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第31話 魅惑のビビアーナ

 東の魔王との交渉の使者に選ばれたオルソンはひどく緊張していた。

 ビビアーナの王の間に通され、彼女の登場を待たされている。


 王の間には異様な光景が広がっている。

 

 王座に向けて赤い絨毯が一直線に敷かれている。

 その赤い絨毯の左右に裸の男たちが隙間なく並んで立たされている。

 彼らは手に槍をもっていることから衛兵なのだろう。

 しかし、一糸まとわぬ姿をしている為、防御力はゼロだ。

 男たちはどれも色白で筋肉質な体つきをしている。

 これはビビアーナの趣味だろうか。


 更に異様なのは王の間の王座だ。

 王座は一段たかくなっており、そこに椅子が一脚設けられている。

 但し、椅子は人間椅子で、段も人が四つん這いで並ぶことによって構成されている。

 彼らも同様に全裸で何も体には身につけていなかった。


 寒くないのか?

 屈辱に感じないのか?

 オルソンはそんなことを思うが、全裸の男たちは一様に恍惚の表情を浮かべており、その扱いに羞恥や嫌悪を感じている様子はない。


 そんな中、オルソン以外に一人だけ衣類をまとっている男がいる。

 服を着るということは普通なのだが、全裸の男たちが並ぶこの部屋では、この男性の方が異常に感じてしまうから不思議なものだ。


 男はコッテリラと名乗った。変わった名前だ。

 コッテリラはビビアーナの王国のNo.2で、ビビアーナと唯一対等に話せる人物であると事前に聞かされていた。

 対面する前はどんな偉丈夫が出てくるのかと思っていたが、コッテリラからは威圧感もオーラも何も感じない。

 色白でどちらかといえば優男といってもいい見た目だ。


「陛下のお成りです」

 

 オルソンは後方に気配を感じる。

 しかしひざまずいて下を俯いている為、ビビアーナを確認することはできない。

 ビビアーナが後方からオルソンの横を素通り、王座に座ったことが気配で分かる。

 全裸の男たちの上に彼女が座っている。


「面を上げい」


 オルソンはゆっくりと顔を起こす。

 すると思わず感嘆のため息を吐きそうになる。

 それほどまでビビアーナは美しかった。


 真っ赤なドレスを身にまとい、長いスカートの隙間から、白磁のようになめらかな美脚を覗かせている。

 その美貌は町を歩けば、10人男がいれば10人とも振り返るだろうという程の美貌を誇っている。

 芸術品のような黒髪の長髪が背中でたなびいてる。

 胸元は大きく開き、目線が思わず奪われてしまう。


 オルソンはごくりと無意識に唾を飲みこむ。

 そしてはっとして平静を保とうとする。

 飲まれてはダメだ。自分の責任は重大。

 この会談の結果如何によって、我が国の魔族、数千、数万の命が左右される可能性がある。

 腕には魅了封じの腕輪もつけている。


 俺はできる。俺はできる。

 会談前にも言い聞かせていたように、オルソンは再度自分に言い聞かせる。


 そんなオルソンの様子を見て、ビビアーナはクスリと笑う。

 なんて可愛いんだ。

 オルソンは早速その笑顔に心奪われそうになる。


「この度は接見の機会を設けて頂き、真にありがとうございます。私、ガルギア王国のオルソンと申します」

「通り一辺倒の挨拶は不要じゃ。使者来訪の要旨を申せ」

「はい、この度、我が国の魔王ガルギアの孫娘、カルティアお嬢様がビビアーナ王国の領土にいること確認しております。カルティアお嬢様は先日ガルギア王国から突然、行方不明となっております」

「なっ、貴様それは我が国がカルティアを攫ったような物言いではないか!」

「よい、コッテリラ」


 ビビアーナは目線も向けてコッテリラを制止する。


「それで何が望みだ?」

「カルティアお嬢様の解放が望みでございます」

「勝手に連れて帰ればよかろう。我が国はカルティアについて、何も関知しておらん」

「ビビアーナ、ちょっと待ってくれ」

「どうした、コッテリラ?」

「何かきな臭い。対応を誤れば先の大戦のような結果になりそうだぞ。カルティア嬢はどこにいる?」

「それはお答えできません」

「話せ」


 ビビアーナはオルソンの目を見ながら命じる。


「カルティアお嬢様の居場所を、私は知らされておりません」


 これは事前に聞かれたら答えるなと命じられていた設問であった。

 あれ? なんで話してしまっているんだろう?

 オルソンは自身で疑問に思う。

 だが口が勝手にしゃべってしまう。

 

「なんじゃ役に立たんのう。だが正直に答えてくれたことは褒めてやるぞ」

「もったいないお言葉」


 オルソンは脳天を貫くような歓喜を感じる。

 こんな喜びを感じるのは、生まれてはじめてかもしれない。

 余りの喜びで涙が自然と頬をつたう。


「ビビアーナ、まずさしでグレイグと会談させてくれ」

「両国No.2同士の会談か。私とガルギアの直接会談ができれば、それが一番なんじゃがのう」

「対面すればたちまち戦いが始まってしまうだろう」

「そうじゃろうな」


 ビビアーナは好戦的な笑みを浮かべる。


「して、オルソンよ。他に本件に関連して、私に隠し立てしていることはあるか?」

「はい、私、ビビアーナ様の魅了を逃れる為に、魅了封じの腕輪をつけております」


 オルソンはビビアーナに全て、包み隠さず明らかにしたくなっている。

 彼女の為なら例え火の中水の中、どんな困難辛苦も引き受けたい気持ちになっている。

 彼の理性というブレーキは、すでに壊れてしまっていた。

 

「そうか、それは役に立っておらんようじゃのう。他には?」

「他に私に知らされている極秘事項はございません」

「そうか、よく知らせてくれたなオルソンよ。褒めてつかわす」

「もったないお言葉」


 オルソンの瞳からドバドバと洪水のように涙が流れ出る。歓喜の涙だ。

 一生にうち感じられる歓喜をこの数秒の間に感じられている、といっていいほどの強烈な歓喜だった。


「国に帰ったらコッテリラがグレイグと会談を望んでいると伝えろ。コッテリラには全権を移譲して会談に向かわせるとな」

「承知いたしました」

「それでは後は頼むぞ。コッテリラ」

「ああ、任せてくれ、ビビアーナ。君を害するものは俺が許しはしない」


 ビビアーナなんとも言えない笑みをコッテリラに向ける。

 信頼するもの、親愛を感じているものに向ける特有の笑みとでもいおうか。

 そのビビアーナを見た時、オルソンはコッテリラに強烈な嫉妬を感じる。

 嫉妬を感じたのはオルソンだけはなく、衛兵たちが一様にコッテリラに、一種の怒気を抱いていることが感じとれた。


「なんじゃ怖い顔をしておるのう」


 ビビアーナはそんなオルソンに近づく。


「うん?」


 ビビアーナは指先でオルソンの体を撫でる。

 その時、オルソンは凄まじい快感を感じる。


「あっ、ああああ!!!」


 そして絶頂してしまった。

 オルソンの腰がビクンビクンと自らの意思を無視して躍動する。


「また使者にイタズラをして。そいつこの会談がトラウマになるぞ」

「トラウマになんかなるものか。一生忘れられん体験にはなるだろうがな」


 オルソンはそんなビビアーナとコッテリラとの会話を、どこか他人事のように、羞恥心と罪悪感とを感じながら聞いていた。


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