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第27話 トレイルランニング

 オリュンバス。

 魔王城の後方にそびえる魔界の山の名前だ。

 ジーンはそのオリュンバスにトレイルランニングに訪れていた。

 

 山を走るのは平地とは全然違う。

 ただでさえ山登りはしんどいのに、正気の沙汰ではないと思う人も多いだろう。

 確かにしんどいが豊かな自然の中で、標高が高いところからの眺望も楽しめる。

 やったらやったで結構楽しいものだ。


 カルティアがいなくなって3日が経過している。

 彼女は結局まだ見つかっていない。

 これだけ探して見つからないということは、また何者かに連れ去られたと見るのが妥当らしかった。

 マリーナと共に悶々と魔王城でカルティアを待つ日々。

 俺は気分転換にと、オリュンバスにトレイルランニングに訪れている。


「はあはあ」


 平地と違いすぐに息が上がる。

 勾配がきつくなって走り続けられなくなる。

 一歩ずつ少しずつ山を登る。


 トレイルランニングをはじめてどれくらい時間が経っただろうか?

 下界、魔王城や魔界を一望できるほどの高さまで登ってきている。


 ジーンはランニングの他に登山の好きだった。

 本格的な登山というよりはハイキングに近かったが、趣味で富士山などに登ったことがあるくらいにはいくつかの山に登っている。

 富士山の頂上から眺める雲海。

 あの感動は忘れられない。


 オリュンバスは富士山ほどの標高はないだろうが、2000メートルは超えていると思われ、独立峰の頂上からの景色が今から楽しみだった。


「きぇえーーーーーーーッ!!!」


 突如響き渡る魔物の鳴き声。

 上空から一羽の魔物がジーンに向って襲いくる。

 ジーンは咄嗟に、背中に背負った剣を抜きさり、魔物を一刀両断する。


「ふぅーー」


 登山にいって魔物に襲われるなんて元世界ではない。

 異世界ならでは登山の醍醐味といえば醍醐味なのかもしれない。


「うん?」


 ジーンは剣についた血を拭いている時に、剣に入っている小さなヒビに気がつく。


「ありゃー、こりゃもう変え時かもしれないなあ。よく頑張ってくれたけどなあ」


 安物のどこにでもあるような片手剣であるが、しばらく愛用していた為、愛着がわいている。

 だが相手にする魔物も強くなってきている為、もう少し程度のいい剣を手に入れたいという気持ちもあった。

 

 どれくらい値段がするんだろう?

 おそらく会計士の給料では大した剣は買えないだろう。

 であれば冒険者に副業として従事して稼ぐか……。

 それもなんだかなあと思う。


 その時であった。


「こっち……こっちじゃ……」


 どこからか微かな声が聞こえてくる。

 

 ジーンは辺りを見渡す。

 どこにも人間どころか生物も見当たらない。

 土と岩石で構成された山道で人が隠れられるようなスペースも周りにはない。

 ジーンは首をかしげながらも先を進む。


「こっちじゃ……たのむ……妾を見つけてくれ……」


 山を登っていくと今度は先程よりははっきりと声が聞こえる。

 もちろん、辺りに人影はない。幽霊か何かの類いだろうか?

 ジーンは寒気がして肌毛が逆立つ。


 このオリュンバス山。

 訪れる前に魔王城にものに聞いてみたが、訪れる人は皆無らしい。


 そもそも魔界に登山という習慣、趣味はないとか。

 もちろんランニングという趣味もないらいしい。

 ワイバーン族によって飛行運行がされている為、わざわざ山越えをするようなものもいないらしい。

 こんな高くまで登ってくるものなど皆無なのだろう。

 だから今まで噂にもならなかった。


 引き返す、という考えがジーンに浮かぶ。

 魔物ならいくらでも相手になるが、幽霊は勘弁願いたい。

 踵を返して下山しようとすると――


「おいーー……まて……まってくれー……うぇーーーん……やっと訪れた人なんじゃー……」


 ジーンは下山の歩みを止める。

 ちょっと可哀想になってきた。

 もし幽霊だとしてもこわい類いの幽霊ではなさそうだ。

 せっかくなのでジーンはやっぱり頂上を目指すことにする。


「やった……これでやっと……解放される……」


 解放とはどういうことだろうか?

 ジーンは汗を時折、布で拭いながら山を登っていく。


 頂上が目視できるようになった頃。山肌に一つ暗がりを確認できた。

 よく見るとそれは洞窟のようであった。

 

「こっちじゃ……妾は……その洞窟の中じゃ……」


 ジーンは声がする方向へ進んで見る。


「そうじゃ……そっちじゃ……」


 洞窟の中は薄暗い。

 ジーンは念の為、背中の剣を抜き去る。

 同時に明かりのため火魔法で小さな火を灯す。


 洞窟の中に入るとヒヤリと肌寒い。

 変なガスがわいてないか。

 魔物の住処になっていないか。

 ジーンは注意深く進む。


 数百メートルほど進んだ所であろうか。

 1本道で洞窟は狭い箇所も特になく進みやすかった。

 少し先に行き止まりが見える。

 その行き止まりに無造作に地面に黒剣が突き立ててあった。

 近くにその黒剣のものと思われる鞘もあった。


「よーし、よくここまで来てくれた。それでは妾を抜くんじゃ。永き封印より妾を解放するのじゃ!」


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