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第17話 地獄の大公爵

「んぼぉーぼぼぼぼぼぼぉーー」


 アスタロトは足元のスライムを吸収して、どんどんと2階建ての邸宅をこえる高さまで巨大化する。

 ジーンはアスタロトを見上げる。


「まさか人間如きに我が真の姿を露出させることになるは。だがこうなったらもう終わりである。お前を倒した後はこの町ごと飲み込んでやるわ!」


 アスタロトの肉体は紫色のゼリー状に変色して煌めいている。

 彼の巨大な手が網のように広がり、ジーンを捕らえようとする。

 ジーンはそれをなんども斬りつけて防ぐ。

 アスタロトの肉体は毒だけでなく強力な酸の効果も付与されたようで、飛び散った毒は周囲の地面を溶かす。

 危なかった。


「痛っ」


 剣で防いだ時に飛び散った毒酸がジーンに飛び散り、その身体を少し溶かす。

 すべて防いだと思っていたが見逃しがあったようだ。


「ぐふふふふふふふふっ。この姿を見られた以上、貴様らは骨まで溶かして我が養分としてやるわ!」

「何者だお前は?」

「我は地獄の支配者の一人、大公爵アスタロト様である。たかが人間風情、頭が高いわ!!」


 今度アスタロトの手は巨大な鎌状に変化して、ジーンの首を刈るように横薙ぎにはらわれる。

 ジーンは咄嗟にしゃがんでその攻撃を躱す。


「悪魔ってことか……じゃあ遠慮する必要はないな!」

「むふぅー、なんだその口ぶりは。人間如きがまるでまだ全力ではないとでもいうような。さっさとそこの小娘と同じようにその顔を絶望に染めろぁ!!」


 今度、アスタロトの腕は無数の鞭へと変わり、ジーンに襲いかかる。

 ジーンはその攻撃の一部は躱し、一部はその剣によって斬り防ぐ。

 凄まじい攻撃スピードで最早リディアではその攻防を目で追うことはできない。


 どんどん地面や邸宅を囲んでいた塀などもアスタロトの攻撃によって溶かされていく。

 四方八方から迫りくる凄まじいスピードの攻撃であるが、防げないことはない。

 毒カエルとの戦闘が役に立っていた。


「ぐむぅー、なぜ人間風情が我が攻撃を防げる! なぜ我が毒酸を食らって死なない!! 例え一滴でも地獄の毒池を住処にするような魔獣も殺すような毒酸であるぞぁ!!」


 アスタロトが苛立ちを隠さなくなった時、ジーンが持つ剣の輝きが増す。


(ここで決める!)


 ジーンは密かに決意する。

 剣へ供給している魔力量を増やす。

 同時に攻撃スピードのギアも上げる。


 余りの攻撃スピードにジーンの周囲からはいくつか旋風が発生しだす。

 アスタロトは当初の余裕の表情から必死な表情へと変わっている。

 全力でジーンに攻撃を加えようとするがその鞭攻撃はすべて防がれる。

 それどころか聖剣の効果を浴びた剣に、アスタロトの鞭とその体は徐々に切り消されている。


「馬鹿なぁ! 人間如きが!! たかが人間如きがぁ!!」


 ジーンは攻撃の手を緩めない。

 鞭をすべて切り結んだ後には、今度はアスタロトの下半身に数え切れないような斬撃を加える。


 ジーンの剣の輝きがさらに増す。

 輝く剣を、目にも止まらぬスピードで次々に斬りつけることによって、リディアにはアスタロトの体が光に侵食されていっているように見える。

 光がアスタロトを押している。

 彼女はどこか現実感がないような気持ちで、その奇妙な攻防を眺めている。


 ジーンの攻撃によってアスタロトはその肉体を失い、どんどん小さくなっていく。


「ぐむぅー、ぐぞぅおおおおおおお!!!」


 アスタロトはその手を無数の斧状に、剣状に、槍状に変化させてジーンを攻撃するが、すべてその攻撃はジーンによって斬り潰される。


 ついにアスタロトは元の人間と同じくらいの大きさになる。


「や、止めろ! 止めてくれぇ!! 我は地獄の大公爵であるぞぁ!!」


 もはやアスタロトはジーンに攻撃を加えることもなく、恐怖の表情を浮かべて懇願する。


 ジーンは一瞬躊躇するが、スライムを吸収するような悪魔だ。

 完全に殲滅するまで安心することはできない。

 ジーンはその懇願を無視して更に斬り刻む。


「ぐぞぉおおおおおお!! 人間如きにぃ!!! たかが人間にぃ!!!!」

 

 すると最終的にアスタロトは霧状にまで斬り結ばれる。

 そこまでに至ってようやくジーンは攻撃の手を止める。


 カチンと愛用の剣を鞘に収める音が辺りに響く。


「まさか…………この私が…………」


 最後には聞こえるか聞こえないかというような音量の声がどこからか発せされた後、その紫の霧は霧散していく。

 それと同時に町を覆っていた毒霧も消えていき、臭かった空気も正常なものへと変わっていく。


「終わった……勝った……信じられない……」


 リディアはヘナヘナとその場にへたり込む。

 魔力は枯渇して、後もう少しでゼロになる所であった。

 自分たちがまだ生き残っていることを信じられなかった。


「大丈夫ですか?」


 ジーンはリディアの方へと駆け寄り声をかける。


「あ、はい、私は……」


 そう述べた後にリディアはグレンとグリシャに目を向ける。

 彼らは昏倒しているが、血色もよく問題なさそうだった。

 ジーンもそのことを――命に別状はなさそうであることを確認する。


「それじゃ、俺はこの辺りで……」


 戦闘が終わった今、ジーンの頭にあるのは平原に残してきたマリーナのことだけだった。

 リディアの返答を待たずにその場から走り去る。

 

「えっ、ちょっと待っ……」

「すいません、ちょっと待たしてる人がいるんで!」


 ジーンは後ろを振り返って、大きな声でリディアに声をかける。

 その後、走り去ってゆく。

 それをリディアは呆然と見送る。


 リディアにグレン、グリシャ。

 世界的に見ても屈指のメンバーと言ってもいい3人。

 その3人を遥かに凌駕するような悪魔界の支配者アスタロト。

 そのアスタロトを倒してしまった見知らぬ男性。

 確かランナーとか言っていたが……。


 リディアはすぐに現実が受け止められない。

 戦闘後の昂揚もあって、しばらくの間、ぼーっとその場で呆けていた。



 ◇


「ごめん、待たせてしまって!」


 ジーンが駆け寄る姿を確認すると、マリーナはその顔を歪ませて瞳に涙を溜め、近づいてきたジーンに抱きつく。


「…………無事でよかった……。時間がかかっていたからもしもと思って……」

「ごめん、遅くなって」


 ジーンはマリーナを優しく抱きしめる。

 彼の胸に温かな、なんともいい難い感情が溢れ出す。


 しばらく二人は抱きしめあった後――


 唐突に二人は離れた後、お互いに顔を少し赤く染めていた。


「一体何があったの?」

「えっとね……」


 ジーンはマリーナと宿に戻りながら、自身が経験した信じがたい体験を説明していく。


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