第22話 目覚めのキス
「なにぃ! カルティアが行方不明だとぉ!!!」
魔王城に魔王ガルギアの怒声が響き渡る。
「も、申し訳ございません。森に出たいとのことで、ちょっと目を離したすきにいなくなってしまいまして……」
「貴様ぁ!! 殺されたいのかぁ!!!」
「ひぃいいいい!! 申し訳ございません!!!」
ガルギアの怒気に当てられた従者は腰を抜かして、目に涙を浮かべている。
余りにもビビりすぎていまにも漏らしそうな様子だ。
「陛下、そいつを殺してもお嬢様は……」
「わかっておるわ! くそ、グレイグ、捜索はどうなっておる!」
「報告を受けて軍も総動員して森を探索しております。ただの迷子ならば見つかるのは時間の問題かと」
「ただの迷子であればの……ビビアーナの女狐がもし関わっていてみろ。そうなったらわしはもう止まらんぞ……」
「陛下、落ち着いてください。先の大戦のような悲劇が……」
「これが落ち着いておられるかぁ!! もしもカルティアまでその手にかけるようなら――全面戦争じゃあ!!!」
ガルギアの覇気と気合とが魔王城中に波及する。
「一刻も早くカルティアを見つけるんじゃ! 金ならいくらかかっても構わん。氷風呂を用意しろ! 頭を冷やす! このままじゃ収まりがつかん!!」
ガルギアはドスドスと巨体を揺らしながら王の間を出ていく。
王の間には一人、側近で魔王軍No.2のグレイグが取り残される。
グレイグは何かしら一人、口に片手を添えて熟考していた。
◇
「どうしたのジーンその子は? …………まさか隠し子!?」
「いや、そんなわけないだろ」
「マリーナお姉ちゃん! 私、カルティア! はじめまして!」
「まあ、カルティアっていうの。挨拶できて偉いわね。それでカルティアちゃんはジーンとどういう関係?」
「だからランニングに行ってて迷子の子を拾ってきただけだっ……」
「ジーンはカルティアのパパの代わり! 今日ずっと抱っこしてもらってた!」
「ふーん」
「いや、ふーんって」
マリーナは腕組みをしながら白い目をジーンに向ける。
「ほら、カルティアちゃん、おいで」
マリーナが両手をカルティアに伸ばすと、カルティアはおとなしく抱かれる。
「カルティアちゃん、お腹空いてる?」
「うん、ペコペコ。ジーンがマリーナお姉ちゃんが美味しいご飯食べさせてくれるって!」
「ええ、もちろんご飯作ってあげるわよ。カルティアちゃん嫌いなものある」
「カルティア、きのこ嫌い。にんじんは食べれる!」
「偉いわねえ、にんじん食べれるんだ。他に嫌いなものは?」
「えーっと、他には……」
マリーナはカルティアを抱きながら食堂に連れていく。
よかったこれでようやく一息つける。
それにランニングでかいた汗を拭いてしまいたい。
ジーンはこっそりと自室へと向かった。
「びぇええええええええん!!!」
体を拭き、服を着替えて一息ついた時。
宿に突然カルティアの泣き声が響き渡る。
ジーンは急いでカルティアの元へと向かう。
食堂にいたカルティアの元へとたどり着くと、そこにはおもちゃの杖を持ったカルティアと、なぜか地面に横たわっているマリーナの姿がそこにはあった。
マリーナのおばあさん、ジェーンが椅子に座って平然とお茶を飲んでいる所から、マリーナに大事はないのだろう。
「ど、どうしたんだ、カルティア?」
「マリーナお姉ちゃんが、眠ったまま起きなくなっちゃったあー。カルティア、起こす魔法しらないーっ」
要領を得ずに混乱していると助け船がくる。
「カルティアちゃんがマリーナに眠りの魔法をかけたんじゃよ。それでマリーナが起きなくなってしまって泣けてしまったというわけじゃ」
「カルティア。大丈夫、お姉ちゃんを起こす魔法を唱えてみよう」
「うううーー。パパとママも何度、カルティアが起きてといっても起きなかっだぁーーー。お姉ちゃんも私のせいでぇーーー」
両親の亡骸に語りかけたことを思い出したのだろう。
カルティアは本気泣きする。
すると突然――カルティアの小さな体から魔力が爆発したかのように、天に向かって閃光が放たれた。
「な、なんだ今のは……?」
「……特に害はない魔法だね。気にしなくていいよ。それよりカルティアちゃん。マリーナを起こす方法をおばあちゃん知ってるんだけど、知りたいかい?」
ジェーンは魔法に詳しいのだろうか?
少し気になるが今はそれどころはでない。
カルティアは泣くを止めて、ジェーンに向かってその瞳をきらめかせている。
「知りたい!」
「お姫様は王子様のキスによって目覚めるのさ」
「王子様?」
「ほら、そこにいるだろう?」
ジェーンはジーンを指差し、カルティアの瞳の輝きが増す。
「お兄ちゃんが王子様! お姫様にキスしてお姉ちゃんを起こす!!」
「えっ、いや、ちょっと……」
「なんだい、あんたまたカルティアちゃんが大泣きしてもいいのかい」
カルティアはキョトンとジェーンの方を見た後、一瞬ニヤリとした後に、みるみるうちにその瞳に涙をためていく。
「わかった、わかったからもう泣かない」
「はい、カルティア、もう泣かない!」
カルティアは元気よく返事をして手を上げる。
「だからお兄ちゃんはお姉ちゃんにキス!」
ジーンはマリーナの傍らで腰をおろして、その唇を凝視して、ゴクリと唾を飲む。
少しずつマリーナにその顔を近づける。
もう少しでマリーナの唇とジーンの唇が重なりあいそうになる、その時――