第30話 魔界大戦
「おお来たか、ジーンよ! カルティアがおる場所がわかったぞ!」
王の間には魔王ガルギア、それにその右腕のグレイグがいた。
「どこにいたんだ?」
「魔界の東、ビビアーナの領地におる」
「ビビアーナ? 誰だそいつは?」
「いけ好かない女狐じゃ」
「女狐?」
ジーンは首をかしげる。
グレイグが説明する。
「東西で魔界を二分して支配する魔王の内、東の領土を支配している魔王。別名を魅惑のビビアーナといいます」
「ふん、魅惑などくだらん!」
「非常に強力な魅惑で、自身より弱い対象を無制限に魅惑できるという、魅惑眼という邪眼の使い手であります」
「では東の魔族たちは……」
「そのほとんどがビビアーナに魅惑されております。魅惑されていないのは、魅惑する必要がないほどの辺境にいるものか、或いは、生まれてからたまたま魅惑対象となっていないもの。後はビビアーナに認められた数少ない幹部連中のみになります」
「魅惑されたら終わりってことか……」
「ええ、ただジーン殿は恐らく大丈夫かと」
「俺がビビアーナより弱くないと?」
「ビビアーナより少し弱いくらいだと魅惑は効きません。例えば我が魔王軍の幹部連中にはビビアーナの魅惑は効きません。ガルギア様の一撃を防げるということはおそらく大丈夫でしょう」
(妾もおるしな)
魔剣ヘルデガードがジーンの心の中で語りかけてくる。
「ちっ、あの女狐めよくもわしの可愛い孫を!」
「ですがビビアーナの手の内にあるということは逆に安心です」
「なんでだ?」
「政治利用しようとするからです。お嬢様に利用価値がある間は、決して手出しはしないでしょう。警護も厳重にされるはず。へたすると我が国にいるよりも、お嬢様の安全度は高いかもしれません」
「ふん! もしカルティアに傷一つでもつけてみろ、その時は全面戦争じゃ! グレイグすぐにビビアーナに使者を送れ!」
「御意にて。すぐにでも送ります」
「よし! といっても流石に数年前の大戦のような被害はできれば避けたい」
「大戦?」
「……ジーンに伝えてもよろしいでしょうか、陛下?」
「構わん」
「始まりはカルティア様のご両親の殺害でした」
グレイグは語り部のように続ける。
「何者かにカルティア様のご両親が殺害されました。
カルティア様の父親はガルギア様のご子息。
当時で西の領土でガルギア様に次ぐ、No.2の実力を有しておられました。
そのご子息を戦闘で殺すことができる存在。
それは東の魔王ビビアーナしかいませんでした。
すぐにガルギア様はビビアーナに使者を送ります。
しかし帰ってきたのは使者の亡骸でした。
激怒したガルギア様は兵をおこして、東の領土へと派兵します。
それに呼応するようにビビアーナも兵をおこし、ガルギア様の軍と対峙することになりました。
全面的な戦争になり、総力戦となりました。
ガルギア様とビビアーナの戦いは3日3晩たっても決着がつかず。
双方、被害が甚大すぎるということで戦争は中断。結局は手打ちとなりました」
「わしは戦争中止は反対じゃったんじゃ! 後もう少しであの女狐を打ち倒せるという所で!」
「我々はガルギア様。ビビアーナ側も幹部たちが戦争の終結を懇願しました。皆殺しの戦いになりそうな様相となっていたからです」
「それで戦争は終結した。その戦争は魔界大戦と呼ばれている。魔界の戦いの歴史の中でも、かつて無いほどの死傷者が出た戦いじゃった」
ガルギアは遠い目をしている。
彼のその目の先には一体何がいるのだろうか?
なくなった彼の息子やその嫁さんだろうか?
それとも戦争で散っていった彼の兵たちだろうか?
「ではすぐに動けグレイグ!」
「御意にて!」
グレイグは急いで王の間から出ていく。
「俺にできることは?」
「ない! 今はな。お主が、そしてあのおなごがカルティアのことを思ってくれていることは嬉しく思っておる。だが今、貴様にできることはなにもない」
「そうか……」
マリーナも魔界にまだ留まっている。
ジーンとマリーナ、別々の部屋をあてがわれ、必要なものを与えられて滞在していた。
(ふん、面倒くさいことよのう。いっそのこと妾たちでそのビビアーナとやらの元に乗り込んで、殲滅してやるか?)
(カルティアが人質みたいに取られてるから、下手に手を出せないんだよ)
「ん? 何かいったか?」
「いや、別になにも……」
ガルギアはジーンから何か変な気配を感じ取ったようであった。
(ちょっと黙ってろよ)
(だから妾たちで敵陣に乗り込んでじゃな……)
ジーンは黙って王の間を出た。
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