピアの刀身が本体と切り離される。

 刀身は陽光に煌めき、くるくると回転した後、地面へと突き刺さった。


 辺りは時が止まったように静まり返る。


「レイピアを切り離しただと?」

「人間如きが? 我らの武器を?」

「魔剣だ! やはり魔剣だ!」


(峰打ちってできるのか?)

(できるが……まさかこいつら殺さんのか?)

(無駄な殺生はできれば避けたい。レイピアにだけ、本来の切れ味を発揮してくれ。後は無力化できればいい)

(しょうがないの、了解じゃ)


 今度は見張り達は一斉にジーンに躍りかかってきた。


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