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第16話 ただのランナーですけど

 ジーンは走ってきた為、息切れしている呼吸を整えながら、ゆっくりと彼らに近づく。

 

 倒れている二人の男性。

 一人の女性と向き合うようにしている中年の男性と少女。

 お互い手傷を負っているように見える。

 喧嘩でもしているのだろうか?

 それに中年の男性の足もとにあるゼリー状の物体はなんだろう。


「んまぁ、なんでただの人間が毒霧の中、平気な顔をしているの……」


 突然その場に現れて平然としているジーンに、パウラだけでなくリディアからも驚愕の視線が向けられる。


「毒霧? ああ、たしかにちょっと臭いな」


 ジーンはクンクンと鼻をかぎながら答える。


「とぼけているのなら大した役者なの」

「別にとぼけてはいないけど…………喧嘩か? 喧嘩なら止めよう!」

「喧嘩の仲裁に来たとでもいうの? 舐めていると承知しないの。んま゛ぁ!!」


 音魔法により衝撃波がジーンに向かって放たれるが、音速の衝撃波が訪れる前にジーンは耳を咄嗟に塞ぐ。


「うあぁ、びりびりきた。…………凄い大きい声だな。興奮しないで冷静になってくれ」


 耳から手を離したジーンは無傷であった。


「無傷……お前、一体何者なの?」


 そういうとパウラはまた唸り始める。

 額には青筋が走り、顔は真っ赤になっていく。


「気をつけて! 強力な音弾が――」

「んま゛ぁーーーーーー!!」


 リディアの忠告が終わる前に巨大な音弾がジーンに放たれる。

 先ほどグレンを無力化したより更に大きく強力な音弾だった。


「わぁああああ!!!」


 その音弾が到達する直前にジーンは非常に大きな声を上げた。

 すると音弾はその声の衝撃で離散する。


 パウロは口を大きくあけて驚愕の表情でその様を眺めている。


「肺活量には自信があるんだ。大きな声対決では負けないぞ」


 音魔法自体を知らないジーンは勘違いして見当違いのことを述べる。


「ほ、ほんとに何者なの? 音魔法を声で相殺されたのははじめてなの。しかも最大出力の音弾を……」

「名はジーンだ。ランナーをしている」

「ラ、ランナー? そんな役職はじめて聞いたの」

「役職ではなく、趣味だ。ランニングする人をランナーという」

「ランニングを趣味? 何が楽しくてそんなことを…………んまぁ、そんなことはどうでもいいの! まだ邪魔するならぶち殺してやるの!」

「そんな汚い言葉を使っちゃだめだぞ、お嬢ちゃん。後ろにいる人がお父さんか? それともおじさんか?」

「な、な、な…………」

「ななな?」


 ジーンの目にパウラはまだ年端のいかない少女に見えている。


「舐めるんじゃないの!!!」


 パウラは激高して両手から漆黒の輝きを放ちながら殴りかかる。

 ――がジーンは一瞬でパウラの背後へ移動して首筋へ手刀を放つ。


「なっ!?」


 首元を抑えたパウラは背後にいるジーンを驚愕の表情で振り返ると――そのままバタンと倒れかかって気を失う。

 パウラを受け止めたジーンは彼女を優しく地面に寝かせる。

 少しの時間、辺りを静寂が支配する。


「…………え、一撃? グレンとグリシャがあれほど疲弊して、手こずった相手を?」


 現実を受け止めきれないといった感じでリディアが述べる。


「聞き分けのないこどもには、時には心を鬼にして教育しないといけない時もある。さあ…………お父さんでよかったかな? もう喧嘩は止めよう!」

「ぐふふふふふふふふっ」


 不気味な笑い声をアスタロトはあげる。


「何がおもしろいんだ?――ってうわっ!!」


 先ほどグリシャを戦闘不能にした毒スライムによる一撃がジーンに放たれるが、咄嗟に躱す。

 危なかった。だが攻撃スピードは毒カエルの舌攻撃ほどではない。


「な、なんだ? 危ないなあ、スライムか?」


 アスタロトの足元で平状に広がった紫色のスライムから連続、同時に先端を槍状に尖らせた攻撃が放たれる。

 ジーンは素早くその攻撃を躱す。

 余りの攻撃スピードに途中から躱しきれなくなり、背中の剣で咄嗟に攻撃しながら躱す。

 無数に現れて、舌攻撃をしてきた毒カエルの魔物の攻撃を捌くのと似た要領であった。

 いくつか毒スライムの攻撃が体をかすり、ただれさせるが一瞬でジーン自らによって常時発動されている回復魔法で回復される。

 その様を見ていたリディアが怪訝な表情で述べる。


「攻撃食らってるのになんですぐに回復……? 私はあなたに回復魔法をかけてないわよ……」


 返答する余裕が今のジーンにはない。

 防戦一方で矢継ぎ早にされる攻撃を防ぐのに精一杯だ。


 ジーンの剣が突如輝きはじめる。

 その剣で毒スライムを攻撃すると、切断部が焼きだだれてその攻撃部分は動かなくなっていく。

 攻撃が通ることを確認したジーンは、アスタロトに近づき、毒スライムを次々と斬り潰していく。


「まさか…………聖剣……?」


 リディアは信じがたい光景を眺めながら小声でそう呟いた。


 ジーンが手にしている剣、それは――――聖剣などではなく、どこででも売っているような鋼鉄の片手剣だ。

 ではなぜジーンの剣が光り輝き、物理攻撃の耐性をもっているスライムに攻撃を加えられるのか。


 ジーンは試しに剣にも常時回復をかけてみた。

 その強い回復効果は魔法剣となり、リディアが指摘したように伝説の聖剣と同じような効果を帯びていたのだった。


 切り刻むたびに消滅していくスライムは、ドブを綺麗に掃除をしているようで気持ちいい。

 アスタロトの足元の毒スライムは、みるみるうちにその体を小さくしていく。

 

「むふぅー、お前は何者だ? 天界から派遣されてきたものか? 神の、または魔の眷属か?」

「天界? 何者の眷属でもない。ちょっとお父さん落ち着いて!」

「誰がお父さんであるかぁ!!」


 足元のスライムを吸収してアスタロトは巨大化していく。

 そこでようやくジーンはアスタロトが人間でないことに気づく。


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