第24話 竜王直属部隊
「わんわん!」
カルティアは宿の庭に放し飼いされている犬に駆け寄っていく。
まだ朝早いが随分元気だ。
犬は嬉しそうに尻尾を振り、カルティアの顔を舐め回している。
「ちょ、ダメよ。きゃっきゃっ」
ジーンとマリーナがその様子を微笑ましく眺めている。
昨晩カルティアはジーンと一緒に寝るといって聞かず、一緒に寝た。
寝顔がめちゃくちゃ可愛かった。天使よりも天使だった。
朝ごはんもすでに食べ終わっており、元気一杯だ。
ジーンはふと宿の周りに人の気配を感じる。
悪魔の大公爵アスタロトを倒した後くらいから、宿の周りに常に数人いて、彼らはこちらを伺っている。
気持ち悪いが今のところは実害はないので放っておいている。
気持ちの悪いストーカーの類だろうか?
マリーナ目当てであればなんとかしなければならない。
その時――宿の前にバチバチバチ、という音がした思ったら、突然そこから黒色のドアのようなものが構成させる。
そしてそのドアから出てきたのは、体がネズミ色で眉なしのスキンヘッドの男だった。
彼は人間には見えない。
その男はすぐにこちらに気づくと、目を見開く。
「グレイグ!」
「お嬢様!」
グレイグと呼ばれた男がこちらに近づいてくる時。
宿の周りでこちらを伺っていたものたちが姿を現す。
「おい! お前、魔族だな」
「それがどうした? お前ら……人族じゃないな。もしかして竜族か?」
「如何にも。我らは竜王マドルク様の直属部隊よ。今使用したのはゲートだな? 魔族が魔界からわざわざ何しに来た。やはり、ジーンは魔族か?」
「ジーン? 誰だそいつは?」
「ジーンとは俺のことだが……」
ジーンが近づくと3人の竜族たちは身構え、一気に警戒を強める。
「くっ、しらばっくれる気か?」
「だからなんのことだといっている? それに貴様ら俺を誰だかしっているのか? 俺は魔王ガルギア様が右腕、魔王軍のNo.2のグレイグ様であるぞ! 俺に物を言いたいのなら竜王マドルクを連れてこい!」
「マドルク様を呼び捨てだと!? なんたる不敬な! 貴様……その肌の色と見た目、もしかしてメタル族か?」
「それがどうした?」
「はっ! ガルギアに負けた負け犬一族じゃないか。魔界がメタル族の天下だったのは数百年も昔のこと。身の程知らずでプライドだけは高い、という噂は本当だったようだな」
「貴様ら! メタル族が負け犬一族だと!? 万死に値するぞ!!」
グレイグが強烈な怒気と魔力を放出する。
ジーンはカルティアとマリーナを守る為に側に寄る。
「カルティア、あのグレイグとかいうおじちゃんと知り合いか?」
「うん、グレイグはおじいちゃんの家来!」
「家来? その……カルティアのおじいちゃんって何者?」
「おじいちゃんはえっと……うーんと……魔王様!」
「「魔王様?」」
ジーンとマリーナは同時に声を上げる。
「これはとんでもない子を拾ったみたいだねえ」
宿の窓から状況を注視していた、マリーナのおばあちゃんのジェーンはことなげなく述べる。
「そんなおばあちゃん、魔王だよ」
「ジーンは何か厄介事を引き寄せる運命をもっているのかねえ」
「…………」
ジーンはそれに対して何も答えられない。
「おらぁ!!」
呑気に会話をしているとグレイグと竜族たちの戦闘が始まった。
竜族たちはそれぞれハルバードと呼ばれる斧槍をもっており、そのハルバードを一斉にグレイグに振り下ろす。
戦闘訓練を受けているのだろう、阿吽の呼吸で一糸乱れぬ同時攻撃だった。
ガァキィイーーーーーーーーンッ!!!
金属と金属が弾きあう音が周囲に響き渡る。
打撃音はグレイグの体と、ハルバードがぶつかり合うことによって生じていた。
「何かしたか? そんな非力な攻撃で我らメタル族の体に傷をつけられるとでも?」
「くっ! 人族の数十倍の腕力を誇る我らが非力だと?」
「おい、ここは俺に任せろ!」
竜族の一人の背中から羽が生え出る。
羽を羽ばたかせて宙に浮くと、
「炎龍の系譜を次ぐ俺の獄炎をくらえ! メタルなど所詮金属。溶かしてやるわ!」
竜族は口から黒色の炎を吐き出す。
凄まじい熱量だ。遠目で眺めているこちらまで熱が伝わってくる。
すると宿の周りが結界のようなバリアに囲まれる。
「宿を破壊されちゃたまらないからね」
ジェーンはことなげなくいう。
どうやら結界はジェーンによって発動されたらしい。
結界魔法など誰にでも使えるものではないだろう。
マリーナのおばあちゃんは一体何者なのだろうか?
しばらく獄炎を吐き続けた後、竜族は地面に降り立つ。
グレイグが立っている場所は獄炎によって燃え続けている。
「メタル野郎が調子にのるからだ。竜族の恐ろしさを思い知ったか! 最強種族は竜族だ!」
「中々いい火加減だな」
「なっ!?」
獄炎が徐々にはれると、そこから無傷のグレイグが姿を現す。
「ば、馬鹿な! 鉄をも溶かす地獄の業火だぞ!?」
「俺を溶かすには温度が足らなかったようだな。……さて」
グレイグは目にも止まらぬスピードで竜族の一人の元へ移動する。
突如目の前に現れたグレイグに竜族は驚きのあまり一瞬固まる。
その竜族の腹部にグレイグは拳を練り込ませる。
「ぐぅわぁああああ」
一撃で竜族は地面に沈む。
グレイグは後残った二人に向き直ると不敵に笑う。
「一つ聞く。貴様らの命に関わる質問だ。慎重に答えろ」
「あ、ああ」
「貴様らはカルティアお嬢様の誘拐に関わっているのか?」
「誘拐? そんなものには我らは関わっていない。カルティアという子も知らぬ」
「そうか……」
「一体どういう質問……」
グレイグは竜族のその言葉を待たずに攻撃を加える。
一人には右フック、もう一人にはハイキックをくらわせて昏倒させる。
「なら命は助けてやる。竜族と全面戦争となるとそれなりに手を取られるからな。今はそれどころではない」
グレイグは今度はこちらに向き合う。
ジーンは結界を超えてグレイグに歩みよっていく。
「つ、強いね、カルティアちゃんのおじいちゃんの家来は」
「ふふん! グレイグ強い! おじいちゃんの家来!」
カルティアは鼻息荒く、まるで自分の手柄かのように答えた。