第28話 魔剣の封印
「よーし、よくここまで来てくれた。それでは妾を抜くんじゃ。永き封印から妾を解放するのじゃ!」
薄っすらと聞こえていた声も、今でははっきりと聞こえるようになっている。
歳の頃は中学生くらいの少女の声に聞こえる。
にしては妾などの言葉使いには違和感があるが……。
(封印とか自分でいっちゃってるし。何か良くないものが封印されているのだったら、スルーした方が良さそうだな……)
「妾は良くないものなんかじゃない! ほれ小僧、妾を抜くんじゃ! ほれ!!」
突然の返答にジーンはビクッとなる。
「俺の心の声がわかるのか?」
「読心など容易い。妾を一体誰じゃと思っておる」
「なんか痛い少女。変な本とかに影響をうけた」
「誰が痛い少女じゃ! 我は冥界の支配者にして王、ハデスが娘。ヘルデガード様であるぞ!」
どこからか訪れた隙間風によって、ジーンが灯しづけている小さな炎が揺れる。
「いや、剣じゃん」
「ゔっ、確かに剣ではあるが……」
「だから剣じゃん」
「確かに! 今は剣じゃがな!」
「じゃあ、そういうことで」
シュパっと片手を上げて別れの挨拶をすると、ジーンは来た道を戻っていく。
「ちょちょちょっと待てぇーーーい! 待てぇーーーい!!」
「待て?」
「ま、待って下さい」
「そうだろ。お前、声からしてまだ少女くらいだよな。目上、年上の人に対する口の聞き方がなってないぞ」
「確かに冥界基準ではまだそれぐらいではあるが。しかし、年はお前の何倍も……。ぐぬぬぬ、小僧が……」
「えっ? なんて?」
「いえ、なんでもありません」
黒剣から動揺の汗が流れているようであった。
「抜いて欲しいのか?」
「はい、抜いて欲しいです」
「なんかちょっとエロいな」
「エロい?」
「いや、これは不適切だった、忘れてくれ。さてと――」
ジーンは黒剣の柄に手をかける。
「もう一度聞くけど、お前を抜くことで封印が解けて、大魔王が復活とかというオチはないよな」
「はい、大丈夫です」
「……まあいいか、おりゃあ!」
ジーンは岩の地面に、しっかりと突き刺さっていた黒剣を力任せに抜き去る。
「よーーし! よくやったぞ、小僧よ!! これで妾は自由じゃあ!!」
黒剣はジーンの手を離れて、縦横無尽に飛び回る。
「ふーん、じゃあこれで用は終わりでよかったか」
「おお、よくやった小僧よ。でかしたぞ! お前が困ったことがあれば妾が助けてやろう!!」
「困ったこと……そうだな、剣を買い替えようと思っていたんだけど、お前強いか?」
「……誰にものをいっておる? 冥界、最強のハデスが娘が封ぜられた魔剣ぞ。最強の魔剣であるに決まっておろうが!」
「じゃあ、俺の愛用の剣になってくれないか?」
「んなっ! 貴様、妾の話しを聞いていたか? 妾は冥界、最強のハデスの娘であるぞ!」
「でそんなすごいお方がなんで、今は剣に封じられてたりするんだ?」
「ゔっ、それは話せば長くなるのじゃがな……」
魔剣ヘルデガードはいつの間にかジーンの手の中に収まっている。
「冥界大学校をさぼり、課題もやっていなかったのがお父様にバレての……。3年間の謹慎を命じられていたんじゃ。魔剣に封じられて逃げられないようにされての……」
「全然長くないな……。じゃあ、勝手に封印解いちゃまずかったんじゃ……」
「くっくっくっく。もう遅いわ。お前とはもう共犯関係。お父様に怒られる時は一蓮托生じゃ!」
「くっ、嵌めたな!?」
「はーーはっはっはっは! 騙される方が悪いのよ!!」
「じゃあ、もう一度突き立てればいいのか」
「ちょ、ちょっと待て。たかが人間が突き立てたぐらいで、妾が封ぜられる訳がなかろう! ただしかし……お前人間よの?」
「もちろん人間だ」
「ジーン、ただの人間が魔剣を引き抜けるはずがないんじゃぞ。お前一体何者じゃ?」
「何者って……ただのランニングを趣味にしてるものだけど」
「ランニング……とはあの走る運動か?」
「そうだよ」
「なるほどな。物好きがおったもんじゃの」
ジーンは側に落ちていた鞘を拾い、魔剣を鞘に収めてみる。
特に特別なことは起こらないようであった。
「それで俺の愛用の剣になってくれるの?」
「その愛用という言い方……なんとかならんのか……」
「うん? じゃあ、相棒?」
「まあ、どうせ暇じゃし、剣から自然解放されるにも、まだ時間がかかるから、いいちゃいいが」
「じゃあ、決まりだな! お前はこれから愛用の剣だ!」
「また愛用とかいう!」
「なんだよ」
「いや、別になんでもない……」
「じゃあ、折角だから頂上まで行ってみるか」
「全く物好きじゃのう。山など登ってなにが楽しいのか……」
「うるさいな、いいだろ。じゃあ、この今持ってる剣はここに置いていこう。ありがとな、今まで」
ジーンは元持っていた剣をその洞窟の奥に置く。
そして変わりに魔剣ヘルデガードを背負った。
「ありがたく思え、妾のような最強の魔剣を手に入れることができたことを」
「はいはい」
「はいは一回じゃ!」
これから先は賑やかになりそうだ。
そんなことを思いながらジーンは、元来た洞窟の道を戻っていった。
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