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第25話 神隠し

「カルティアになんのようだ?」

「カルティアだと? お嬢様を呼び捨てするんじゃない、人間如きが! ……貴様は人間だよな?」

「ん? もちろん人間だけど……」

「グレイグ! ジーンはカルティアのお兄ちゃん!」

「お嬢様……魔王様が心配しております。私と一緒に魔王城に帰りましょう!」

「嫌! カルティア、ジーンとマリーナと一緒にいたい!」


 カルティアは側にいるマリーナに抱きつく。


「カルティアちゃん……」


 マリーナはそのカルティアを優しく抱きしめる。


「わたしのママ……」


 マリーナはカルティアのその言葉に驚く。

 カルティアをギュッと抱きしめる。

 

「聞き分けのない……言うことを聞かなければ力ずくで連れて帰りますよ!」

「嫌! カルティア、一緒にいる! 帰るんだったらジーンとマリーナと一緒に帰る!」

「……仕方ない。おい、お前ら。お嬢様と一緒に魔界に来る気はあるか?」


 グレイグからの想像だにしない提案に、ジーンとマリーナは顔を見合わせる。


「俺は今日明日は仕事休みだからいいけど……。でもマリーナは宿屋があるから――」

「私も大丈夫です! おばあちゃん、しばらくの間、宿屋任せてもいい?」


 ジェーンは一時目を見開き驚きの表情を浮かべるが、すぐに――


「わかった。いってらっしゃい、マリーナ。宿は私にお任せ」

「ありがとう、おばあちゃん!!」

「でも魔界ってどうやっていけば……」

「カルティアお嬢様は一緒にゲートで帰れる。貴様ら人間はこのゲートは通れないのでなんとかしろ」

「なんとかしろって……」

「通行不能地点を通り抜けて、お嬢様を攫ったのではないのか?」

「通行不能地点? ……もしかしてあの高重力になる区間のことか? あの先にすごい高い壁がそびえ立っていたけど」

「その先が魔界だ。さあお嬢様、一緒にゲートで帰りましょう」


 グレイグがなにか魔法を唱えると、来た時と同じようにゲートが出現した。


「嫌! カルティア、お兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒にいる!」

「ぐっ……仕方ない、貴様らお嬢様を魔界まで安全にお連れしろ。もしお嬢様に何かあってみろ。貴様らの命だけじゃない、このナーストレンドの町を焦土と化してやるぞ!」


 そう捨て台詞を吐くと、グレイグはゲートをくぐって魔界に帰っていった。

 嵐のような来訪者だった。地面には竜族たちがまだ倒れたままになっている。


 パンっとマリーナが手を叩く。


「それじゃあ早速私はお弁当作るね! 魔界まで遠いんでしょ、ジーン?」

「う、うん」

「お弁当! カルティア、卵焼きが好き! 後、タコさんウインナーも好き!」

「それじゃあ、その二つはお弁当に入れるね」


 ジーンはピクニックじゃないんだからとツッコミたくなるがこらえる。


「俺はちょっと職場の人にしばらく休みをもらうかもって伝えておくよ。今、閑散期だからいなくても問題ないだろうけど」

「カルティアも用意する! 冒険の始まり!」


 こうして魔界への準備にそれぞれが奔走することになった。




 フォーフォー。


 夜も更けた森の中でフクロウの鳴き声が響いている。

 安全第一でゆっくりと時間をかけて、魔界目前の森までたどり着いている。

 通行不能区間はマリーナとカルティア二人を背負って通り抜けた。

 魔界の入り口がある壁はまだ大分先にあるので、今日は森の中で野宿となった。


 カルティアはマリーナの膝を枕にして可愛い寝息を立てている。


「明日には魔界につけるかしら?」

「つけるだろう。カルティアの談が正しければ。それに明日中も歩いて着かないくらい遠くに魔界への入り口があるんなら、あの時グレイグから注意喚起があるはずだしな」

「それもそうね。もう食料は明日の朝の分しか用意できてないわ」

「十分だよ。急にありがとな」

「そ、そんな……カルティアちゃんの為だもん。無事に魔界まで送りとどけないとね」

「そうだな……」


 パチパチと焚き火から木が小さく爆ぜる音が聞こえてくる。

 風はなく、焚き火の煙は垂直に天に向かって上がっている。


「カルティアちゃんの親御さんは心配してるでしょうね」

「親御さんは他界しているらしい」

「まあ、可愛そうに……それで私のことをママって?」

「ママって呼ばれたの?」

「うん……愛情に飢えてるのかしら……」


 マリーナはカルティアの頭を優しく撫でる。


「明日もある。俺たちもそろそろ寝よう」

「そうね。おやすみ」

「おやすみ……」


 その言葉を最後にジーンの意識はまどろみの中へと埋没していった。




「ジーン! ジーン!!」

「……う……ん?」


 体を揺り起こされて起こされる。

 外は少しだけ明るい。太陽はまだ昇りきっておらず、少し肌寒い早朝の時刻と思われた。


「なに?」


 目をこすりながらジーンは尋ねる。


「カルティアちゃんの姿が見えないの!」

「なに!!」


 ジーンは一気に目が覚める。

 辺りを見渡すとカルティアの姿は見えない。


「一体……?」

「私もついさっき起きて……横で寝てたはずのカルティアちゃんがいなくて……」


 マリーナは泣きそうな顔になっている。


「落ち着け。トイレにでもいってるのかもしれない。おーーい!! カルティアーーー!!!」

「カルティアちゃーーーん!!!」


 大声を出すが返事がない。


「こんな森の中で一体どこに……」


 ジーンとマリーナは森の中で立ちすくんだ。


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