第33話 進軍開始
「正気かビビアーナは?」
王の間に魔王軍の幹部たちが揃っている。
ビビアーナが派兵を決めて、ガルギアの領地へ進軍をはじめたという情報が入った為であった。
「ならば迎え撃つのみ! 目に目を、歯に歯をじゃ!」
「陛下、また多くの命が失われますぞ。何卒再考をお願いします!」
「再考だと? ビビアーナに進軍されるのを手をこまねいて見守っているのか? 力が正義の魔界であるぞ。向こうが力でくるなら、こちらも力で対抗するより他にない!」
幹部たちは騒然としてる。
所々から「魔界大戦の再来だ」という声が上がっている。
「グレイグすぐに派兵の用意をしろ。わしが先頭に進軍する。ビビアーナ軍と全面戦争じゃあ!!!」
「御意にて!」
「ガルギア」
「なんじゃジーン」
幹部たち面々の注目もジーンに集まる。
騒然としていた王の間も少しの間だけ静かになる。
「カルティアはどうなった?」
「それは……」
珍しくガルギアが物を言いよどむ。
「なぜすぐに返答できない。何か不都合でもあるのか?」
ガルギアは苦しそうな表情を浮かべている。
変わってグレイグが返答を引き取る。
「ビビアーナが派兵を決めたということです。それはイコール、お嬢様の利用価値が、ほぼ消滅したことを意味します。となればお嬢様の命は……」
「でもまだそれが確定したわけではないんだろう?」
「確定はしていません。ですが十中八九は……お嬢様の命はもうないでしょう」
王の間はなんとも言えない雰囲気の中、静まり返る。
「必ずじゃ! 必ずビビアーナの女狐は今回、わしの手で息の根を止めてやる!! 貴様ら今度は戦いは途中で止めるでないぞ。わしの身命に変えて、ビビアーナを討つ!! 息子と嫁と孫の敵を討つ!!!」
「そうだぁ! 我らガルギア軍は負けない!」
「非道なビビアーナ軍は絶対に撃破する!」
ガルギアの気合に呼応するように、幹部たちから次々と戦いの決意が叫ばれる。
「もしも1%でも可能性があるのならば――」
再度ジーンに注目が集まる。
「俺はカルティアを助けに向う」
「……好きにせい。わしはジーンがカルティア救出にむかうことを許可する。但し、万が一生きていたとしても、それは罠の可能性が非常に高い。死地に向うようなものじゃぞ」
「構わない。俺は助けにむかう」
「私も!」
「ダメだ、マリーナは魔王城にとどまっていてくれ」
「そんな!」
「すまない。でも見知らぬ魔界でマリーナを連れてとなると、正直足手まといだ。それに俺はマリーナを失いたくない」
「ジーン……私はこう見えて色々魔法が使えるの! おばあちゃんに色々手ほどきされてるんだから!」
「でも!」
「ジーン! 連れて行ってやれ。マリーナはおそらく大丈夫じゃ」
「ガルギア……?」
一体何の根拠があって?
とジーンは疑問に思う。だが、
「お前らさっさと動け! すぐに進軍をはじめるぞ!!」
「「「御意にて!!!」」」
魔王軍の幹部たちはいそいそと王の間から出ていく。
ガルギアも忙しく取り付く島がない。
「魔界の馬、ブラックホースを貸してやる。人間界の馬よりスピードも体力もある。カルティアが囚われてる場所までは何日もかからんじゃろう」
「ありがとう……じゃあ……マリーナも一緒に助けにいくか」
「うん!」
そうしてジーンもまた王の間をマリーナと出ていこうとすると――
「ジーン……よろしく頼むぞ」
おそらく一番カルティアの救出に向かいたいのはガルギアであろう。
だがビビアーナが進軍してきている以上、それを迎え撃てるのはガルギアしかいない。
ジーンは無言で頷くと、王の間を後にした。
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