第19話 無限牢獄
人々が完全に寝静まった真夜中のこと。
いつものようの宿のベットで、寝息を立てているジーンの姿がそこにあった。
ジーンの意識は深い眠りの夢の中へと埋没している。
気がつくとジーンは見知らぬ荒野に立っている。
キョロキョロと辺りを見渡す。
人や生き物などはいなさそうだった。
すると突如、足元にあった地面が突然消え去る。
真っ黒な空間を真っ逆さまに落下していく。
「うわぁぁあああああ!!!」
元あった景色はすっかり消え去り、いつまでも落下を続ける。
すると360度、様々な方向へ幾何学的な図形模様が次々と現れ、消えていく。
とある幾何学図形に突っ込んでいくと下方向に落ちていたはずが、いつの間にか右方向への落下に変わり。
次は上方向、次は下方向というふうに、次々と落下方向が変わり、その幾何学図形も次々と移り変わっていく。
最終的に遠くに黒点が遠くに見えたと思ったら、その黒点に吸い込まれていき――――気づくと真っ暗ではあるが不思議と夜目は効く、地平線上360度、何もない空間に尻餅をついて座っていた。
「ど、どこだここは?」
「んぼぉーぼぼぼぼぼぼぉーー」
討伐したはずのアスタロトが現れた。
ジーンは驚愕する。
「お前は倒したはずじゃ……」
「ここは次元の狭間である!」
「次元の狭間だと?」
そこでアスタロトは自らの顔の表面を掴むと、驚くことに仮面であったその顔を取り外す。
仮面を取り払った先にあるのは、真っ暗闇の深淵だった。
「我は虚無であり、深淵であり、幾千の顔をもつ狂気である。我はお前であり、お前は我である」
ジーンはアスタロトの顔の深淵から目をそらそうとするが、どうしても目をそらすことができない。
攻撃を仕掛けようともするが、先程まで手にしていたはずの剣はいつの間にかなくなっている。
「んぼぉーぼぼぼぼぼぼぉ。無限牢獄へようこそ」
ジーンはアスタロトの顔の深淵にブラックホールのように引き寄せられる。
今度はその顔の深淵の中へと引きずり込まれていった。
◇
目を開けると、そこは先程とは違った空間に降り立っていた。
そこには階段があり、階段は螺旋状に下へと下っていっている。
下を眺められるが、あまりにも底が深くて最深部を確認することはできない。
上は行き止まりだ。先に一つの立て札が立てられていた。
ジーンは立て札にかかれている文字を読み上げる。
「これより先を進むものは一切の希望を捨てよ」
どこかで読んだことがあるような文章だったが、それがなにであったかは思い出せない。
彼の中に今あるのはこの階段を走って下り進めなければならないという使命感だけであった。
なぜそのような使命感があるのかは分からない。
ただ彼は走って下り進めなければならないの思うのであった。
「あんまり下りは好きじゃないんだけどな」
そう一言呟いた後、ジーンはその階段を走って下りはじめた。
下りても下りても景色は変わらない。
螺旋階段はどこまでも続いていく。
時間間隔も狂っている為、正確にはわからないが数十分も数時間も階段を下り続けている気もする。
身体の疲れは不思議とないが、精神は摩耗してきている。
そろそろ下りるの止めようかと思ってきたその時――
ジーンの目に一つの扉がうつる。
螺旋階段はまだまだ下に続いている。
螺旋階段の下を覗くと未だにそこあるのは深淵のみである。
続けて下り続ける気になれなかったジーンは横扉に手をかけ、その扉を開く。
その扉の先に広がっていたのは、奇妙な空間だった。
規則性はなく、無機質な建造物が上下左右に立ち並んでいる。
道も縦横無尽に広がっている。
ジーンは恐る恐るその空間へと足を踏み入れる。
しばらく歩き進んでいくが一つとして同じ建物はなかった。
人の気配はせずに無音が空間を支配している。
あまりにも音がしないので無音という音が聞こえてくるような気がする。
「おーーい」
ジーンの呼び声が虚しく空間に飲み込まれていく。
返答は何もない。
とりあえずその空間を上にのぼっていってみる。
もしかしたらここは地下空間で地上がどこかにあるのかもしれない。
それともここは地上高い場所で隙間なく建物が立ち並んでいるという可能性もあるが。
最初は歩き進んでいたが代わり映えしない景色が続き、途中から走る。
ここでも不思議と疲れは感じない。
ひたすら走り、のぼり続ける。
不規則な建物がずっと立ち並んでいるが、人の気配はずっと感じられない。
一体誰がどんな目的でこんな空間と建物を作ったのだろうかと思う。
おそらく数時間くらい走り続けただろうか。ジーンは走るのを止める。
走るのを止めたのは奇妙な物体を見つけたからであった。
その空間ではじめて動作する物体を見た時には何かの生き物を見つけたのだと思った。
しかしその物体は何かしらのロボットであるようであった。
頭部に小さなモニターと足部にキャタビラが構成され、手部分は何かをつかめるような形状になっている。
ロボットは複数体いる。
途切れなく続いていた建物郡が一部途切れており、どうやらロボットたちは建物を建設しているようであった。
「……何してるんだ?」
ジーンは一体のロボットに声をかける。
頭部のモニター部分から赤色の光が発せられて点滅するが、それだけである。
何も言語などを発して応答することはなかった。
ロボットたちはジーンのことは認識しているようである。
だが、彼らはジーンのことには特に構わず建物の建設作業を継続している。
「一体なんだんだここは…………」
この果てしなく続く建物群は、このロボットたちによって建設が進められているのだろうか?
一体誰がなんの為に?
それにこの技術力は明らかにジーンが降り立った異世界の文明力より高い。
また別の異世界?
それとも別の惑星なのだろうか?
ジーンは近くに腰をおろして、しばらくロボットたちを観察する。
ロボットたちは休むことなく作業を継続している。
少しずつであるが建物が形になっていくのを見るのは面白かった。
そこでジーンは強烈な孤独感に襲われる。
それは異世界に来てからも、また転生前にも感じたことがないような強烈な孤独感であった。
唯一例えられるなら、昔に夜、高速道路を一人で車を走らせている時に感じた孤独感に似ているかもしれない。
同時に不安になる。
空腹感はなく、疲労感もない。
おそらくだが睡眠も取らなくて大丈夫なのではないかとも思う。大変便利な身体だ。
しかしそれはこの空虚な空間に、永遠に居続けられることも可能だということも意味していた。
誰とも会わず誰とも話さず。
今の段階ではそれに特に苦痛を感じている訳ではない。
それが永遠に続くかもと仮定するとゾッとする。
そこでジーンは壁の一部にうっすら、何か文字が刻まれていることに気づく。
見たことのない文字で読むことはできない。
そもそもただの文様かもしれず、意味のある言語なのかどうかもわからない。
だがジーンはこの空間の中で、はじめて意味を持つかもしれない文字を夢中で読み取ろうとする。
必死で目を凝らしてみてみる。
何か規則性はないか?
英文法、または、日本語と文法規則で似ていそうな箇所はないか?
うっすらと目視できる文字を目を凝らして見ていると、いつの間にかロボットたちが作業を止めて停止していることに気づく。
しかもロボットたちは頭部のモニターをこちらに向けて、どうやらジーンのことに注目しているようであった。
「な……何だ?」
ロボットたちは小刻みに震えだす。
何か異変が起こっていることはわかるが、それが一体なんなのかはわからない。
万が一、ロボットたちが攻撃を加えてきた時に備えて、ジーンは逃げ腰になる。
「んぼぉーぼぼぼぼぼぼぉーー」
聞き覚えのある声が響いたと思ったら、無数のモニターから一斉にアスタロトの顔が表示される。
「どうだ、地獄の居心地は? そこはお前の為の地獄だ。お前の為に限りない時をかけて作られた空間だ。存分に味わえ。存分に楽しむがいい」
「ここが地獄? それに俺の為に作られただと? そんな訳が……」
「お前の常識、物差しで我のことを図ろうとするな。その空間のこと図ろうとするな。まずは孤独と不安。次は絶望か? それとも苦痛か? 何がお前にもたらされるかはお前次第である」
そこでモニターがアスタロトから、その従者、パウラの顔へと移り変わる。
「きひひひひひひひひぃ」
パウラは独特の笑い声を上げる。
「いい気味なの。アスタロト様に逆らったお前が悪いの。無限牢獄で無限の孤独を味わうの。そこはお前の為の牢獄なの!」
「んぼぉーぼぼぼぼぼぼぉーー」
モニターはまたアスタロトに切り替わる。
「忘れるな。お前は我に囚われているということを。どこまでいっても無限牢獄からは逃げられないということを。んぼぉーぼぼぼぼぼぼぉーー」
最後モニターが消えるほんの一瞬前、モニターにジーンが認識できる文字が表示される。
【CODE:2346】
「コード2346?」
ジーンは呆然としながら呟く。
ロボットたちは何もなかったようにまた建物の建設作業を進めている。
その様を眺めている時、唐突にジーンの意識は途絶えた。
「うわぁ!!!」
ジーンはベットから飛び起きる。
着ている寝間着は寝汗でびっしょりになっている。
「ゆ……めか……」
ジーンはタオルを手にとり汗を拭う。
「こーど2346……」
ジーンは目覚めた後も覚えていたその文字列をまた呟いた。
本作をここまで読んで頂いてありがとうございます。
ここまでで第1章が終わりで、次話から魔界大戦編が始まります。
物語はもっと面白くなっていきますので、この後も続けてお楽しみ頂けると幸いです。
後、少しでも、
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