第23話 天界の罠
もう少しでマリーナの唇とジーンの唇が重なりあいそうになる、その時――
マリーナはパチリとその瞳を開く。
そして急いで起き上がり、
「まあ、なんで私はこんな所で眠っていたのでしょう! あら、カルティアちゃん、その手に持つ杖はなに?」
「ふふん! これはカルティアの魔法の杖! おばあちゃんにもらった! お姉ちゃんはカルティアの魔法で眠ってた!」
「まあ、なんて可愛い魔法使いさんなの! でも魔法使いさん、お腹空いてない?」
丁度その時、ぐぅーーっとジーンのお腹が鳴る。
「ぷっ」
ジーンの腹の虫の音に思わずマリーナは吹き出す。
「それじゃあ、お兄ちゃんもお腹空いてるみたいだから夕食の準備しましょうね。魔法使いさんはちょっと待っていてね」
「待つ! 魔法使いのカルティアはちゃんと待てる!」
「折角、王子様のキスのチャンスだったのに。なんでお姫様は起きたのかねえ」
そこにジェーンの横槍が入る。
マリーナはジーンともジェーンとも目を合わそうとしない。
「そういえば! お姉ちゃん、なんで起きた? カルティアの魔法効果切れた?」
「そう! カルティアちゃんの魔法効果が丁度切れたの。それじゃ御飯作ってくるから待っててね」
「カルティア待つ!」
マリーナは逃げるように厨房に向かっていく。
「チャンスだったのにねえ」
ジェーンはジーンに向かってニヤニヤとそう述べた。
「チャンスだったのにねえ」
カルティアはそれを意味もわからずジーンに繰り返した。
◇
「陛下!」
王の間にグレイグが慌てた様子で入ってくる。
「グレイグか……お前も感知したか? 今すぐゲートを用意して兵をおこせ! 今すぐナーストレンドに向かうぞ!!」
「なりません、陛下!」
「なぜじゃ、グレイグ! 可愛い孫娘が下等なる人間に攫われたのじゃぞ! 目に物見せてやらんといけんじゃろうがぁ!!」
「おい! お前らも止めろ!!」
王の間に兵が次々と入ってきて王を抑える。
「ええい! 邪魔じゃ貴様ら殺されたいのかぁ!!」
「陛下、最近ナーストレンドで地獄の大公爵アスタロトが討伐されたことをお忘れですか!!」
ガルギアはピタッと暴れるのをやめる。
「何がいいたい?」
「これは天界の罠ではないかといっているのです」
「天界人が関わっているという確証はないじゃろう」
「では陛下はたかが人間如きがアスタロトを討伐可能だと?」
「むぅ……ならば尚更。孫娘が助けを待っておる! わしはこの命にかえてもカルティアを助けにいくぞ!!」
「陛下、落ち着いてください! まず私が明朝様子を見に行ってまいります! 陛下が動かれれるのはそれからでも遅くはないかと!」
「うるさい! カルティアが待っておるのじゃ! 泣きながらわしのことを待っておるんじゃあ!!」
「おい、お前ら幹部連中を呼んでこい!!」
「うぉーーーー、離せぇーーーーー!!!!!!」
魔王ガルギアの咆哮が魔王城に響き渡った。
明朝、魔王城の城門前に構成されたゲートの前にて。
「それでは行ってまいります」
「よろしく頼んだぞ、グレイグ。貴様に我が孫の命はかかっておる。例え人間界と戦争になっても構わん。全権をお前に託す」
「ありがたき。必ずやお嬢様を連れ帰ってまいります」
「ふむ、それにしても先日の魔王トーナメント。わしと決勝で戦うのは貴様とじゃと思っておったがな」
「……私如きが魔王様に敵うわけが」
「つまらぬのぅ……まあよい、カルティアをよろしく頼むぞ」
「御意にて」
グレイグは一礼の後、人間界との接続されたゲートへと歩みよっていく。
グレイグはゲートをくぐり抜ける時、顔を歪め、手のひらをぎゅっと握りしめていた。